108 - 「トレンの戦場4」

 脅しにきたか。


 甘いですよ陛下。


 交渉の場での武力行使は、それが成立する場でなくては意味がない。


 相手が対等な立場であれば、それは悪手です。


 陛下が、仮におれに害をなせば、交渉は決裂。


 ボス――マサトが王国側に配慮する理由はなくなる。


 最悪、本当に王国側と敵対することになるかもしれない。


 でも、おれは引きませんよ。


 ボンボのような貴族は、他にもまだたくさんいる。


 おれも苦い思いを何度もさせられた。


 そんな奴らが居ては、誰が領主になっても生活は良くならない。


 奴らは邪魔なだけだ。


 だから、ここでその邪魔な奴らを一掃する必要がある。


 そのためなら、例え 《 目利き 》 の適性を失っても構わない。



 トレンは、席に座ったまま、立ち上がったフロンを見上げた。


 そこには、適性潰し、加護殺しと言われる異能――《 王の傲慢アローガント・オブ・ザ・キング 》 を差し向けた女王陛下が見える。


 こちらへ向けた手は、よく見れば小刻みに震えていた。


 それが怒りから来るものなのか、動揺からくるものなのかは、トレンには分からない。


 ただ、トレンには “勝てる” という自信があった。



「違います。事実を述べたまでです。それを認めるか、認めないかは、女王陛下にお任せします」



 少しの動揺も見せず、堂々と言い切る。



「ただし、マサトは…… そもそもアローガンス王国側の民ではない。ということを、前提にご判断ください」




◇◇◇




 フロンの顔が大きく歪み、伸ばしたその腕に力が入ったのが分かった。



(ま、まずい!?)



 フロンの脅しを受けるも、真っ向からそれを突き返したトレンに、光の刃が迫る。


 その場にいた全員が息を呑むのが分かった。


 だが、フロンの機微を逸早く察知していたマサトだけは違かった。


 隣に座っていたトレンを庇うように前へ出ると、自身の胸で、その光の剣を次々に受ける。



「ぐっ!?」



 胸に衝撃が走る。


 すると、目の前にシステムメッセージが次々に表示された。



『 《 炎の翼ウィングス・オブ・フレイム 》 に干渉されました』

抵抗レジスト成功 』


『 《 炎の翼ウィングス・オブ・フレイム 》 に干渉されました』

抵抗レジスト成功 』


『 《 炎の翼ウィングス・オブ・フレイム 》 に干渉されました』

抵抗レジスト失敗 』


『 《 炎の翼ウィングス・オブ・フレイム 》 が一時的に封印されました』


『 《 炎の翼ウィングス・オブ・フレイム 》 に干渉されました』

抵抗レジスト失敗 』


『 《 炎の翼ウィングス・オブ・フレイム 》 が破壊されました』


『 《 マナ喰らいの紋章「心臓」の加護 》 は干渉されません 』

『 《 マナ喰らいの紋章「心臓」の加護 》 は干渉されません 』

『 《 マナ喰らいの紋章「心臓」の加護 》 は干渉されません 』……




(なっ!? 解呪ディスペル効果!?)



 光の剣が全てマサトの胸にぶつかり、弾けた光の粒子が周囲へ消えていく。


 「はぁはぁ」と息を切らしながら、片手を向けて仁王立ちしていたフロンと、光の剣が当たった胸部を摩りながら、ゆっくりとフロンへ視線を向けるマサト。


 そして、マサトに庇われたトレンが、マサトを見たまま驚きの表情で固まっていた。


 部屋の両脇には、ヴィクトル、ドワンゴ、ソフィーの三人が、顔を青ざめさせながら、苦々しい表情でこの状況を見つめている。


 フロンの背後には、顔を青白くさせたレティセと、フロンの行動に口を開けて驚き、固まってしまったオーリアがいた。


 騒ぎを聞きつけて、部屋へ乱入してくる者はいない。


 もしかしたら、こうなることを想定の上、フロンが事前に人払いをさせていたのかもしれない。



 すると、マサトの背中から、紅色の淡い粒子がふわっと溢れ、空気中へと消えていった。


 それを見たマサト以外の一同が息を呑む。



 ローズヘイムを救った英雄への、一国の力を保有する強者への、明確な敵対行為。


 その事実に、ヴィクトルとドワンゴは頭を抱え、ソフィーは目を見開きながら口に手を当てて驚き、レティセは卒倒した。



「これは…… どういうことですか?」



 マサトの底冷えするような低い声が部屋に響いた。

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