262 - 「水晶の宝物庫」
二人の魔法使いが、青い水晶で出来た螺旋階段を降りる。
足を下ろす度、上質な魔法皮で作られた靴の底が水晶の床にぶつかり、木琴で奏でたような柔らかい音が響くと、音の振動は、水晶で出来た壁に反響して美しい音色へと変わった。
一人が陽気にステップを踏む。
すると、それに合わせるようにして、もう一人が控えめに続く。
それぞれが発生させた音色は、複雑に絡み合い、一つの旋律を奏でる。
いつの間にか、自然と二人の魔法使いの表情にも笑みが溢れていた。
この水晶の螺旋階段は、アリス教の教祖であるリデルと、その相棒とも言えるニニーヴが、悠久の時を少しでも楽しく生きるために遊びで作ったものだ。
長い眠りから目覚めた二人は、鈍った身体の準備運動も兼ねて、毎度こうして伴奏を楽しむのだ。
だが、その音が突然ピタリと止んだ。
リデルとニニーヴが異質な気配に気付き、同時に足を止めたためだ。
「何かいるな……いや、突然何かが現れたと言うべきか」
「まさか……ここの下には宝物庫しかないのですよ? 何重にも掛けた魔法障壁を擦り抜けて侵入したとでも言うのですか?」
「だが事実だ。ニニーヴも気付いているだろ?」
「俄かには信じ難い話ですが……はい。一体何者の仕業でしょうか」
「確かめに行かねばな」
魔法で姿を消したリデルとニニーヴが、水晶で出来た扉をゆっくりと開ける。
(解錠された様子はなかった。となると、この宝物庫の中に突然現れた線が濃厚か。これはまた厄介そうだ)
リデルがそう推察しながら宝物庫の中に視線を向けると、空中に浮遊している何かに気付いた。
「あれか……」
「
「あの目玉から他へ繋がるような
淡い光の粒子を散らした梟の目玉が、ふわふわと空中を彷徨いながら宝物庫の中を物色している。
キョロキョロと視線を泳がせていた目玉だったが、とある
「あの青い宝石が狙いか……? 中々センスが良いじゃないか」
「それで、相手の狙いが分かった後はどう対処するつもりなのですか?」
「何、ここからはシンプルだ。こうするだけだよ」
リデルが素早く
穴の空いた目玉は光の粒子となって霧散。
同時にリデル達が感じていた異質な気配も消えてなくなった。
「はは。何か少しでも痕跡が残ってくれれば助かったが、完全に消えてしまったな。やりおる」
「何か心当たりは?」
「さて、心当たりがあり過ぎて分からないというのが正直なところではあるが、少なくとも犯人はこれの存在を知っている者だろう」
リデルが数ある宝の山の中から青く輝く宝石を拾い、天井の水晶から降り注ぐ光にかざして観察する。
「これは鑑定不能品の方か。さぁて、一体これにはどんな秘密があるんだろうな?」
この宝物庫に収められている
名目上は国の所有物となっているが、その管理は帝都を陰で支えるアリス教団が仕切っている。
そして、この水晶の宝物庫よりも守りが厳重な宝物庫は帝都に存在しない。
「困った困った。目覚めて早々これか。この場所では安心出来なくなってしまったぞ」
「防護魔法を一から見直す必要がありそうですね。ここの魔法形式も数十年更新してませんし」
「うーむ、それでも不安は拭いきれないだろうな」
「だとしたらどうするつもりですか?」
ニニーヴの問いに少し悩んだ後、リデルは悪戯を思い付いた子供の様な笑みを浮かべて言った。
「名案が閃いたぞ。誰にも攻略出来ない場所が、まだ帝都にはあるじゃないか」
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▼おまけ
【SR】 水晶の宝物庫、0/5、(青×2)(1)、「モンスター ― 建物」、[隠匿Lv3][魔法障壁Lv5][(青):魔法反射][耐久Lv5]
「大抵の盗賊は宝を洞窟の中へ隠す。高尚な魔法使いは宝物庫ごと水晶の中に隠す。リスクもリターンも後者の方が断然高い――盗賊ギルドの頭目、不死身のカンダタ」
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