206 - 「プレイヤー4」
「き、来たぞー!」
睨み合いが続くかと思われた矢先の敵の思わぬ進軍。
先制を取られる形となった公国軍に、動揺が広がる。
「モンスターの軍勢が攻めてくるぞ!」
「む、向かい討て!」
「違う! 勝手に動くな! 防衛ラインを敷け!」
「盾を構えろ!」
「魔導砲で迎え撃つべきだ!」
「魔導砲の装備がない魔導兵はどうする!?」
「そこ! 前に出過ぎだ! 隊列を乱すな!」
個々が主張の激しい貴族達故、統率など取れていない。
中には、財産である魔導兵を傷付けたくないと、勝手に後退をする者まで現れる始末だ。
「あ、あれを見ろ! あの魔導鎧! ハインリヒだ!!」
その中で、目敏くハインリヒの姿を見つけた者が声を上げる。
すると、貴族達の反応は大きく二つに分かれた。
魔導鎧で完全武装した元公王に恐れを抱き、弱気になる者と、悪魔に魂を売った大罪人だと糾弾する者。
それは行動にも現れた。
サン教皇に洗脳され、ハインリヒが諸悪の根源だと信じ込んでいる者達は、軍の指示を無視し、迎撃へと走る。
搭乗型魔導兵を操作する一人が突撃を始めると、功を焦った者達がそれに続いた。
先頭を走る者が叫ぶ。
「我、リセント辺境伯が長男、サンルーク・リセント! 我が剣で、悪魔に魂を売った大罪人、ハインリヒを成敗す…… え?」
そして、突如姿を消した。
「な、なんだ!? うわぁ!?」
「と、止まれ! 馬鹿! と、ぁああ!?」
次々に姿を消していく豪華絢爛な装飾を施された魔導兵達。
魔導兵達が踏み抜いた地面には穴が空き、光の届かない暗闇に染まった大穴が姿を現わす。
その大穴は、鋼鉄の塊を全て飲み込んだ後でも尚、埋まることなく底の見えない暗闇だけを映し出していた。
「獲物が罠にかかったか」
その様子を見ていたハインリヒが呟く。
公国側の魔導兵達を飲み込んだ大穴は、
薄い地表面だけを残し、綺麗に地中をくり抜いたそれは、魔導兵の重みで容易く破れた。
それだけであれば、公国側も前列の魔導兵だけで被害を抑えられたのだが、旧型の搭乗型魔導兵にはもう一つ弱点があった。
一度走り出した搭乗型魔導兵は、直ぐには止まれないのだ。
前方の魔導兵が消えた瞬間に停止する操作を行ったとしても、気付いた時には時すでに遅く、必死に減速を試みるも止まり切れず、次々に大穴へ飲まれていった。
数少ない飛行型の魔導兵を所有していた貴族の一人が、突然現れた落とし穴に気付き、進軍を止めるよう叫ぶ。
「止まれぇー! 罠だ! 先に落とし穴がある! 止まらねば落ちるぞぉーー!!」
「何!? 落とし穴!? と、止まれーー!!」
「し、進軍停止ぃーー!!」
何とか進軍は止まったが、ハインリヒが仕掛けた罠はそれだけでは終わらなかった。
今度は魔導兵達のいる足場が次々に崩れ始める。
「な、なんなんだ!? ここの地盤はどうなってる!?」
足を取られた魔導兵が次々に転倒。
先陣を切った魔導兵の惨状に、後方に控えていた歩兵達が騒つく。
「お、おい。だ、大丈夫なのか?」
「魔導兵があんな簡単にやり込まれるなんて……」
「やっぱり、魔導王たるハインリヒ王は健在だったんだ……」
魔導兵に搭乗している者達とは違い、後方の部隊は生身の人間だ。
中には、自立型魔導兵を率いている者もいるが、それは少数。
モンスターの大群を目の前にして、士気を保っていられた者は少ない。
そこへ、魔導鎧で完全武装したハインリヒの声が響く。
「余の創造した魔導兵で、余を討伐しようとは! 笑止! 目を覚ませ! ハインリヒ公国の貴族達よ! 余を反逆者と称し、其方らを惑わす者こそ反逆者であるぞ!!」
ハインリヒの威厳は、それまでハインリヒを討伐せよと突撃を駆けていた者達の士気を削ぐのに十分な効果を果たした。
振り上げられていた剣が次々に下げられる。
だが、戦意を失い始めていた者達へ、新たな怒号が飛んだ。
「何ボサッとしてんだ! お前達にはオレがいるだろ! オレの言葉だけに従え! 迷うな! 全軍突撃しろ! 総攻撃だ!!」
カーキ色のモッズコートに身を包んだ茶髪の男――大宮忠だ。
前線へと躍り出てきたハインリヒを追い返すと、忠は空を飛びながら全軍へ発破をかけて回った。
「あ、青の王!」
「青の王がいるなら!」
「ぜ、全軍突撃ーー!」
歩兵部隊も突撃をかける。
無策での突撃に、勝算などない。
忠は場を少しでも混乱させれればそれで良かったのだ。
それを指摘できる参謀は公国軍にはおらず、部隊は忠の命令通り、死地となる前線へと駆けて行くのだった。
◇◇◇
視界一面に展開された敵軍を見た忠が、額に汗を浮かべながら親指の爪を噛む。
ローズヘイムへ乗り込む筈が、思わぬ足止めを余儀なくされた忠は、内心、相当焦っていた。
「チッ…… なんだよあの軍隊は。どっから湧いてきやがった……」
あれ程のモンスターの軍勢を全て召喚したとは考えにくい。
だが、その軍勢の中で、圧倒的な存在感を放つモンスターが数体混ざっているのも確かだった。
そして、そのモンスターは召喚されたものである可能性が高い。
「一体何のデッキだよ…… ふざけんな……」
忠の呟きに、尻尾の生えたクローン達が声をかける。
「おい、こんなとこで止まってる暇なんてないだろ。どうすんだよ」
「行くにしてもあの警戒の中、どうやって奴の屋敷まで侵入するんだ? もう手持ちの
「なんでファージがこんなに大量にいるんだよ! そんな話し聞いてねーぞ!」
「赤と青に黒まで使えんのか? どういうトリックだ?」
「なんか一体だけヤバイの混ざってんな…… あれ、グリムワールドの抹殺者フラーネカルじゃないか?」
「フラーネカル? 確か、先制攻撃に即死持ちの奴だよな。忠は本体だし、即死効果ないから良いだろうけど、オレ達クローンはマズイだろ。防御をいくら高めても一発即死だ」
「くそ…… こっちから手を出す前に殺されっぞ」
「黒だけじゃないだろ…… 緑もいるぞ…… あれ蒼鱗のワームだろ……」
「何でそんなロートルカード……」
「他は…… ワイバーン? それともあれはドラゴンか?」
「まだいるぞ…… 肉裂きファージに、馬鹿でかいカブトムシ――
「地面に穴を開けた奴はなんだ? 地下にも何かいるのか?」
「いよいよヤベーぞ…… おい! 忠! どうすんだよ! オレ達より明らかに戦力上だぞ!?」
「うるせーな! 狼狽えんな! 今考えてる! っつか、お前もオレのクローンだろ! 自分で考えろ!!」
(くそッ! 何であんなに各色の大型モンスターをこんなに展開できるんだ? そんなコンボあったか? 使い魔ファージの群れがいるってことは、
「くそッ! そういう事か!」
忠がローズヘイムを睨みつけながら叫ぶ。
だが、その忠達に向けて、高速で迫る黒い影があった。
「おい! 忠! 何か来る!!」
「あれは…… フラーネカルか!!」
不敵な笑みを浮かべた
「ヤバイ!!」
フラーネカルの触手が、逃げ遅れたクローンを貫く。
「ぐうぁあ!?」
悲鳴とともに光の粒子となり消える忠のクローン。
フラーネカルは、動揺する忠達を見据え、不敵に笑う。
「あの悪魔…… 調子に乗りやがって…… だが、お陰で手間が省けた。お前ら! あいつを囲め! 死んでも逃すなよ!!」
「「ああ! 任せろ!!」」
忠のクローンがフラーネカルを囲むと、フラーネカルは触手で応戦。
鞭のごとく高速で飛び交う触手に、クローン達はなす術なくその触手を受け、更に三体のクローンが光の粒子となって消えた。
だが、その隙に忠本体がフラーネカルへと迫り――
「強いモンスターってのは、奪ってなんぼなんだよ! あいつに奪えて、オレに奪えない訳がないだろ! ――
[R]
[
[耐久Lv1]
同時に、忠の中に生まれる新たな繋がり。
「支配成功だ! このフラーネカルを盾に突破する! 行くぞお前ら!!」
「「ああ! 反撃開始だ!」」
フラーネカルと共に飛び立つ忠達。
その前に最初に立ちはだかったのは、魔導鎧に身を包み、紫色の光の翼を生やしたハインリヒだった。
「貴様がサン教皇とともに余の国を荒らした張本人だな? その代償、高くつくぞ」
「ハッ! NPCは黙って見てろよ。邪魔だ」
「威勢は良いようだ。どうやってその
ハインリヒの背後に集う無数のファージ達。
「くそッ…… 邪魔だって言ってんだろーがッ! 殺れ! フラーネカル!!」
「御意」
フラーネカルが前に躍り出ると、ハインリヒを追い越すようにファージ達がフラーネカル目掛けて飛び掛かった。
地上では、足を取られた魔導兵達にゴブリンの部隊が迫り、後方から迫る歩兵部隊には、ドラゴン達が火のブレスで焼き払いにかかる。
そして、戦場は混戦へと突入していった。
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