107 - 「トレンの戦場3」

(な、何を言い出した? 国って、マジ? マジかトレン! 目の前の女王様めっちゃ怒ってるけど!?)



 トレンは、周りの動揺を気にすることなく、対面で青筋を浮かべるフロンと視線をぶつけ合っていた。


 心なしか、フロンの背後に後光が見える。


 ヴィクトルとドワンゴは、トレンの言葉に大分驚いたようだが、フロンの反応を見た途端、今度は顔を蒼く変化させていた。さすがのソフィーも、この時ばかりは肝を冷やしたようで、顔を少し引きつらせたようだった。



「姫様、ど、どうか落ち着いてください」



 レティセが、少し焦った表情でフロンへと声をかけたが、フロンが応じることはなかった。


 背後に浮かぶ後光が強くなる。



(あれ? やっぱり光ってるよね? 何? だ、誰か教えて!)



 フロンの背後にいるオーリアも、青白い細かい粒子を身に纏っているように見える。


 心なしか、部屋が急に寒くなってきた気もする。


 ヴィクトルとドワンゴ、それにソフィーが席から立ち上がり、怯むように後ろへ退がった。



「女王陛下、どうかお鎮まりを!」


「そ、そうだ。短気はいかん!」


「正気なの!? ここで殺し合いでも始める気!?」



 ヴィクトル、ドワンゴ、ソフィーが言葉をかけるが、フロンとトレンの視線の鍔迫り合いは止まらない。


 フロンが重い口を開く。



「もし、私がその提案を蹴ったら?」



 臆することなく、トレンが言葉を返す。



「そうならないことを心から望んではいますが…… 誰かの支配下に置かれることが嫌いなマサトは、アローガンスと距離を置くことになると思います。そして、女王陛下の許可関係なく、どこかに国を建てるはず。国と名乗ることはないかも知れませんが、数万もの土蛙人ゲノーモス・トードを囲う場所となると、それは国と何ら変わりありません。そんな巨大な勢力が、隣国としてできる。友好関係を結ぶか、無理矢理支配下に組み込もうとして敵対するリスクを負うか、女王陛下には正しい判断をしてもらいたいと願っています」



 トレンが言い終わると同時に、部屋に光が満ちた。



(う、うおっ!? な、なんだ!?)



 フロンの背後には明確に複数の光が――装飾が施された光の剣が、後光の様に光を放ちながら浮かんでいた。


 それを見たヴィクトル、ドワンゴ、ソフィーの三人が、部屋の壁際まですかさず下がる。


 俺はというと、トレンの隣に座ったままだ。


 どうすればいいのか分からず、取り敢えず内心の動揺を顔に出さないよう努力しながら、じっと二人の様子を見守っている。



「姫様!」


「レティセ、邪魔をするな」


「オーリア! あなたまで!」



 フロンを諌めようとしたレティセを、オーリアが止めた。


 すると、フロンが席からゆっくりと立ち上がり、トレンへその手を向けた。


 光の剣の向きが変わり、その切っ先がトレンへと差し向けられる。



「それは、アローガンスに対して――その女王である私に対しての “宣戦布告” と受け取るわよ」



 それは、マサト達に向けられた、王国側からの明確な脅迫だった。

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