208 - 「プレイヤー6」
俺の前に、人の顔をした怪物が立ちはだかる。
名を
「マンティコア」という名前は、神話で良く聞く名前だ。
MEでの「人を喰らう神獣」も、聞いた事がある。
だけど、能力までは知らなかった。
その怪物が、不気味な笑みを浮かべながら俺を見据えている。
「
「やってみろよ。お得意の
大宮忠が俺の言葉に言葉で被せると、掌を上に向け、手招きで挑発してきた。
どうやら相当の自信があるらしい。
もしくはブラフか――
(何か手があるのか……?
だが、考えていても悔やんでいても始まらない。
ここは一度試して相手の出方を見るしかない。
それが駄目なら天使で試せばいい。
マナもカードもまだ余裕がある。
これならいけるはず!
「
俺の召喚に応じ、黒い光の粒子が突風の如く吹き荒れ、瞬く間に黒い肌に金粉を付けた
だが、それを見た大宮忠が吹き出す。
「ブハッ! やっぱ、お前素人かよ!
大宮忠の笑い声とともに、先程までそこに存在していた
対象を失った
「何!?」
「ダッセェ、オレはこんな素人にビビってたのか。
再び
腹を抱えながら大袈裟に笑ってみせた大宮が、俺を指差して再び吼える。
「殺れぇッ!
不気味に笑う
すると、左胸に焼けるような痛みが走った。
「あっづ!? なんだ!?」
咄嗟にその場から飛び退く。
痛みの走った左胸は服が消失し、黒い煙があがる。
消失した服の箇所から覗く皮膚は、少し黒く焦げていた。
大宮が、露出した肌に入ったマナ喰らいの紋章を見て叫ぶ。
「ハッ! やっぱり心臓の加護か! 何の工夫もねぇ素人加護が! 素人は大人しく退場しとけよ!!」
大宮の手から再び放たれる青い閃光。
直後に発生する見えない斬撃をなんとか躱すも、その隙をついて
足音もなく、空間に残像を残して瞬間移動してくる。
「なっ!?」
「――フヒヒヒヒ」
瞳孔が開ききった狂気の人の表情で、人の含み笑いのような鳴き声を発しながら迫る
初めてワイバーンの咆哮を聞いた時のような、本能からくる筋肉の萎縮だ。
身体は危険信号をあげているが、想像以上に怪物の移動が速い!
「くっ…… 振り切れない!?」
間近に迫った怪物は、大きく口を開き――
「ハァアアンッ!!」
丸ごと齧り付こうと、口から迫ってきた。
「くっ!?」
態勢を立て直そうと素早く回避行動を取るも、まるで影のようにピッタリと追従してくるため、振り切ることができない。
(不味い!!)
大きく開いた口の中には、あるべき筈の咽喉はなく、ただただ先の見えない暗闇だけが広がっていて、それが余計に不気味な恐怖感を感じさせた。
(口の中どうなってんだ!? くそ! 回避が間に合わない! 駄目だ! 迎撃しろ!!)
逃げ切れないと判断し、瞬時に反撃へ切り替える。
「くらえ!!」
咄嗟に手を伸ばし、火の玉を口の中へ乱れ撃つ。
だが、火の玉は口の中で爆発することなく、暗闇へと消えていっただけだった。
「なっ…… うわぁっ!?」
「ングゥウッ!!」
無情にも上半身を飲まれる形で、
「いっつ…… ぐ、ぐそ!!」
腹に
だが、目の前――口の中は真っ暗だ。
何もない。
手を左右に伸ばすも、あるはずの上顎や下顎に手が届かず、空を切る。
「ほ、本当にこの口の中はどうなってんだ!?」
再び火の玉を連射するも暗闇に消えるだけで手応えがない。
その間も、
その力は徐々に増していっていた。
「うぐぅ…… このままじゃ腹を噛み潰される…… 何とかしないと……」
◇◇◇
「キタァアアアアッ!!」
ついにやった!
「
最高に気分が良い。
うざい相手程、蹂躙できた時の喜びは大きいものに変わるというもの。
小躍りしそうなテンションで、
相手が負ける瞬間に煽ることこそ、相手にとっての屈辱になる。
相手の顔が屈辱に染まれば染まる程、オレの自尊心は満たされるのだ。
残念ながら、敵の顔は
標的として捉えた敵に対し、回避不能かと思わせる程の移動速度と追従力で迫り、瞬く間にターゲットへ喰らい付く。
そして、その大きな口に飲まれたら最後、口の中に広がる無の胃袋により、脱出することも叶わず消化されることになるのだ。
攻撃の命中率の高さが重要になるMEにおいて、
攻撃力5でありながら、対人に対しては与ダメージ2倍になるため、プレイヤーは一度の被弾で10程度のダメージを受けることになる。
通常の加護であれば、ライフ満タンでも2回。
心臓の加護持ちでも4回で倒せる計算だ。
噛み付きが成功すれば、相手は口の中から出られずにダメージを受け続けることになるため、噛み付きの一撃で決まるパターンも多い。
これらの事から、カードスペック以上の性能を発揮するカード筆頭であり、対プレイヤーkill用のフィニッシャーとして起用されるSRカードが、この
「ホント、ザマァーねーな! 過去に何人のカードを盗んだのか知らねーが、今回は相手が悪かったな! 素人が調子に乗るからだバーカ! ヒャッホーウ! やっぱ勝った瞬間は超気持ちぃーー!!」
過去、あの状態になった場合は必ず勝利してきた。
故に、オレは勝利を確信していた。
だが、余裕をカマして相手にチャンスを与えるヘマはしない。
早々に決着をつけるため、オレは
だが、敵は防御力を強化しているのか、中々しぶとく、
気持ち良く決まらない流れに、少しずつ苛立ち始める。
「ハッ、流石は心臓の加護。しぶといねぇ〜。もう飽きたから、さっさと死ねよ」
いっその事、マサトの下半身を「
「なんだ? 見世物じゃねーぞ。シッシ。真っ二つにされたくなかったら、蛙はどっか行ってろ」
追い払おうと手を払うも、
それどころか、雄叫びをあげながら一斉に襲いかかってきた。
「マサト王を助けるぎゅー!」
「「ゲロ、ギュー!!」」
武器を持った
「チッ…… 雑魚が」
冷静に手を横一線に振り払い、
[UC]
[(青):風魔法攻撃Lv3]
青マナで風魔法攻撃Lv3が撃てるようになる
弾道は直線的でホーミング性能はないが、発動からの
更にはマナさえあれば連発が可能なため、使い勝手が良く、個人的に愛用しているカードでもある。
「邪魔だ!」
青い閃光が走り、
胴体を切り離された
だが、それでも
次から次へと湧いてくる
「無駄にマナ使わせやがって……」
雑魚にマナを吸われることは腹立たしい。
小型モンスターで相手にマナを無駄撃ちさせるのは、MEでの常套手段ではあるが、その場を制圧できれば、そこで死んだモンスター達のマナを総取りできるため、諸刃の剣でもある。
今回の
「……ん?」
空から地上を見下ろすと、
「あのクソ蛙ッ!!」
苛立ったオレが
逆に腕を組んで鼻で笑ってみせた。
「ハッ、
雑魚の無駄な足掻きに焦るのはダサい。
オレの勝ちパターンはあの程度では揺るがない。
手持ちのマナ残量に若干不安は残るものの、この一戦を乗り切るだけのマナは、事前に国中の奴隷を片っ端から処分して確保してきた。
奴が
つまり、敵が
対象を取らない最強の殲滅魔法――
更に、[対人無敵] の効果により、どんな強力な武器を装備していたとしても、プレイヤーから生じるダメージは0となる。
ということは、後は敵のライフが0になるのを待てば勝ちなのだが、一向にマサトを咥えたままの
「クソッ…… 早く噛みちぎっちまえよ…… 何してんだ……」
焦ったオレが
同時に、
「なっ…… いや落ち着け…… 大丈夫なはずだ…… あいつに
灼熱の炎の中にいながらも、
だが、異変が起きたのは次の瞬間からだった。
「な…… なんだとッ!?」
「う、嘘だろ!?」
「バカかッ!? なんで
灼熱の炎の中にいながらも、マサトが火傷を負った様子はない。
それどころか、瞳は黄色く染まり、髪は逆立ち、炎の化身であるかのような風貌に変化していた。
そして、ついに上半身を口の外へと出すことに成功して見せたマサトが、ゆっくりとオレの方へ視線を移す。
その表情は、憎悪そのものだった。
「な、なんの効果だ? 何をした?」
マサトの放つプレッシャーに焦る。
「くっ…… ヤ、ヤバそうなバフは…… 消すのみ!!」
オレがマサトへ手を向けると、奴の方が先に呪文を行使してきた。
「
「何ッ!?」
[C]
[手札破壊Lv1]
相手の手札をランダムで一枚破壊してくる厄介な手札破壊の
目の前に、『
「ふ、ふざけんなッ!
驚くオレに、マサトの呪文行使は続く。
「
「またッ…… クソがァッ!
「
「なにぃッ!?」
だから打ち消さざるを得なかったのだが、それを更に打ち消してくるとは想定外だった。
だが、一度こうなってしまったら最後、引くことはオレのプライドが許さない。
こうなれば意地の張り合いだ。
「上等だよッ!
「
「くッ……
「
「ふ、ふざけんなッ! 何枚
打ち消し魔法の応戦に競り負けると、再び目の前に手札破壊のシステムメッセージが流れた。
それにより、もう一枚の
「クソッタレがァッ! 調子に乗んなよッ!
そう叫んだ直後、再び眼を疑う光景が飛び込んできた。
「何!?」
マサトに掴まれて移動を封じられていた
慌ててマナを練り、
だが、今度は別の
「な、何故だッ!?」
その
しかし、一点だけ先程とは違う点があった。
周囲に再び集まった
「まさか……
そんなことをする奴は、自滅目的か、ただの馬鹿か、ど素人かのどれかだ。
「だから脳筋馬鹿は嫌いなんだよッ!!」
再生が間に合わないと判断し、
すると、炎の化身と化したマサトが、オレを指差し、こう告げた。
「奴を殺せ」
その直後、地上からは
――――――――――――――――――――
▼おまけ
【SR】
「憎悪。それは天使を悪魔に変えてしまう程の強力な魂の呪い。全能なる神の浄化でも、時の大精霊による時間逆行でも、一度灯った憎悪の炎を消すことはできない。故に、悪魔が天使に戻ることはない――憎悪する魔神マスティア」
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