250 - 「プロトステガ攻城戦9―集結」


 光の粒子の奔流と化した永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴンが、一つ目の浮島巨人兵ギガス・サイクロプスの群れへと飛び込む。


 懐に入られた巨人達は、その大きな腕で永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴンを捕らえようとするが、実体のない永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴンを捉えることはできない。漂う雲の如く通り過ぎるだけだ。


 躍起になった一つ目の浮島巨人兵プロトステガ・ギガスがその大きな瞳から熱光線を放つも、永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴンは身体を霧散させて難なく回避。


 混戦の中で放たれた熱光線は、永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴンを通過し、その先にいた他の巨人達を焼いた。


 味方の熱光線に焼かれ、呻きをあげて転倒した巨人達を背に、永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴンはそのまま熱光線を放った一つ目の浮島巨人兵ギガス・サイクロプスに接近。


 実体のない粒子の身体から光輝く爪を具現化させると、すれ違いざまに一つ目の浮島巨人兵ギガス・サイクロプスの大きな瞳を切り裂いた。


 その大きな瞳は、一つ目の浮島巨人兵ギガス・サイクロプスの最大の武器でもあるが、同時に最大の弱点でもあった。


 たった一つしかない眼を失った巨人は、その場でのたうち回るだけの木偶の坊と化した。


 彼らは特段、聴覚や臭覚が優れている訳ではないのだ。


 これが街中だった場合、無暗に暴れ回られるだけで被害が増えただろう。


 だが、今は敵陣の中。


 眼を失ったことで錯乱した巨人は、その場で暴れ回り、周囲の巨人達へ攻撃するという混乱を引き起こした。


 その状況に、漆黒の大鷲獅子サーグリフォンに跨った黒崖クロガケがほくそ笑む。



「一体で街を崩壊させるほどの強大な巨人も、攻め方が分かれば他愛もない。せめて一つ目の浮島巨人兵ギガス・サイクロプスを指揮する者がいれば、少しは戦況も変わっただろうが。統率する者のいない軍など、ただの烏合の衆だな」



 一つ目の浮島巨人兵ギガス・サイクロプスの瞳目掛けて次々とファージ達が突撃を繰り返す。


 巨人達は熱光線を放って焼き払い、近くに接近してきたファージには、巨大な手を振り回して叩き落としたりと対抗したが、羽虫の如く次から次へと眼目掛けて飛び込んでくるファージの群れに、巨人達は一人、また一人と無力化されていった。


 一方で、真紅の亜竜ガルドラゴン灰色の翼竜レネは苦戦していた。


 ファージ達のような玉砕覚悟での特攻もできず、永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴンのように [物理攻撃無効] という強力な能力をもたない二頭には、一つ目の浮島巨人兵プロトステガ・ギガスの大群は相性が悪かったようだ。


 黒崖クロガケは直ちに真紅の亜竜ガルドラゴン灰色の翼竜レネを引き上げさせると、代わりに地上へ逃げた眠り鼠ドーマウスの群れの対処に向かわせた。


 地上へ向かった二頭は、港都市コーカスへと向かう眠り鼠ドーマウスの群れを炎のブレスで焼き払い始める。


 黒い煙を舞い上げながらその場で燃え続けるブレスの残り火は、さながら都市を守るように構築された炎の壁のようだ。


 火を嫌った眠り鼠ドーマウス達の進路を阻むことには成功したが、問題が解決した訳ではない。


 これでは、ただの時間稼ぎに過ぎないのだ。


 野原を埋め尽くすほどの眠り鼠ドーマウスの群れを殲滅しなければ、コーカスは人の住める場所ではなくなる可能性が高い。


 帝国の民や街がどうなろうが、黒崖クロガケにとっては些末な事であるが、それが計画の障害となる事態であれば話は変わる。



「チッ、ヘイヤ・ヘイヤめ。最期に鬱陶しい置き土産を」



 コーカスの先、暗闇に染まった大海原の空を見つめ、黒崖クロガケが何者かに語り掛けるように呟く。



「コーカスは帝都を落とすのに必要な補給拠点だ。無傷で手に入れろ。いいな?」



 その視線の先には、闇夜に隠れた巨大な何かが、ゆっくりと近付いてきていた。




◇◇◇




一つ目の浮島巨人兵ギガス・サイクロプスが、こうも簡単に……」



 マサトの見張り役として残った鷲獅子騎士グリフォンライダーの女騎士が、地べたに転がる巨人達を見て、そうこぼす。


 巨人の強さを知っている彼女達にとって、目の前の出来事は衝撃だった。


 弱点が眼だと知っていても、一つ目の浮島巨人兵ギガス・サイクロプスはその弱点を突けるほど容易な相手ではない。


 遠方への圧倒的な攻撃力を誇る熱光線に、鍛えられた剣をも弾く強固な皮膚。


 近付く敵に振り下ろされる腕は大木よりも太く、叩き落とされれば鷲獅子グリフォンですら瀕死の傷を負うことになる。


 玉砕覚悟で眼に特攻するなど、精神操作された狂人か何かでない限りできない芸当だからだ。



「炎の男も異常だ…… 一人で巨人達を圧倒している…… 一体何者なのだ…… あの黒い悪魔デーモンも、あろうことかドラゴンまで…… これだけの戦力が一体どこから……」



 その独り言には、隣にいた女騎士が答えた。



「奴らが西の空からやってきたのを見たぞ」


「西から? 西といえば、フレイム・ハート・フラミンゴ公の治めるハート領だろう。今はフログガーデンへの侵攻拠点として警備は手厚いはず。そこにあの量の悪魔デーモンが隠れていたとは到底思えないが……」



 ファージ達の襲撃により、既にハート領は火の海と化していたが、独立遊軍としての色合いの濃い十五番隊は、本来の指揮系統から少し外れていた。


 その為、西部侵略に対する緊急の召集命令を受けていないのだ。



「それより、私達はこのまま戦況を見守っているだけで本当に良いのか? あの炎の翼を生やした男はこちらの味方と聞いた。空では新人ルーキーのクロも戦っている。ならば私達も加勢するのが筋ではないか?」


「加勢に出たところで、我らに何ができる。ここに残された戦力では、見守る以外に逃げることしかできないだろう。我々が受けた任務は、この戦況の監視だ。このままここで待機し、アネスティー隊長の命令を待つ」


「……了解した」



 そう渋々了承した女騎士が、コーカスへ迫る眠り鼠ドーマウスの群れを睨みつけるようにじっと見つめる。



「理不尽な暴力から民を守るため鷲獅子騎士グリフォンライダーとなったのに、いざ民が危険に晒されると、指をくわえて見守ることしかできないとは、な」


「歯痒い気持ちは分かる。だが、任務が最優先だ」


「承知している……」



 彼女らが眠り鼠ドーマウスの群れを焼き払う二頭のドラゴンを見下ろしていると、突然鷲獅子グリフォン達が南の空に異変を感じ、クゥオオォンと嘶いた。



「ど、どうした!? お、落ち着け!!」


「あ、あれを――!!」



 皆が鷲獅子グリフォンが警戒する空へ顔を向けると、ブゥウウンという重低音が微かに耳に届いた。


 それも、一つではなく、無数に。



「な、なんだ!? 何だあれは!?」


「モンスター!?」


「いや、違う…… あれは……」



 雲から零れ出た月明りに照らされ、その巨大な何かが姿を現す。


 それは船のような、それでいて白鯨のような見た目をしていた。


 白群色びゃくぐんいろに輝く巨大な船体の上部には、本来あるべきはずの帆がなく、代わりに船体の両側に翅のようなものが無数に付いている。


 夜空を悠然と進むそれは、魔導大国の英知を極めたハインリヒ公国の王――ハインリヒ三世と、その弟子のルミアが、マサトが過去に購入した羽ばたき飛行装置オーニソプターを元に手掛けた最高傑作――飛空艇スカイシップだった。



「船…… なのか……?」


「空飛ぶ…… 船……」



 巨大な一隻の船を先頭に、中小様々な船が続く。


 飛空艇スカイシップが空を飛んで迫ってくる様は、さながら大海を泳ぐ白鯨の群れのようだった。


 次第に大きくなる翅の振動音とその迫力に、騎士達の顔が恐怖で染まる。



「た、退避! 一旦ここから離脱する!!」


「い、急げ!!」



 危機を感じた鷲獅子騎士グリフォンライダー達が、飛空艇スカイシップの進路上から逃げるようにして移動する。


 その様子を、先頭を走る大型の飛空艇スカイシップ――リヴァイアス号の操縦室から眺めていた少女が、口に笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開いた。



「ふふ、ようやく…… ようやくお父様に逢える日がやってきたのね。早くお母様の宿題片付けて、お父様にいっぱい、いーっぱい抱き締めて貰わなきゃ!!」


――――――――――――――――――――

▼おまけ


【UR】 白群色の大型飛空艇 リヴァイアス号、5/10、(15)、「モンスター ― 飛空艇」、[魔法無敵] [飛行] [海神砲Lv10] [大型魔導砲Lv3] [小型魔導式ガトリング砲Lv1]

「王…… ついに王の悲願だった大型飛空艇が完成しましたよ。ちゃんと見えていますか? もう少しだけ、王が好きだったこの空を飛行しますね――ハインリヒ三世の三番弟子ルミア」

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