80 - 「里へ近づく者」

 マサト達が土蛙王と交戦していた頃、地上ではボンボ達がネスの里付近まで接近していた。



「閣下、ちょっといいでやすか……」


「なんだ。言ってみろ」


「蛇の足跡をずっと辿っては来てるんでやすが…… 同じ道を歩いている気がしやしてね……」


「なんだと!? どういうことだ!」



 ボンボが先導役のレンジャーを怒鳴り散らしていると、ローブ姿の傭兵が会話に入ってきた。



「何やら強力な結界が展開されているようです。先ほどから同じ道を歩かされています」


「結界!? なんとかできないのか!?」


「相当強力な結界ですので、この人数だと数日はかかるかと……」


「1時間でどうにかしろ! 金はいくらでも積んでやる! 奴は目の前だ!」



 ボンボの言葉に、ローブ姿の傭兵が他の傭兵達と顔を見合わせる。その顔は、そんな無茶なこと言われても…… とでも言いたげな表情をしていた。


 それを見たボンボが腹を立て、傭兵達に怒鳴り散らしていると、ふいに頭上を巨大な何か・・・・が通過した。



「し、静かに! 姿勢を低く!」



 緊迫した傭兵達の言葉に、その場にいた全員が黙る。ボンボもまた、頭上を通過した何かを瞬時に察し、先ほどまで怒鳴り散らしていたローブ姿の男の背に掴まるように隠れていた。



「な、なんだあれは!?」


「シッ! 閣下、今はどうか静かに……」



 小声で叱責されるボンボ。いつもなら怒り狂うだろう場面だが、その時ばかりは状況が違った。激しく頭を縦に振り、同意の意を示す。


 数分の間、全員が息を殺し、周囲の森の囁きに耳を澄ませる。普段は癒しに聞こえる森の囁きも、今は雑音にしか聞こえない。


 暫くして、レンジャーが皆に合図すると、一人木に登り始めた。そこから上空の様子を確認すると、降りてきて皆に報告を始めた。



「空に姿は見えないでやす。周囲に降りた気配もないでやすが、この結界はあっしには分かりやせんで…… ドラゴンは結界の中に降りたのかもしれないでやすね」


「結界の中に…… だと…… やはりそこに奴の拠点が……」



 驚愕の事実に、ボンボが口を震わせる。



「手遅れだったか…… 奴は…… 既にドラゴンを手懐けていたのだ…… まずい…… これは、非常にまずいぞ……」



 その言葉に、傭兵達が最悪の事態を連想する。


 ラミア、ドラゴン、そしてそれを隠すほどの強力な結界。急成長を見せる新生クラン 《 竜語りドラゴンスピーカー 》、岩熊ロックベアの希少種討伐、鋼鉄虫スチールバグの大量討伐、その全てが、ボンボが警鐘を鳴らした筋書きの信ぴょう性を高め、傭兵達にその後の展開を想像させた。


 最初はそんな唐突もない話と馬鹿にしていた者も、頭上を羽ばたくドラゴンの姿を見て、考えを改めた。ドラゴンの存在は、それ程のものだったと言える。



「ボ、ボンボ様、如何しますか?」



 動揺する執事に向けて、そして傭兵達へ向けて、ボンボははっきりと言い放った。



「決まっているだろう! ローズヘイムへ引き返すのだ! 手遅れになる前に、母上と父上へ、この事実を報告する! お前達にも証人になってもらうぞ! 皆でローズヘイムの民を救うのだ!!」



 ボンボの指示を受け、傭兵達の眼に強い意志が宿る。


 ドラゴンという人族にとって災厄となる存在に触れたことで、傭兵達に危機感が生まれた。ボンボがその危機感を上手く誘導する形となる。傭兵達には、ボンボが街を救おうと孤軍奮闘していた英雄に見えたことだろう。



 その頃、里にある地下の一室では、ネスが水晶越しにボンボ達を監視していた。


 水晶にはローズヘイムへ引き返していくボンボ達が映っている。


 その姿を確認したネスの口元には、薄っすらと笑みが浮かんでいた。

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