263 - 「遠足の行先」
掌の
すると、異変に気付いたララが心配そうに声を掛けた。
「ど、どうしたのかしら? 壊れちゃったのよ」
皆が心配するも、妨害の可能性も想定していたマサトはあまり動じていなかった。
それよりも、時の秘宝がまだ存在していたことに対する安堵感の方が大きかった。
「相手に気付かれてしまったみたいだが、盗まれた物は見つけた」
「何が見えたのか、詳しく教えてくれるかしら」
マサトが見えた光景を簡単に説明する。
内装は水色の硝子のようで、遺物と宝石類が積み上がっている宝物庫らしき場所だ。
すると、それを聞いたララが興奮した様子で断言した。
「やっぱりそうなのよ!」
「心当たりがあるのか?」
「ウォリングフォード大宝物庫で間違いないかしら! 帝都の神聖地区にあるのよ!」
そう息巻くララに、キングも続く。
「やっぱあそこか。だがそうなると簡単には奪えねぇぞ? 神聖地区は教徒しかいない上に、あの大宝物庫はアリス教の中でも選ばれた者しか立ち入れない聖域で厳重に管理されてるからな」
「それだけじゃないかしら。ウォリングフォード大宝物庫は、宝物庫全体が強力な防護魔法が込められた水晶でできているのよ。魔法でどうこうできる場所じゃないから余計に厄介かしら」
ララとキングはそう忠告するが、実物を見たことのないマサトには、その場所がどれ程厄介なものか今一理解出来ずにいた。
「
マサトがそう言い切ると、ララも納得して考え始める。
そんなララへ、マサトはふと気になったことを聞いた。
「ララが探してる
ララの希望は、アリスの洗脳を解くこと。
それには、その元凶である
問題は、それが保管してある場所だ。
「そうなのよ。同じ場所にあるはずかしら」
「分かった」
奇しくもララと目的の場所が合致した。
これも何かの巡り合わせなのかと、マサトは帝都に攻め込み、目的の物を奪還する様子をイメージする。
だが、結局は強行突破、総力戦になる未来しか描けなかった。
(やることは最初から変わらないか)
マサトがその黒い瞳に仄暗い薄紫の炎を宿したままキャロルドへ視線を向けると、キャロルドは大袈裟に驚き、緊張で身体を硬直させた。
「な、なな何だな? せ、先生にその目で見られると、こ、怖いんだな」
「悪い。そんなつもりはなかった。この周辺にあるダンジョンについて詳しく知りたい」
「ダ、ダンジョン? そ、それならお安い御用なんだな」
急にダンジョンのことを聞いたため、キャロルドだけでなく、ララやキングも驚いたようだ。
「セラフがダンジョンに興味があったなんて意外なのよ」
「それな。なんで急にダンジョンなんてもんに興味持ったんだ?」
「大層な理由はない。こちらの準備が整うまでの暇潰しだ。強いモンスターや
マサトがそう告げると、ララとキングが呆れた様子で言葉を返す。
「そんな軽い理由でダンジョンへ行く命知らずはいないかしら」
「いやいるだろ……目の前に1人」
「そうだったのよ……」
「……? まずは説明してくれ。この辺にダンジョンはないのか?」
「い、今教えるんだな!」
マサトに急かされたキャロルドが、港都市コーカス周辺のダンジョンについて説明する。
キャロルドが挙げた攻略可能なダンジョンは4つ。
西の岩場にある攻略難易度Dの「石の塔のダンジョン」。
北東にある攻略難易度Cの「麦のダンジョン」。
北にある攻略難易度Bの「青髭のダンジョン」。
北西にある攻略難易度AAの「眠りの森のダンジョン」。
だが、その内の2つ「麦のダンジョン」と「青髭のダンジョン」は、コーカス周辺と呼べる程近くにはなかった。
すると、意外にもパークスが口を挟んだ。
「石の塔のダンジョンはお勧めしません」
「ど、どうしてなんだな?」
キャロルドはそう聞き返すも、すぐに何か思い当たったのか顔を輝かせた。
「も、もしかして最近、石の塔のダンジョンが踏破されたという噂は……」
「私とヴァートが階層主を倒したからでしょうね」
パークスがそう言うと、ヴァートが顔をにんまりさせながら頷いた。
そんなヴァートを見て、マサトが素直に感想を口にする。
「ヴァートが。それは凄い」
「へへっ」
マサトに褒められたヴァートが、心底嬉しそうにしながら照れる。
ララ、キング、アタランティスも攻略難易度Dとはいえ、たった2人で攻略したという実績を大いに称賛した。
パークス曰く、石の塔のダンジョンの階層主は、顔と性格の醜い魔女と魔術師の亡霊で、状態異常や精神攻撃を駆使してくる嫌らしい戦いになるとのことだった。
そして、その苦労の末に手に入れた宝というと――。
「1つは、ハンスの派手な上着という装備品でしたが、これは私達の趣味に合わないものだったので、ここコーカスで既に売却しました。もう1つはヴァートが身に着けています」
パークスに促されたヴァートが、首元の服の中から金の首飾りを取り出して見せた。
「こ、これは! もしかしなくても、マレーン姫の金の首飾りなんだな!?」
「ちょ、ちょっともっと良く見せるかしら!」
興奮したキャロルドとララがヴァートに詰め寄る。
ララが手際よく鑑定すると、強力な精神攻撃耐性が付いた
「う、売って欲しいんだな!」
「や、やだよ!」
「いい加減、少しはその物欲を自制するかしら! だんだん鬱陶しくなってきたのよ!」
「んごご!?」
ララが魔法でキャロルドの口を封じると、焦ったキャロルドが足をもつれさせて床に転がり、それを見たキングがバッハハと笑う。
ふざけ合うララ達を余所に、マサトが興味本位で尋ねた。
「ハンスの派手な上着という装備品にはどんな性能が?」
パークスが答える。
「あれは、鋼鉄をも凌ぐ強度をもつ優秀な軽装備でしたよ。ただ、その名前の通り、見た目がとても派手で、敵の注意を引き付けてしまう効果が付いていました。軽装備なのに、
「なるほど。人目に付かないように旅をするには不要な品だ」
「そうですね。良い金にはなりましたが」
ダンジョンには、ボスを倒しても一定期間を経て再び復活するタイプのものと、ボスを倒したらダンジョンごと消滅してしまうタイプが存在する。
パークスとヴァートが攻略した石の塔のダンジョンは、前者の復活するタイプのダンジョンである。
傾向としては、攻略難易度が低いものほど復活する傾向にあり、攻略を繰り返せる分、入手できる報酬の価値も法外にはならない。
だが、
「石の塔には行っても収穫はなさそうだ。それなら眠りの森の方に行く」
マサトがそう発言すると、ララとキングがギョッとした。
キャロルドも床に転がりながらマサトを見て硬直している。
「ほ、本気で言ってるのかしら」
「おいおいララ。セラフは冗談を言うような奴だったか?」
「言わないのよ……」
「何か問題が?」
マサトの言葉にララが呆れつつも答える。
「セラフ、あなたは何を聞いていたのかしら。攻略難易度AAっていうのは、AAランクパーティ以上でなければ攻略できないという意味なのよ。それは実質、攻略不能と言ってるようなものかしら」
キングも話に加わる。
「物覚えの悪い俺でも、さすがにAA級の眠りの森のダンジョンのことは知ってるぜ? これまでも名高い冒険者達が何度も挑戦したが、完全攻略までは至っていない不落のダンジョンだ。ダンジョン内では、AAランクに匹敵するほどの凶悪な魔女が複数人で城を守ってるらしい。難攻不落とはいえ、惜しいところまで成果をあげた者もいたって事実もあるにはあるけどな」
一度だけ、
結果は、攻略失敗。
だが、全滅した訳ではなく、
問題は、その代償がそれ以上に大きかったことだろう。
無事に宝を持ち帰ることができたのも、クランの支柱であったAAランクの呪術師ショウズが、自身を生贄にした禁術を行使してギリギリ勝ち取ったものであり、本来であれば全滅していたほどだったという。
支柱を失った
以降、挑戦する者は消え、長い間放置されていたというのだ。
「暇つぶしにいくような場所じゃないかしら」
ララはそう言ったが、逆にヴァートは目を輝かせていた。
「と、父ちゃんが行くならおれも行ってみたい!」
「おいおい、そんな楽しい場所じゃないぜ? 親子でどっか遠足に行きたいならもっと良い場所があるだろ?」
キングの言葉に、マサトが「遠足か……」と呟く。
少しは親らしいことをしてあげたいという気持ちが込み上げたのだ。
マサトの心情の機微に気付いたのか、アタランティスがその気持ちを後押しする。
「オレはセラフに付いていくぞ!」
「私はヴァートが行くところに付いて行きますよ。場所は貴方にお任せします」
パークスはAA難易度のダンジョンでも然程気にしていないようだ。
それがマサトの決め手となる。
「じゃあ行ってみようか」
「えっ!? マジかよ」
「セラフはララの話を聞いていたのかしら!?」
キングが驚き、ララが危険だと怒るも、マサトの考えは変わらなかった。
「危険だと感じたらすぐ引き返す」
その言葉にララがやれやれと溜息を吐きながら折れる。
「仕方ないかしら。分かったのよ。心配だからララも付いていくかしら」
「ったく、仕方ねぇな。俺も付いていくよ」
こうして、マサト達の行先が決まった。
場所は、コーカスの北西。
眠りの森のダンジョンだ。
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▼おまけ
【UC】 マレーン姫の金の首飾り、(1)、「アーティファクト ― 装備品」、[精神攻撃耐性Lv3][装備コスト(0)][耐久Lv3]
「光の届かない塔の中に7年間幽閉されたマレーン姫の強き心が宿った首飾り。それを身に着けた者は、マレーン姫の恩恵を受けることができる――グリム恩恵品大全、第百九十八」
【C】 ハンスの派手な上着、(2)、「アーティファクト ― 装備品」、[装備補正+0/+2][存在感アピールLv1][装備コスト(0)][耐久Lv3]
「高い金払って買った甲斐があったね! 性能も申し分ないし、何より最高に目立つ! まさしく、アタシの為に作られた装備品って感じじゃん!?――
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