194 - 「炎の壁」
「
[UC]
[壁]
[(赤):一時能力補正+1/+1]
[生命維持:(赤)]
広範囲に渡る大津波を、炎の壁で堰き止めようなんて、我ながら無謀な考えだと思う。
だが、これしか方法がないのも事実。
兎に角、やるしかない!
「うぉぉおおおお!!」
地上に炎の壁が巻き上る。
その炎の壁へ、即座に赤マナを投下していく。
すると、炎の壁はみるみるうちにその体積を増やしていった。
「まだまだぁぁあああ!!」
紫色の電光が身体中に迸るのも気にせず、ただひたすらに赤マナを注ぎ続ける。
逃げる人々と押し寄せる大津波を隔てるように、成長した炎の壁は南北へと走った。
その光景に、王都から避難していた人々が言葉を失う。
「も、もっと! 波を押し返せるくらいに厚く!!」
バチバチと電光が弾ける耳障りな音が響くも、
赤マナの過剰行使により、炎の壁が幾重にも重なり、その厚みを増やしていく。
対する大津波は陸地を飲み込み、もうすぐそこまで迫ってきていた。
(頼む……! 耐えろッ!!)
津波と炎の壁が衝突する。
刹那、海水が蒸発し、白い水蒸気が逃げ場を失って空へと噴き出す。
「ぐぉおおおおお! 押し返せぇええええ!!」
軽い蒸気爆発により、波の勢いが一瞬相殺されたように映るも、後から押し寄せてくる海水の体積の方が圧倒的だった。
炎の壁を飲み込まんと、大量の波が覆い被さるように繰り返し押し寄せる。
その度に唸りを上げて上空へ放出される白い蒸気。
過度のマナ行使により、目が充血し、鼻血が流れる。
それでも津波の勢いを殺そうと、ありったけの赤マナを必死に行使し続ける。
迫る波。
噴き上がる蒸気。
大量の水蒸気が重なり、上空に大量の雲が発生し始める。
それでも必死に続ける。
――続ける。
――――続ける。
いつの間にか、ポツポツと雨が降り始めた。
だが、それすらも気にせず、目の前の波にのみ集中し、炎の壁で押し寄せる波を押し返し続けた。
それからどのくらいそうやっていただろうか。
ふと気が付けば、空は積乱雲で埋まり、時折稲妻がピカピカと光っていた。
そして――
「よ、ようやく、終わったか……?」
急激に波が引いていく。
だが、ガザの跡地から東の陸地は消え、陸地だった場所には、ただ一面に海原だけが広がっていた。
「陸地が消えた…… もしや東の港も……? そ、そうだ、リ、リヴァイアサンはどうなった……?」
念でフラーネカルに問いかける。
すると、積乱雲から黒い物体が突き抜けてきた。
フラーネカルだ。
そのまま俺の目の前まで高速で飛行してくると、大きく翼を広げ急停止。
召喚した時同様の紳士然とした佇まいでお辞儀してみせた。
「主、無事に任務を遂行シて参りました」
「やったのか!?」
「ご命令通りに」
「そ、そうか…… 良くやった!」
急激に波が引いたのは、フラーネカルがリヴァイアサンの討伐に成功したからだろうか。
「どうやって倒した?」
「この触手で刺シ殺シました」
そう告げながら、フラーネカルは背中に生えていた黒い鋭利な触手を伸ばし、目の前で器用に動かしてみせた。
「外皮がとても厚く、更には鋼鉄の如く頑丈でシたので少シ手間取りまシた。が、攻撃が通る相手であれば、私の敵ではありません」
フラーネカルが笑みを浮かべる。
紛れもなく [即死攻撃] の能力だろう。
あれ程の超巨大なリヴァイアサンを一撃で殺すなんて芸当、フラーネカルのようなピーキーな能力持ちのモンスターじゃなければ不可能だった。
デッキ――ヘイドリッド・ファージを構築し、そのデッキにフラーネカルを入れてくれた兄に感謝する。
すると、再びフラーネカルが口を開いた。
「主、次のご命令を」
「暫くは待機だ」
「出来かねます」
「……は?」
「殺シの、ご命令を」
フラーネカルの口角が狂気的な角度まで釣り上がる。
(出たよ…… やっぱり一癖あるじゃねぇーか……)
どうするべきか考えていると、シュビラから念話が届いた。
『そのフラーネカルとやらの命令、われに一任してはくれんかの?』
(シュビラか。そうしてくれると助かる)
『うむ、任されたのだ。緊急時の傭兵は多いに越したことはないからの。それに、陸地が減ったということは、住処を追われた魔物の群れが周辺に溢れる可能性もあるであろう。こやつに殺させる相手がいなければ、周辺の魔物討伐でもやらせておくから問題はないの』
さすがはシュビラ。
本当に頼りになる。
(じゃあ、俺は後片付けが済み次第帰るよ。ああ、忘れないうちに伝えておく。強力な力を使った反動で、多分、明日は一日中気絶してるかもしれない。その間、シュビラ宜しくね)
『分かったのだ。となると、
(そうだね。その方が安心か。じゃあ諸々頼んだ)
『任されたのだ。それでは旦那さまの帰りを楽しみに待っておるの』
(ういうい)
シュビラとの念話を切り上げ、目の前のフラーネカルへ指示を出す。
「暫く、お前の命令はシュビラが下す。シュビラに従え」
俺の言葉にフラーネカルが口角を釣り上げる。
「ハッ」
そう短く返事を返すと、大きな翼を広げ、ローズヘイムへと素早く飛び去った。
「ふぅ〜」
あと一息で片がつく。
俺は気合を入れ直すと、空をまばらに旋回している使い魔ファージ達に指示を出した。
「ファージ! 周辺の海に漂流している人がいれば救い出せ! 救助したら、一先ず、ローズヘイムへ連れて来い!」
キシィイと甲高い鳴き声が空に響くと、ファージ達は雷雨の中へと消えていった。
津波に攫われた人達の捜索はファージ達がやってくれる。
海で遭難中、突然、空からファージがやってきたら必死に抵抗すると思うが、まぁ誤解は後から解けばいい。
「
――キィイイイン!!
――――ギャォオオオ!!
――――――レュォオオオ!!
ドラゴン達が北と東と南、それぞれ別の方向へ飛び去っていく。
「よし」
後は、王都から生き延びた人達の保護だ。
っと、その前に――
「マナよ!!」
俺は両手を広げ、周辺のマナへ呼びかけた。
積乱雲により日が遮られ、夜のように暗くなった空に、シルヴァー戦で全て回収しきれなかった分のマナが光輝きながら舞い上がる。
それは海となった東からも無数に舞い上がった。
その色とりどりのマナを、暫く空に留まった状態で吸収し続ける。
そして、その全てのマナを回収し終わった時、今回のシルヴァー戦は、思わぬ延長戦があったものの、その幕をようやく下ろしたのだった。
……。
…………。
………………。
《 マナ喰らいの紋章 Lv47 解放 》
《 マナ喰らいの紋章 Lv48 解放 》
《 マナ喰らいの紋章 Lv49 解放 》
《 マナ喰らいの紋章 Lv50 解放 》
『(虹×3)マナを獲得しました』
『ライフ上限が2上がった』
『過去に討伐したモンスターを1枚カード化できます』
『 [
『マナ喰らいの紋章Lvが上限に達しました』
『20000マナで、世界喰らいの紋章へ進化させることができます』
――――――――――――――――――――
▼おまけ
【UR】 グリムワールドの抹殺者フラーネカル、5/5、(黒×8)、「モンスター ― 悪魔」、[飛行] [即死攻撃] [先制攻撃] [
「奴が笑うと誰かが死ぬ。誰かが死ぬと奴が笑う。奴が傷付けた者は死に、奴を傷付けても死ぬのは他の者。奴の顔から笑みが消えることはない――聖刻騎士団長ディアルムド」
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