261 - 「キャロルド邸へ2」
「さ、最初からおかしいと思っていたんだな!」
マサトから
危うく金や領地、それこそ全財産を根こそぎ奪い取られるところだったのだ。
その怒りは皆も共感できるものだったが、それも最初だけだった。
恨み辛みを吐き出し始めるキャロルドの話を聞いているうちに、それがキャロルドの商才のなさと、卑しい欲が招いた結果だったと気付き始めた一同は、鼻息荒く
「ライオスやユニコスの爺達が
キングが忌々し気に話すと、ララも続いた。
「さすがに浮島の民全てを洗脳した状態で、誰も気付かないなんてあり得ないのよ。きっとヘイヤ・ヘイヤと繋がりの濃いハッタ・ハットもグルかしら」
「帽子屋か……もしそれが事実なら親父や姉貴も……」
キングが瞳に仄暗い光を宿しながらも、真剣な表情でマサトに問う。
「俺に相談って話もそれ絡みなんだろ?」
「そうだ」
「だよな。勿論、端から協力するつもりだったが、一つだけ確認させてくれ」
「なんだ?」
「お前の進む道に、帝国の全てが立ちはだかったら、お前はどうする?」
「俺は奪われたモノを取り返す。それを邪魔するなら排除するだけだ」
「もし、それがお前の大切な仲間だったら?」
その質問に、マサトが違和感を感じる。
「……何か知っているのか?」
「いや、もしもの話しだ。セラフの覚悟がどれ程のものか知っておきたくてね」
そう告げながらキングは笑ってみせたが、口元だけで目は真剣なままだった。
少し考えた後、マサトが口を開く。
「俺の目的は変わらない。立ち止まる気もない」
少しの揺らぎも見せなかった眼差しに、キングは口の端を上げた。
「そこまで覚悟してんなら文句なしだ。良いぜ」
キングがいつもの調子に戻る。
いつの間にか場に張り詰めた空気が流れていたようで、それまで独り言を呟いていたキャロルドも、額に冷や汗を浮かべながら2人の様子を見守っていた。
「おっと悪ぃ。空気悪くしちまったな。で、俺は具体的に何をすればいいんだ?」
「詳しくは
「
「そうだ」
「おい聞いたかララ! あの船に乗せてくれるってよ!」
「それは楽しみかしら! どんな魔法で強化されてるのか気になっていたのよ!」
キングとララが乗り気になっていると、パークスがヴァートへ声をかけた。
「ヴァート、あなたはどうしますか?」
「うっ……」
口籠るヴァートをキングが揶揄う。
「なんだ坊主、まさか空飛ぶ船が怖いのか?」
「ち、違う! 自力で空飛べるのに空が怖い訳ないだろ!」
「じゃあなんだ? 何か乗りたくない理由でもあるのか?」
「それは……その……」
それでもはっきりしないヴァートに、パークスが軽く溜息を吐いた。
「きっと些細なことです。どうせフェイトに会いたくないとか、そんなところでしょう」
「別れた恋人とかかしら」
ララの疑問にヴァートがギョッとし、何か反論する前にパークスが回答した。
「いいえ。ヴァートの腹違いの姉ですよ」
「違う! あいつは妹!!」
顔を真っ赤にさせたヴァートがそう反論すると、パークスは「またそれですか……」と頭を抱えた。
キングとララが何故そこまで反発するのか分からず言葉を失っていると、兄弟喧嘩を不憫に思ったアタランティスが助け舟を出した。
「オレも兄弟が多いから気持ちは分かる。もし会うのが恥ずかしいなら、無理してまで乗る必要はないのではないか? 話し合いの内容だけ後で共有する形にすれば……」
「は、恥ずかしい訳じゃ」
ヴァートがアタランティスの言葉を訂正しようとするも、パークスは構わず話を進めた。
「元々、私とヴァートは彼女らとは別行動でしたし、ここへは戦争をしに来たのではなく、ヴァートの父親探しが目的でした。無理に付き合う必要もないでしょう」
「し、師匠。で、でも父ちゃんを連れて帰らないと母ちゃんが……」
「それなら――全てが済んだら一緒に帰ると約束したらどうですか?」
パークスに促されたヴァートがマサトに話しかける。
「と、父ちゃん。ここでの用事が終わったら一緒に母ちゃんのところまで帰ってくれる……よね?」
不安そうに、探るような眼でマサトを見上げると、マサトは少しだけ悲し気に微笑んだ。
「ああ、一緒に帰る。全てが片付いたら、皆の様子を見に行くよ」
マサトの言葉に、ヴァートは満面の笑みを浮かべて喜び、キング達も釣られて笑顔になる。
「良かったな坊主」
「希望があれば、契約の
「親子の愛って素晴らしいな。オレもセラフに付いて行くぞ」
「ちょ、ちょっと待つのよ。アタランティス、あなた本気で付いて行く気かしら?」
「オレはセラフに命を助けられた。恩は返したい」
「そ、そう。勝手にするのよ」
話が一段落したところで、マサトが壁際で一人呆けていたキャロルドに本題を切り出す。
「
「わ、分かったんだな! 今すぐ持って来させるんだな!」
キャロルドが部屋の外で控えていた執事を呼び出し、
暫くして執事が2つの
1つは空の小瓶。
もう1つは動物の目玉だ。
【UC】 不思議な小瓶、(3)、「アーティファクト ― 瓶」、[(1):薔薇色の不思議な水を精製][精製上限5][耐久Lv1]
【R】
「こ、これが約束の品なんだな。大切に扱って欲しいんだよね」
キャロルドが名残惜しそうに机の上へ置く。
マサトは小瓶を手に取ると、すかさずマナを込めた。
小瓶が淡く輝き、皆が驚く。
「おいおい、またセラフが何か面白そうなことし始めたぞ」
「小瓶に赤い透明の水が出てきたのよ!」
キングとララがそう呟き、皆の視線が薔薇色の液体が生成された小瓶に注がれる。
「ララ、これを鑑定してほしい」
「任せるのよ! 早く貸すかしら!」
好奇心に目を輝かせたララがマサトから小瓶をひったくるようにして受け取ると、すかさず鑑定してみせた。
「これは1時間だけ身体を小さくする効果のある水かしら。あと、力もなくなってしまう代わりに、他の状態異常を無効化してくれるみたいなのよ」
「へぇー、元から小っちゃいララが飲んだら消えてなくなっちまう水か。そりゃ面白ぇ」
「どのくらい小さくなるかは飲んでみないと分からないのよ。だから、キングに飲ませて試すかしら」
「ばっ!? 止めろ! 来るな!!」
(身体が小さくなる水か)
すると、キャロルドが未練がましく呟いた。
「そ、そんな凄い水を作れる
「何を言い始めたかしらこのぽっちゃりは」
「か、価値が分かっていたらもっと大切に扱ったんだな。こんな簡単に手放すこともしなかったんだよね」
今更図々しくそんなことを言い始めたキャロルドに、ララが鼻息荒く詰め寄ると、怯えるキャロルドへ向かって言い放った。
「この
「おいおい、それ本当か?」
「この小瓶の耐久値が低いせいなのよ。無理すると壊れてしまう消耗品の
「ってことは、試したのがセラフじゃなかったら、水を生成できなかったか、壊しちまっていたってことか。そう考えると、むしろ今まで壊されずに残ってたことの方が奇跡な気がしてくるな」
ララとキングの話しに、キャロルドが再び肩を落とし、ヴァートとアタランティスは尊敬の眼差しを向ける。
マサトはキャロルドの欲深さに呆れたが、些細なことだとすぐ気持ちを切り替えた。
(本題はこれだ)
(これで時の秘宝の在り処が分かれば……)
時の秘宝をイメージしながら、ゆっくりとマナを込める。
すると、マサトの脳裏に映像が薄っすらと浮かんできた。
(ここはなんだ……? 水晶でできた……宝物庫か……?)
――――――――――――――――――――
▼おまけ
【UC】 薔薇色の不思議な水、(1)、「アーティファクト ― 消耗品」、[1時間限定:身体縮小、能力0/1化、他の状態異常無効化][耐久Lv1]
「クソッ! 兎人族用の扉かよ! あれさえあれば、こんな小せぇ扉すぐ通り抜けられたんだが――盗賊ギルドの頭目、不死身のカンダタ」
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