260 - 「キャロルド邸へ」
紅蓮の翼を広げた男が、潮風の流れに乗って空を泳ぐ。
目的地は、港を一望できる丘の上に建てられた豪邸だ。
男が玄関を無視して中庭へと直接降り立つと、それに気付いたメイド達が慌てて主人を呼びに行った。
そんなメイド達の動揺に脇目も振らず、
「父ちゃんっ!!」
「やっぱりここに居たか」
少年の名はヴァート。
ヴァートは、マサトの前まで駆け寄ると、何かを躊躇うようにして急に立ち止まった。
父親へ抱き付くのに恥じらいを感じたのだ。
そんな不器用なヴァートを愛おしく感じたのか、マサトが少しぎこちない動きでヴァートを抱き締めると、ヴァートは一瞬戸惑った後、力強くハグを返した。
「お、お帰りなさい!」
「ただいま」
「へへ」
照れながらも嬉しそうに笑みを浮かべたヴァートがマサトから離れる。
すると、緑色の長髪と狼耳が特徴的な女性が尻尾をブンブンと振りながら駆け寄ってきた。
「オレはセラフが必ず戻ってくると信じていたぞ!!」
そう言ってマサトへ飛び付くように抱き付いたのは、
アタランティスは少しだけ顔をマサトの身体から離すと、瞳を潤わせながら話を続けた。
「一族の仇の一つを取ってくれてありがとう……」
マサトはアタランティスのために
だが、マサトはその事を口に出さず、「ああ」とだけ返事をした。
アタランティスが満面の笑みで頷く。
「オレに出来ることがあれば何でも言ってほしい。オレはセラフの力になりたいんだ」
すると、顔を赤くしたヴァートが動揺しながら口を挟んだ。
父親が母親とは違う女性と抱き合う光景を受け止めきれなかったようだ。
「ちょ、ちょっと2人とも子供の前だぞ? 少しは控えてくれよ」
「おっと、すまない。そういうつもりはなかったんだ」
アタランティスが苦笑いしながらマサトと距離を取ると、
ボブに切り揃えた髪を、後ろでちょこんと束ねた
「チッ、2人に先を越されたのよ」
「んなことで張り合うなっつの。よっ! セラフ。ようやく帰ってきたか」
いつもの軽い調子で手を上げるキングに、マサトも少しだけ頷いて応じる。
「後で話がある」
「俺に?」
意外な顔をしたキングに対して、マサトに言葉を貰えなかったララが不満気に口を挟む。
「ララは凄く心配したかしら」
「おいおい、セラフなら大丈夫だって息巻いてたのは誰だよ」
「キングは黙るかしら! 一言でも伝言を寄越してくれたら良かったのよ」
「その気持ちは分からんでもないが……そう責めてやるなよ。セラフも大変だったんだろ?」
「悪い。昨日は色々と立て込んでいた」
「だろうよ。まぁ昔の仲間との再会もあっただろうし、仕方ねぇさ。気にすんな」
口を膨らませて拗ねるララを余所に、帝国の元王子とは思えぬ気遣いを見せるキング。
「しっかし、まさか浮島まで墜としちまうとは思わなかったけどな。あの時は、驚きを通り越して呆れたぜ」
「あの空飛ぶ島が落ちてきたとき、すっごい爆風だったんだよ!? それを師匠がズバーって真っ二つにぶった斬ったんだ!」
「オレ達は言われた通り住民達を連れて岬に逃げたのだけど、空からは
その時の光景が蘇ったのか、ヴァートもアタランティスも興奮気味に話し始める。
ララも元々咎めるつもりがなかったのか、マサトの傍までちょこちょこと駆け寄ると、太ももあたりをぺたぺたと触った。
「どこも怪我してないのかしら? さすがのあなたでも、あの
「問題ない。ヘイヤ・ヘイヤは兎の皮を被った
その発言に、その場にいた全員が目を剥いて驚く。
「なんだって!? ヘイヤが
「ほ、本当なのかしら。いえ、違うのよ。別にセラフを疑った訳じゃないかしら」
「それを父ちゃんがやっつけたの!? やっぱ父ちゃんは凄いや!」
「
「説明する。だが、全員揃った後だ。キャロルドとパークスは?」
マサトの質問に、皆は部屋の方へ目を向けると、丁度パークスがキャロルド卿を連れて姿を現したところだった。
パークスが口を開く。
「その話、詳しく聞かせてもらえますか?」
――――――――――――――――――――
▼おまけ
【UR】
「主と認めた者を守る時、緑狼族は真の力を発揮する。彼らは誰よりも忠実であり、誠実だ。決して裏切ることはない――マアトの神官リカダ」
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