198 - 「行動不能」
結局、ハインリヒ一行は、
国賓を招くほどの場所じゃないのだが、ハインリヒが俺から近い場所が良いと強く望んだので、本人が気にしないならと、来賓用に空けておいた本館の一室を貸している。
夜には
酒も振る舞ったので、後半はほぼ宴会みたいになっていたが、大戦の心の傷を癒すには酒と笑いが一番だと、飲兵衛筆頭のマーレとドワンゴが肩を組んで騒ぎ、意外にもその二人に混ざってハインリヒも大いに笑っていたのは印象的だった。
ハインリヒ自身、公王となってからは、こういう無礼講での酒飲みは控えていたらしい。
「さすがの余でも、王という立場では色々と気を使うこともある」と、顔を赤くしながら語っていた姿は、王とか関係なく、普通のおっさんと大差なかった。
こういう一面があるのは、正直好感がもてた。
一方で、フロンやオーリア、レティセら旧アローガンス側の三人は、その温かい光景を眺めつつも、決して許すことはできないというような固い表情をしていた。
簡単には歩み寄れない確執があるのだろう。
それは仕方がない。
夜通し続くかと思われた酒の席は、大戦の疲れもあるだろうからと、シュビラが上手く場を締めてくれたので難なく終了。
肉裂きファージの能力である [毎ターン:ライフ5点を失う] のせいで、深夜に一人でのたうち回るというイベントがあったものの、無事にこの日を乗り越えることに成功したのだった。
そして翌日。
(文字通りの行動不能か…… これじゃトイレに行く事すら出来ない……)
ベッドの上とは言っても、今は
皆には、今日一日戦いの疲れを癒すために寝て過ごすとそれとなく共有してある。
「旦那さま、具合はどうかの?」
「ぅ…… ぁ……」
(唇も動かせないくらいには何もできないかな。何というか、意識をもって動かそうとすると身体に抵抗される感じというか。瞬きや呼吸は自然にできるんだけど。金縛りに近い感じ)
「ほぅ。それは興味深いの」
シュビラがベッドに横たわる俺の枕元にちょこんと腰掛けると、おもむろに俺の首の後ろに手を回し始めた。
そして、そのままゆっくりと俺の上体を起こし、手に持っていたコップを口に近付け、水を飲ませてくれる。
(ありがとう。丁度、喉が乾いてたんだ)
シュビラがにこっと笑う。
「旦那さまの望みは手に取るように分かるのだ」
(それはそれは。ありがたや。これからもよろしくお願いね)
「勿論だの」
シュビラに優しく抱擁され、甘い花の香りが鼻をくすぐる。
なんというか、落ち着く香りだ。
それでいて、気分が良くなっていく感覚のある不思議な香り。
(そういえば、
「残念ながら、まだ尻尾を掴めておらんの。相当上手く隠れているか、ここにはもういないかのどちらかだの」
(そっか。レイアの下に付けた、えーっと…… つい最近まで
「カジートかの?」
(そうそう、そんな名前。その人から情報は聞き出せた?)
「そうだの。その者から情報は得られたが、得た情報からは、何も成果はあげられなかったの。既にどこももぬけの殻だったのだ」
(そうかー。まぁ簡単に尻尾掴ませてくれるほど間抜けじゃないか……)
すると、そんな俺を慰めるように、シュビラの小さな手が俺のおでこを優しく撫でた。
「
(そうだね。身体動かないし、そうさせてもらうよ)
「うむ、
(分かった。いつもお願いしてばかりだけど、これからも頼むね)
「ふふ、いいのだ。われは旦那さまの為だけに存在しておるからの」
シュビラが嬉しそうに微笑むので、なんだか少しむず痒い気持ちになってしまう。
すると、シュビラは少し名残惜しそうな顔を見せつつ、ベッドからよいしょと降りた。
「旦那さま。われは暫くここを留守にするゆえ、何かあれば代わりの者が対応するからの。何かあればその者に命令するとよい」
(あ、行っちゃうのか)
「行かない方がよいかの?」
(少し寂しいけど我慢しよう。なんて。大丈夫。用事を優先して。俺は少し眠るし)
「ふふふ。旦那さまの為に、早く片付けてくるからの」
(ああ、行ってらっしゃい)
そう念で告げると、シュビラが再び近付き、顔にぎゅっと抱きついてきた。
(お、どうした?)
「旦那さまは、今度こそわれが守ってみせるからの」
(ん? どういうこと?)
そう聞き返すも、シュビラは少し悲しげな表情で笑っただけだった。
そのまま何も言わずに部屋を出ていく。
(なんだった…… んだろ…… うか……)
疑問に思うも、急に襲ってきた睡魔に勝てず、意識が沈んでいった。
――おい、マサト
それから何時間経過したかは分からない。
心地の良い微睡みの中で、誰かの呼ぶ声が、微かに残った意識に届いた。
――寝てるのか?
(声が聞こえた気がする。聞き覚えのある声だ)
だが、身体は動かない。
瞼も開かない。
――本当に寝てるのか?
(誰だろう。これは夢? 幻聴?)
意識もぼんやりふわふわとしていて、思考は働かない。
それに、なんだかとてもうっとりとした快い気分だった。
俺が寝てると判断したのか、声の主は一人話を進めていく。
――そうか、本当に寝てるのか
――フッ、意識のないお前の身体を寝取ることになるとは
――だが、今はそれで我慢しよう
――今は、な
服の擦れる音が聞こえる。
身体に触れられる感触。
それと同時に、人の温もりと外気の冷たさが、同時にやってきた。
――フフフ、意識はなくとも身体は正直か
何かが濡れる感触。
ピチャピチャと小さくあがる音。
そして、身体にのしかかる重さ。
――はぁ、んっ、はぁ
ベッドが軋み、音をあげる。
――はぁ、はぁ
その出来事が一瞬だったのか、長時間行われたものなのかは分からない。
俺はされるがまま、微睡みの中で体を巡る快楽に溺れていた。
その快楽が絶頂に達し、再び意識が遠退くまで。
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