116 - 「後家蜘蛛抗争1」
「うぅっ…… わ、わたしに何をしたの……」
陽の光が届かない密室。
その部屋の中で、唯一の光源である
その結晶の放つ光が、陽の光が届かない空間を紫色に染め、ベルの白い髪をより白く輝かせていた。
周囲には、ベルの召喚したゴブリン達の死体が転がり、そのゴブリンを皆殺しにして見せた
「貴様がそれを知る必要はない」
「マ、マサトが、きっと助けにきてくれる……」
「もしそうなれば好都合だ」
「うぐっ……」
ベルの額に汗が流れ、その顔が苦悶の表情に変わる。
「さすがギガンティアの末裔という訳か。敵に回すと厄介な適性を持っている。
「や、やめて! 入って来ないで!!」
ベルが頭を抱えて蹲る。
「抵抗しても苦痛が長引くだけだ。受け入れろ。楽になれる」
「い、いや……」
「
「はぁ〜い。全くもぉ、あまり手を焼かせないでくれるかしらぁん?」
「こ、来ない…… で……」
「い・や・よん」
ベルの頬を両手で包み込み、顔を上げさせる
ベルと、
「うぐっ!? ぐぐっ……」
ベルの目が見開き、身体が小刻みに震える。
それはベルの身体が、外からの異質な侵入者を拒否しているかのような反応だった。
「ご馳走様ぁん」
立ち上がる
残されたベルの瞳は灰色に曇り、力なく開いた口からは涎が流れていた。
◇◇◇
「ガルァァアア!!」
轟音が壁や天井を揺らし、天井からはパラパラと土が舞い落ちる。
黒い豹人こと、
「クソガァアア! 何故攻撃が効かねぇ!?」
先ほどから、こちらの攻撃は何度も、何十回も与えている。
なのに、
天井が低いことが幸いして、
一方で、ガルアは瞬発力に優れた豹人だ。
スピードでは圧倒的にこちらに分がある。
そのため、そのスピードを活かして、ヒットアンドウェイでこれまで攻撃し続けてきたのだが、その攻撃が有効打になっていない状況だった。その結果に、攻撃しているガルアの方が、精神的に追い詰められつつある。
「一か八か…… アレを試すしかねぇか……」
この場に残った他の戦闘員は、皆床で冷たくなっている。目の前の凶暴な
マサトが仕掛けてきた最初の特攻で、既に過半数がやられた状況ではあったが、まだ戦えるだけの戦力はその場に残っていたはずだった。
だが、マサトが召喚した
それが唯一の誤算だとガルアは考えていた。
「マサトォ…… アイツは殺しておかねぇとマズイな…… だがぁ、まずはコイツだ」
ガルアが大きく屈伸をするかのように、身体全体を屈めた。
「テメェが硬ぇか、オレ様の拳が硬ぇか。勝負しようじゃねぇか。なぁオイ、熊スケ」
ガルアの挑発に応えるように、
直後、大爆発とともに、部屋全体を爆風と業火が占拠した。
◇◇◇
――ドォォオオンゴゴゴゴ
爆発音とともに、地面が揺れる。
だが、マサトは
(
マサトの目の前には、黒いローブに身を包んだ者達が立ちはだかっていた。
その者達へ向けて、マサトがダメ元で要求を告げる。
「俺は
「…………」
マサトの問い掛けに応じる者はいなかった。
(まぁダメだよな…… 仕方ない、覚悟を決めるか……)
視線を下げる。
そして一度深呼吸をして気持ちに区切りを付けた。
ゆっくりと視線を上げたマサトは、目の前の者達を見据え、底冷えするような低い声で言い放つ。
「殺す気で行くぞ」
マサトの濃厚な殺気を含んだ
宝剣を片手に駆け出すマサト。
その後をゴブリンが追う。
一番手前に居た男が、マサトの気迫に怖気付きながらも、応戦しようと剣を構えた。
だが、それをまるで空気を切り裂くかのように、すれ違いざまに真っ二つにしていくマサト。
一人。
――二人。
――――三人。
次々に切り捨てていく。
宝剣の剣線が帯状に流れ、薄暗い室内に一本の光の軌跡が残る。
その軌跡の下には、人間だったものの肉塊が転がり、床に大きな血溜まりを作っていた。
血飛沫も上げず、ただただ崩れ落ち、地面へ転がりながら臓器をぶちまけていく
その仲間の行く末に、一部の構成員が悲鳴をあげて逃げた。
「逃げるなぁっ! 戦えぇ!!」
構成員の一人が仲間に発破をかける。
だが、その男の叫びを上書くかのように、マサトは炎の両翼を展開。
ボボボッという爆発音とともに、薄暗かった室内を紅色の炎が一面を照らす。
構成員達からは、炎の光によって逆光となり、マサトの身体が光の翼を生やした姿となって見えた。
その光景に、
『光の剣を持つ、光の翼を生やした――
理解を超えた敵を目の前に、
「逃げ、逃げろ……」
「あんな化け物に勝てる訳がない!」
それを追うように走るマサト。
だが、暫くして、マサトの耳に、構成員達の悲鳴が響き渡った。
(先になんかいるな…… ん?)
そう思った直後、目の前の空間が歪んだことに気付き――
突如、太い鞭で打たれたような衝撃に襲われた。
「がっ!?」
その衝撃で後方へ倒れてしまう。
(い、痛ってぇ…… な、何が当たった!?)
痛みが走った胸部を見てみると、胸の部分の服が、鋭利な刃物で切られたかのように切り裂かれていた。
(なっ!? なんだこれ!?)
前方を警戒するが、通路の先は暗闇だ。
すると、再び目の前の空間が歪んだのが分かった。
(危ねっ!?)
飛来した何かを、横へ飛ぶことで回避する。
だが、回避できずに立ち止まっていたゴブリンが、その飛来した何かに当たった。
ゴブリンの身体が肩から斜めに大きく切り裂かれ、血飛沫をあげながら絶命していく。
「グギャァアア!?」
「か、回避しろ!」
回避しろとは言ったが、はっきりと目に見えないものを回避するのは難しい。
次々にゴブリン達がその身体を切り裂かれ、肉塊と化していった。
「くっ……」
そして、その場に残ったのがマサトだけになると、コツコツと足音を立てて、何者かが歩いてくるのが分かった。
「流石はローズヘイムを救った大英雄といったところですか。一筋縄ではいかないようだ」
そう言いながら現れたのは、Aランク冒険者であり、ティー公爵の側近の一人――パークスだった。
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