184 - 「シルヴァー戦4―魔導」
空と城壁に、紫色の花が咲き乱れる。
魔導兵と魔導シルヴァーによる砲撃戦は、城壁を崩壊させただけでなく、流れ弾によって家々を粉砕し、王都を瞬く間に火の海へと変えた。
シルヴァーの女王の足元に空いた大穴からは、途切れることなく新たなシルヴァー達が姿を現し、火の海と化した王都を突き進んでいく。
地を這い、空を羽ばたくシルヴァーの大群に、魔導兵の強力な武器である魔導砲は通用しない。
一方で、シルヴァーの口から放たれる魔導砲は、魔導兵の装甲を貫き、堅牢な城壁ごと大破させた。
その圧倒的な力と数の暴力に、各地に配備された
その事実は、王都が故郷である元王国兵だけでなく、魔導兵に絶対の信頼を寄せていた公国兵を含む全ての兵士の希望を粉々に砕いたのだった。
皆が失意に暮れる。
目の前に広がる光景は、その場にいた誰にとっても、タチの悪い悪夢でしかなかった。
「この世の終わりだ……」
「魔導兵でも太刀打ちできない怪物相手に、人族はどう立ち向かえって言うんだ……」
「俺たちは、ここで死ぬのか……?」
「い、嫌だ…… まだ死にたくない…… 先月息子が生まれたばかりなんだ…… ここで死ぬ訳には……」
シルヴァーの攻撃によって次々に崩落していく城壁の上で、兵士達は様々な思いを走馬灯のように思い浮かべる。
中には、抗えない力に対して死を受け入れ始めた者も多かった。
大通りに面していた王都で最も大きい南門が崩壊し、シルヴァー達の攻撃が東西に分かれて少しずつ北門へと広がっていく。
ここで、北門の兵士達はある事実に気付いた。
突如現れた怪物――シルヴァーの目的は、王都から出ることではなく、人族の殲滅なのだと。
崩壊した城壁から外へ出る訳でもなく、執拗に城壁の上にいる人族へ向けて攻撃を繰り返すシルヴァーの姿は、悪魔にも死神にも見えた。
「あの怪物の狙いは俺たちなのか!?」
「こ、このままじゃ全滅する!!」
「退却命令はまだか!?」
「王はまだ城で巨大な怪物と交戦中だぞ! 退却なんてできるか!!」
「に、西門も落ちた。東門ももう保ちそうにない!」
「駄目だ! 東門も落ちた! 次はここだ!!」
「た、隊長!!」
「くっ…… ここまでか……」
皆が諦めかけた、その時――
北門の城壁にいた兵士達の上空を、黒い影が通過した。
「あ、あれは……!?」
その直後、シルヴァーとは質の異なる複数の大咆哮が王都に轟く。
――ギャォオオオ!!
――――レュォオオオ!!
――――――キシャァアアア!!
兵士達が一斉に咆哮のあがった方角へ顔を向ける。
すると、そこには紫銀色に染まった空へ向かう三頭のドラゴンの姿と、光の剣を持ち、炎の翼を広げた一人の男の姿があった。
「ロ、ローズヘイムの王が加勢に来てくれたぞー!」
「ローズヘイムの王!? あの
「間違いねぇ! あれは英雄王だ! 炎の翼に、光の剣! あれは間違いなく英雄王の姿だ!!」
「ド、ドラゴンだ! ドラゴンが三頭も!!」
「英雄王!? 英雄王がドラゴンとともに援軍に来てくれたのか!?」
「やった! やったぞ! ローズヘイムを
「うぉおおおお! 英雄王だぁああ!!」
「英雄王とドラゴンならあの怪物にも勝てる!」
「「英雄王!」」
「「「英雄王!!」」」
マサトとドラゴンの登場に、途方に暮れていた兵士達の士気が戻り、歓喜の声があがる。
「た、隊長! 援軍です!」
「あ、ああ、助かった! まさか、王はこうなることを予測して英雄王と協定を結んだのか!?」
北の城壁防衛を任されていた魔導整備兵長が、ハインリヒ王の先見の明に唸るも、すぐ切迫した状況を思い出し、即座に命令を下した。
「頼もしい援軍は到着したが、第一城壁はもう限界だ! 今すぐ外へリフトを出せ! 城壁には前列隊だけを残し、他は全て地上へ降ろす! 総員、迎撃態勢を取りつつ、第二城壁まで後退しろ!!」
「「「ハッ!!」」」
ローズヘイムをたった一人で救った英雄王という存在が、折れた皆の心を再び奮い立たせた。
恐怖で身を竦めていた兵士達の動きに活力が戻り始める。
中には、マサトとドラゴンの姿を見て咽び泣く者も多くいたが、皆が生き残る為、この戦いに勝つ為に一致団結して動き始めたのは紛れもない事実だった。
「英雄王…… ハインリヒ王のことをどうか、どうかよろしくお願いします……」
兵士達がそう願う。
その願いと期待を受けたマサトは、王都上空を占拠するシルヴァーの大群と睨み合いを始めていた――
――――――――――――――――――――
▼おまけ
【UC】 魔導のシルヴァー、1/2、(赤)(3)、「モンスター ― シルヴァー」、[能力共有:シルヴァー] [魔導砲Lv1]
「数多の魔導砲が飛び交う空を怯むことなく突き進む英雄王の姿に、俺たちの心は強く勇気付けられた――公国所属の魔導整備兵」
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