79 - 「救う代償」
金色竜晶の輝きのみで照らされていた洞窟内は、今は
「あなた様がここに降臨なさることは、既に予言で知っておりまぎゅた。そのせいで、土蛙王には爪弾きにされておりまぎゅたが、我の
仲間から長老と呼ばれる、この種族最古の
だが、占術という不確かなものを嫌った
そして、実現する予言。
この時をもって、ゲノーの地位は、
魔眼でゲノーの真意を聞き出し、そこに嘘偽りがないことを確認したマサト達は、ゲノーに
「ゴブリンの道案内」「ゴブリン召喚の大魔法陣」を召喚し、ゲノーとの橋渡し役兼、監視役兼、ゴブリン達の新しい拠点とするべく仕込みをしておく。
「取り敢えず、先導役にゴブリン達を召喚して置いてくから、何かあればゴブリンに従うように」
「ゲロ、ギュー!」
――ゲロ、ギュー!!
ゲノーの言葉に続き、何千と集まった
(お、おお…… す、凄い迫力だ…… やっぱり数の暴力は怖いな…… )
因みに
(後は、やっぱりこれだな……)
『過去に討伐したモンスターを1枚カード化できます』
(紋章Lv上がった恩恵か。えーっと、リストは、と……)
ガルドラの岩陸亀
ガルドラのジャガー
ガルドラの剣牙獣
ガルドラの
ガルドラの
ガルドラの
(なんだか大したのいないな…… やっぱりこの中だと
[UC] ガルドラの
(赤)(1):
レアリティ、UC(アンコモン)の中型カード。(緑)マナ1と、無色マナ3の計4マナで、1/6(攻撃力1、防御力6)と、大したことのないカードだが、特殊な能力「(赤)(1):
(サーチって、そもそも山札が存在しないけど…… カード無くても召喚できるとか? いや、さすがにないか。それじゃあ強すぎる。良くて周囲にいる
念のためステータスを確認する。
<ステータス>
紋章Lv13
ライフ 42/42
*猛毒カウンター1
攻撃力 99
防御力 4
マナ : (虹×8)(赤×668)(緑x100)
装備 :
召喚マナ限界突破7
マナ喰らいの紋章「心臓」の加護
自身の初期ライフ2倍、+1/+1の修整
(身体が七色に光ったから、なんとなく予想付いたけど、(虹)マナが6増えてるっぽいな。他に上がってるところはないから、(虹x3)が2回入っただけ? それにしても
「なんだ? また何か力が解放されたのか?」
「ああ、そっか。前に光ったときレイアもいたから知ってるのか。今回は
「
「基準? 召喚できるようになるモンスターのこと?」
「そうだ」
「単純に、倒したことがあるモンスターかな」
「そうか。であれば、もっと強いモンスターを殺せば、それを召喚して従えることができるってことだな?」
「そうなるけど、
「十分だ。ガルドラ連山に住むドラゴンを従えることができれば……」
「……え? さ、さすがにドラゴン討伐は早いんじゃないかな?」
いつもは警戒を促す側のレイアが、突然ドラゴン狩りを勧めるようなことを言い出したので少し焦る。
(いや…… でも、ドラゴンいたら心強いよな…… またカード化のボーナスが出たら勿体無いし。一応、考えておこう)
「あ! そういえば、トワレは無事!?」
「あの桜色の蛙か」
「微かに臭いはまだするから、近くにいると思う」
ミアが鼻をすんすんとさせながら、入口を指差した。
そのまま3人で入口へと移動する。
するとそこには、身体をボロボロにしながら横たわるトワレの姿があった。
「トワレ!」
思わず叫ぶマサト。
トワレの薄い桜色の身体は土で茶色に汚れ、身体の至るところに青痣やら裂傷が見える。
そして、片眼が潰れて無くなっていた。
潰れた片眼からは
「そ、そんな……」
心臓がギュッと締め付けられる。
道中、可哀想だからと連れてきただけの関係だったが、自分が連れてこなければこうなることはなかったはず。
自分を殺そうと向かってきた敵であれば、こうも罪の意識を感じることもなかっただろう。だが、暴力に怯えて一人孤独に耐え抜いてきた者を無理矢理連れ出し、あろうことか最悪の結果を迎えさせてしまったのは、紛れもなく自分のせいである。守ってやると言ったのに、実際は守ろうとしていなかった。護衛を付けて、最後の最後で置いて行ったのだ。その浅慮な行動の数々に、マサトは激しく後悔した。
「お、俺のせいだ…… ど、どうすれば…… ミ、ミア!」
「ダメ…… 身体の中がぐちゃぐちゃだよ…… 相当殴られたみたい……」
ミアが悲しそうに下を向く。
「ぐ、ぐちゃぐちゃ? な、何か手が…… あ、ポ、ポーション!」
街で買っておいたポーションをトワレに振り掛ける。だが、痣が多少消えるくらいで、潰れた片眼は元には戻らなかった。
「さすがに、傷が深すぎる。臓器の破損までは、その等級のポーションでは治せないぞ」
「そ、そんな…… あ、レ、レッドポーションが!」
レッドポーションの残り半分、最後の秘薬を取り出したマサトの腕を、レイアが掴む。
「これから、同じようなことが何度も起こるぞ。だが、その薬はそれで最後だ。これからは、その薬で助けることができなくなる。それを本当に理解しているのか?」
「うっ……」
いくらマサトでも、そのことは嫌というほど理解していた。だが、目の前で死に逝く者を見捨てられないのだ。命を天秤に掛けることはできる。誰の命が一番大切かどうかだって分かる。理解もしている。だが、それが目の前の命を見捨てるという選択肢に繋がらない。頭では解っているのに、感情が言うことを聞かないのだ。
「迷いがあるなら……」
そうレイアが告げようとすると――
「わ、わたすの、ことは…… ヒュー…… 気に、しなくて、いいけろ…… ヒュー…… やっぱり…… ここからは、離れられない、けろ…… ヒュー…… 仲間を、見捨てようとした、罰が、当たったけろよ……」
トワレのか細い言葉により、レイアは最後まで言わず、口をつぐんだ。肺が潰れているのか、息を吸い込むときにヒューと苦しそうな音が鳴り響く。
「トワレ……」
「マサけろ…… こんなわたす、誘って、くれて…… ヒュー…… 本当は…… 嬉しかった…… けろ…… ヒュー…… 初めて…… 誘われた…… けろ…… ギョフッ」
トワレの口からは薄黄緑色の体液が漏れる。
マサトは無駄だと分かっていながらも、必死に残りのポーションをトワレにかけ続けた。
「マサけろが、道中で、教えてくれた、村…… 行って、見たかった、けろなぁ……」
その言葉を聞き、目頭が熱くなり、自然と涙が溢れ出てくる。
「少しの…… 間…… 一緒に…… いれて…… 楽しかった…… けろ…… 」
「ト、トワレ……」
「さよな、ら…… け、ろ……」
その言葉を最後に、トワレの鼓動が弱くなっていく。
(俺のせいだ…… 考え無しに動いたせいでトワレがこうなった……)
レイアがマサトの腕を離す。
(もっと考えるべきだった…… 少し考えればどうなるか、想像できたはずだ……)
マサトが袖で涙を拭い、トワレをしっかりと見つめる。
(これで最後だ…… 最後にしよう…… たとえここがゲームの世界だとしても…… ちゃんと考えて行動しよう…… 足りない頭でも考えるのをやめたら終わりだ…… そのせいで仲間が傷付くくらいなら……)
そして最後の言葉をかけた。
「……ごめん、トワレ。お別れだ」
その言葉に、トワレが微笑んだ気がした。
(もう、誰もこんな目に遭わせはしない)
マサトはトワレの身体に最後の薬を振り掛ける。
赤い薬を。
(守ると決めたら、最後まで全力で守り抜こう)
そして新たな名を呼んだ。
「トワレ、今日から君の名は……」
レッドポーションはもう無くなった。
これで同じように瀕死になった仲間は救えない。
だけど、俺には召喚という巨大な力がある。
これで皆を守ろう。
守り抜こう。
それが俺にはできるはずだから。
頭の悪い俺でもできるはずだから。
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