93 - 「城壁掃除」

「おし、このまま北の城門まで城壁の上にいる土蛙人ゲノーモス・トードを掃除しよう」



 灰色の翼竜レネには念で指示を出しているので、西と東から挟み込むように追い立てて北で合流する。


 後ろでレイアが驚きに目を見開いているのが何となく分かる。背中から回される腕ががっちがちに力んでいるのだ。相槌もないし、多分驚いているんだろう。


 正直、俺も驚いている。土蛙人ゲノーモス・トードのあまりの脆さに…… いや、レイアは真紅の亜竜ガルドラゴンの恐ろしさに身を固くしただけか。まぁ真紅の亜竜ガルドラゴンが向かって飛んできたら俺だって全力で逃げる。あれは本当に怖い。一度体験したから言える。あの時は普通のワイバーンが相手だったので、今より迫力が落ちるだろうが、それでもあれはあかん奴だと思った。本能が逃げろと勝手に脳へ信号送っちゃうからどうしようもない。何十回も体験すれば少しは慣れるのかもしれないが…… いや、本当に慣れるのかどうかすら疑問だ。種族の差という絶対的なヒエラルキーからは抗えないということだろう。


 東から俺とレイアの乗った真紅の亜竜ガルドラゴン、西からベルの乗った灰色の翼竜レネが北へと土蛙人ゲノーモス・トードを追い立てる。


 北へ逃げる土蛙人ゲノーモス・トード達が、まるで大波を起こしているかのようにどんどんと積み重なり、うねりを上げる荒波の如く盛り上がっていく。逃げる者が前の奴を容赦無く踏み越えて逃げようとしているせいだ。


 そしてその土蛙人ゲノーモス・トードの波は、同じように西からできた波とぶつかり――


 衝撃で左右へと波が割れた――


 城壁の上から数十メートル下へと、追い立てられた大量の土蛙人ゲノーモス・トードがボロボロと落ちていく。



「今だ! 灼熱の火吹きフレア!」



 俺の命令で、真紅の亜竜ガルドラゴンは極太の炎を、山のように積み上がった土蛙人ゲノーモス・トード達へ向けて吹き付ける。


 直撃を受けた土蛙人ゲノーモス・トードは即死だろう。身体が一瞬で溶けた。そして中心から外れた土蛙人ゲノーモス・トードはその身を真っ黒に焦がす。更にその周囲からは灼熱の熱風に皮膚がただれ落ち、その痛みと恐怖でギュアアアという断末魔の絶叫が次々にあがる。そして、その断末魔の悲鳴が他の土蛙人ゲノーモス・トードを恐慌へと陥れるため、現場の土蛙人ゲノーモス・トードの慌てふためきようは酷いものだった。


 真紅の亜竜ガルドラゴンは南側から北側へ向けて火を吹いたため、その炎から逃れようと周囲の土蛙人ゲノーモス・トード達は城壁の北側へと次々に逃げ――落ちていった。


 地上から数十メートルある城壁上部から飛び降りれば、土蛙人ゲノーモス・トードも即死だろうが、地上には同じように落ちた土蛙人ゲノーモス・トードの死体の山がある。それがクッションとなってある程度は助かるだろう。だが、再び戦う気力までは残っていないはずだ。この調子でいけるはず。


 真紅の亜竜ガルドラゴンが火を吹きながらその場でホバリングしていると、灰色の翼竜レネがおなじように飛びながら横に付けてきた。



「次はどうするの!?」



 ベルが大声で指示を仰ぐ。


 羽ばたく音と大雨と風と火吹きの音やら何やらで騒音が酷いからあまりよく聞き取れなかったが、何となく言おうとしてることは伝わった。


 腹に力を入れて怒鳴るようにベルへと伝える。



「後は街の中にいる奴らの対処! 手分けして追い立てるぞ! 後、ベル! なるべく灰色の翼竜レネから降りずに対処しろよ!」


「分かった!」



 本当に伝わったのだろうか。むしろちゃんと聞き取れたのか? 心配だ。


 灰色の翼竜レネが身を翻して街内へと滑空していく。



「俺たちも行こう! まずは…… 大穴の」



 と言いかけ、ローズヘイムにいるゴブリンからの繋がりが一つ消えたのを感じて止まる。



「マサトどうした!?」



 レイアが耳元で叫ぶ。


 レイアさんは近いから叫ばなくても聞こえるんですが! 耳がキーンって…… っと、そうじゃないトレン達がピンチだ!



「俺の屋敷に向かう! 仲間がピンチだ! 大穴は、仕方ない灰色の翼竜レネに任せよう!」



 真紅の亜竜ガルドラゴンは大きく身を翻すと、そのまま屋敷へ向けて一直線に滑空していく。



(うおおおー! 間に合ってくれよ!)



 俺は真紅の亜竜ガルドラゴンにしっかりとしがみ付きながら、集まった土蛙人ゲノーモス・トードの数が一際多い一帯を見ていた。

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