209 - 「プレイヤー7」
危なかった。
けど、賭けには勝った。
ライフが削られていく状況で、
初めはネスの里でゴリと腕相撲した時。
その後、フロンに
その経験があったからこそ、攻撃力のベースを底上げすれば、強引にでも閉じた口をこじ開けることができるんじゃないかと思い付いたのだ。
どういう能力か分からないが、
因みに、
あの口の中の空間では、魔法も武器も効果がないらしい。
飲まれたのが上半身だけだったのでまだ助かったが、全身全て飲まれていたかと思うとゾッとする。
炎も効かなかったが、何故か
危険なモンスターなのは間違いない。
だが、危機的状況は脱した。
劣勢から優勢まで一気に盛り返したはず。
「寄るなクソがぁッ!」
空では大宮忠が大量の
あの空間を斬るような魔法も、無数に散らばった
地上からは
(今のうちに時を戻してしまおう……)
大宮忠を倒してから時の秘宝を使うこともできるが、相手はプレイヤーだ。
それも、俺と違って経験者。
デッキにどんな隠し玉を入れているか分からない。
俺のデッキも使うカード傾向から推測してみせたし、少しの油断が致命的な決定打になりかねない。
先程の怪物も仕留めた訳じゃないし、下手に近付いて相手のコンボにハマる危険を冒すくらいなら、とっとと時を戻してしまった方が良いだろう。
俺は周囲に展開していた炎を引っ込め、時の秘宝を取り出した。
「良かった…… 壊れてない」
秘宝の無事を確認する。
周囲に展開した炎で壊れていないか心配だったが、どうやら大丈夫なようだ。
俺は時の秘宝を握ると、ゆっくりとマナを込め始めた。
時の秘宝が、マナに反応して青白く輝く。
「よし…… いける」
『どこまで時を戻すのか』については、予め決めてある。
自分が転移してきた時の更に数ヶ月前まで時を戻す。
そして、そこから起きる事の為に徹底的に備える。
そう計画した。
転移した直後からは、色々な出来事が立て続けに起きるため、備えている暇がないと判断したからだ。
事前に備えたら、バタフライ効果――わずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の系の状態が大きく異なってしまうという現象――で、同じ史実を辿れないかもしれない。
でも、今よりは良い結末を迎えられるはず。
いや、良い結末にするんだ。
「いくぞ――」
緊張で心臓が高鳴る。
(皆には、ちゃんとした挨拶できなかったけど…… またきっと会える。信じてもらえないかもしれないけど、その時はちゃんと全て説明して、ちゃんと謝ろう)
今を捨てることに、心残りがない訳じゃない。
レイアとの関係値もリセットされるのだ。
また上手くいく保証はないし、今までの想い出は、一方的に相手から消える。
覚えているのは俺だけ。
だが、寂しい気持ちになるのは、この瞬間だけにしよう。
そう気持ちに区切りを付け、マナを強く込め始める。
すると、マナを込める量に応じて、光も強くなっていった。
その光はどんどん強く、眩しい程に発光し――
ついには視界が白に奪われる。
そして身体の自由がきかなくなると、浮遊感とともに、身体が何かに引っ張られるような感覚に襲われた。
そして――
意識が薄れていったその時、誰もいない筈の背後から声が――
「カハッ! 馬鹿が読み通りだぜッ! そう簡単にやり直しされてたまるかよ!」
「その声は――、大宮かっ!!」
「クハハ! そうだよ! いつからあいつがオリジナルだと勘違いしてた? ん? バーカ! お前が相手していたのはクローンだ! オレはお前が時の秘宝を発動するのを、姿を消してずっと隠れてたんだよ!!」
「それなら今すぐお前を――」
「無理でーす、残念でした! 時の秘宝の
(くっ…… 効果発動までにリスクがあったのか!?)
「ん? あれれ? まさか本当に知らなかったのか? 以前にも使ったことあんだろ? あ、この状態で妨害されんのは初か? ブハッ! ざまーねぇーな! ほれ、そんなお間抜けさんにプレゼントだ! 受け取れ!
大宮のその言葉の直後、身体中からマナが溢れ出し、先程とは逆方向に身体が引っ張られ始めた。
「カハッ! なんだよそのマナの量は! そんなに溜め込んでやがったのか!? だが、それが今回は仇になったな!!」
「な、何を……」
「何? さーなんだろね? クククッ……」
大宮の挑発的な笑い声が響く。
だが、俺は光の中にいて動けずにいる。
動けない上に、身体からはマナが大量放出され続け――
「クハハ、やべー面白過ぎて笑えるわ! ここまで大量のマナ放出は始めてだ! いいぜ、教えてやる。その調子だと
嫌な予感がする――
しかし、今は何もできない――
「過去じゃねーんだよ! その逆! 未来だ!」
嫌な予感が的中する。
「
目尻に涙を滲ませるほどに馬鹿笑いした大宮が話を続ける。
「つまり――だ。お前はその大量のマナで、過去じゃなくて未来に全力でぶっ飛ぶってことだよ! ブハハッ! な? 超最高だろッ!?」
悔しい――
相手にしてやられたことも、今この時、何もできない間抜けな自分も――
全て――
「安心しろよ。お前が消えたこの世界は、しっかりオレが支配してやる。お前の国も、お前の女も、全てだ! そして、お前が行き着く先は、オレがこの世界を支配した後の世界って訳だッ! お前のお気に入りの女は皆性奴隷にしてやっから楽しみに待っておけよ!? 運が良ければ、その女に産ませたオレの子供に会えるかもな? ま、その前に、大量に貯め込んでたそのマナの過剰放出で自滅しなければだけどな! ブハッ! ハハハ!!」
その憎たらしい言葉を最後に、俺は光の中へ消えていった。
――――――――――――――――――――
▼おまけ
【SR】
「敵の必殺の一撃が、こちらの必殺の一撃に変わる。最強の防衛魔法は、最強の攻撃魔法にも成り得るということをお見せしよう――熟練の防衛魔法士、シールズ」
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