78 - 「炎の大樹を生やす者」
「うぉおおぉおおぉお!?」
(こ、こぇえぇええ!? ミ、ミアはどこだぁあ!?)
ねずみ花火のように回転しながら、縦に横にと軌道を変えて宙を乱飛行するマサト。
その様子を、土蛙王は唖然とした表情で見守っている。王の間の異変に、次々にやってくる
(ぐぐ…… そ、そうだ! 一回止めよう! そうすれば…… って、うっ、うおっ!? うわぁああ!? 落ちる落ちる落ちる!)
(な、なんで上手く使えないんだ!? くそ! こうか!? うぉおぉ!? あ、あっ! み、見つけた!)
背中に搭載された
「ミ、ミア! 大丈夫か!?」
なんとかミアの側まで辿り着くことができたマサトは、
「う、うん…… このくらいなら魔法で治せるから平気」
「よ、よかった」
ミアの身体には、
「でも、魔眼で操った
よくよく周囲を見渡せば、魔眼で操った
(ミアも流石に限界が近いか…… よし…… 俺が何とかしないと……)
マサトが土蛙王へと視線を戻すと、土蛙王が一瞬怯んだのが遠巻きでも分かった。
「な、なぜ無ぎゅずだ!? あの魔法をまともに受ぎゅて、なぜ普通にしていらぎゅる!? なぎゅだ!?」
(くそ…… 宝剣ないから魔法使うしかないか…… 近付こうとしても、どうせまた魔法で牽制されるだろうし…… 仕方ない、こっちも魔法で攻めよう!)
マサトが土蛙王へと素早く掌を向ける。だが、その動作だけで、土蛙王が回避行動を取るには十分な理由だった。
「 《 ショックボルト 》!」
「 《 ストーンウォーギュ 》!」
紫色の稲妻が複数の光の線となり、一瞬で石壁へと到達。そのゴツゴツした岩肌を激しく削り割る。だが、土蛙王へは届かなかった。
「くっそぉ! やられた! 一枚無駄にした!」
マサトは頼みのショックボルトが防がれたことを悔しがったが、土蛙王が感じた恐怖はその比ではなかった。
一瞬でその背丈を半分にされた石壁。
その後ろから、土蛙王は真っ黒な瞳が飛び出るくらいに目を大きく見開き、紫色の稲妻を操る人族を驚愕の表情で見つめている。
「あ、ありえなぎゅ…… あんな化物と戦っても勝ち目はなぎゅ……」
1秒でも石壁の展開が遅れていたら、土蛙王はまたあの紫電を受けていた。再度あの紫電を受ければ、最悪心臓が止まっていたかもしれない。1度目の被弾により、既に右腕が思うように動かなくなっていたのだ。良くても四肢のいずれかが動かなくなっていたことは確実だった。
ほぼ予備動作なしに、一瞬で終わる詠唱でこの威力。どう対処すればいいというのか。それに相手はこちらの魔法を連続で受けても傷一つ負わなかった。もはや勝ち目はない。そう、土蛙王は感じていた。
(単発じゃ防がれる…… それならっ!)
「 《
マサトの周囲に紅い光の粒子が螺旋を描き、その粒子の後を追うように火の粉が舞い踊る。
天上へ向けて開いた掌には、炎の塊が3つ。その位置を入れ替えるように掌の上で回転している。そしてその炎の塊はみるみるうちに大きくなっていく。
その炎の塊を見た土蛙王の顔が引き攣る。それもそのはずだ。マサトが発現させた炎の塊は、先ほどレイアが放った
……だが、本当に石壁だけで防げるのか?
急に頼りなくなっていく自身の魔法に、土蛙王は本能からこの異常な人族に恐れを抱き始めていることに気が付いた。それは生存本能からくる警告。弱肉強食のこの世界において、ヒエラルキーの上位に位置する捕食者から、被食者である自分達が生き延びるために進化した直感でもある。そして、その本能からくる警告を無視した者の末路がどうなるかは、土蛙王は痛い程理解していた。
「に、逃ぎゅる。この人間には関わっては駄ぎゅだ…… 全滅させらぎゅる! 《 ストーンフォーギュ 》《 アースホーギュ 》!」
「いけぇぇえええ!!」
マサトが3つの炎の塊を、それぞれ別の弧の軌道を描かせるように放つ。
それを遮るようにそびえ立つ石壁。
石壁が土蛙王の姿を隠した直後、3つの炎の塊が次々に着弾。その石壁を木っ端微塵にし、洞窟内を震わせるほどの大爆発を起こした。
爆発の衝撃により、パラパラと天上の岩盤が欠け落ちてくる。
「や、やば!? 洞窟内でやっていい規模の攻撃じゃなかった!?」
洞窟が崩壊してもおかしくない衝撃に、マサトの肝は一瞬冷えた。本人はそこまでの威力が出るとは思っていなかったのである。
「マサト、無事だったか…… 心配したぞ」
「わぁっ!? び、びっくりした。なんだレイアか」
ふいに背後から声がしたため振り返ると、そこには影から這い出てくる髪の長い幽霊が…… と、一瞬空目して驚いたが、すぐにレイアだと分かると、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
「何赤くなっている。まだ戦闘中だぞ。油断するな。奴はまだ生きてる」
「え? ああ、分かった。あ、そうだ…… 宝剣!」
唯一の武器を無くしていたことに気付き、焦って探し出す。だが、すかさずミアが探していた物を持ってきてくれた。
「マサト、これ」
「宝剣! 良かった…… ありがとう。ミア」
宝剣をミアから受け取ると、レイアが土蛙王を警戒しつつも、周囲の状況を伝えてくる。
「魔眼で操った
レイアに促されて周囲を見渡すと、王の間へ続く複数の通路から、続々と
「あの親玉さえ倒せれば、全員逃げ出すと思う。もし逃げ出さなかったとしても…… いけると思う」
「分かった。で、次はどうする?」
「あの土煙って、レイアの魔法で吹き飛ばせる?」
「視界の確保だな。可能だ」
「おし、じゃあ合図したらお願い。ミアはまだ魔眼使える?」
「うん、まだ頑張れる」
「近付いてきた敵にだけでいいから。とにかく今は自分の身を守って」
「わかった」
「じゃあ、レイアお願い!」
「ああ、行くぞ! 万物に宿りし母なる
レイアの詠唱により、無風の洞窟内に風が吹き荒れる。その風は王のいた場所に立ち込めていた土煙を霧散させた。
だが、そこに土蛙王の姿は既になかった。
「い、いない!? どこ行った!?」
「マサト! よく見ろ! 穴がある!」
「マジか…… 逃げられた!?」
どんどん増える
そこには底の見えない大穴が空いていた。
「やられた…… まさか逃げるなんて……」
「マサトの異常さを理解したのだろう。厄介だが、敵は賢いぞ」
「マ、マサト…… 凄い数だよ…… へ、平気?」
王の間の小高い丘から、周囲を見渡すと、そこには一面を埋め尽くすほどの
「ブード達は?」
「やられちゃったみたい」
「そっか……」
「マサト、この数相手に策はあるんだろうな?」
「まぁ…… 一応……」
マサトの自信のない返事に、目を細めるレイア。その顔には不安の色が浮かんでいた。それは決して頼りないとか、敗北による死への不安という意味ではなく、マサトの想像を超える行動により、別の更なる問題が引き起こされるのではないかというような、びっくり箱かもしれない箱を開けるときのような不安に近かった。
(仕方ない。やるか……
「レイア、ミア。俺の後ろへ」
「分かった」「うん」
レイアとミアが背後に回り込んだことを確認したマサトは、ひしめき合う
今から使う魔法が、どんな攻撃に変化するのか、はたまた、どれだけの威力になるかすら分からない。取り敢えず目の前にいる
「ふぅ…… よし! 《
[UC] 灼熱の火鞭 (赤)(1)
火魔法攻撃Lv2 ALL
マサトの両手に紅い光の粒子が集まり始める。それはいくつもの線を型取り、その長さはどんどんと伸びていく。
(よ、良かった。名前の通り鞭風に扱えばいいのか! よし!)
その形から、火の鞭だと判断したマサトは、両手を合わせ、光の粒子を一つに束ねた。そして姿を現わす数多の炎の鞭。その炎はまるで蛇のようにうねうねと蠢めき、無数の火花を木の葉のように撒き散らしている。
丘の下から見上げる
枝は光り輝き、その枝からは、舞い散る火の粉がまるで花びらが舞うようにも見える。洞窟の上空を埋め尽くすくらいに広がったその炎の樹冠に、その迫力に、
突然平伏した
「……えっ? ちょ、どういうこと? 何これ…… 降参したってこと?」
どういう意味か今一確信がもてなかったマサトは、後ろにいるレイア達へと質問を投げかけた。
だが、すぐに返事が返ってこない。
「ね、ねぇ、どうすればい…… い?」
首だけで後ろを振り向く。
そこには、尻餅をついて唖然としているレイアと、胸のところで両手を結び、目を輝かせているミアがいた。
「マ、マサト。なんだそれは……」
「いや、攻撃魔法だけど…… 凄い見た目だよね。じゃ、じゃなくて」
「凄ぉ〜い…… 綺麗ぇ〜…… こんなに綺麗な
「うぉっ!? わ、分かったから、そ、袖引っ張らないで」
その後、すぐ落ち着きを取り戻した2人と話し、リーダー格の
「これ、取り敢えずそのまま?」
「そのままの状態で維持できるなら、その方がいいだろう。新しく侵入してきた
「そ、そっか。了解」
暫くすると、平伏する
その
「神より遣わされし主よ、我らはあなた様が現れる日を、一日千秋の思いでお待ちしておりまぎゅた。その炎の樹冠が何よりの証。我は遠い昔から予言しておりまぎゅた。我らを導いてくださる神の降臨を…… どうか、どうか、か弱ぎゅ我らを導ぎゅ給え……」
予言していたという言葉に、マサト達は再び困惑する。
運が良いのか悪いのか、丁度そのタイミングで、戦死した
その光は大きく弧を描き、マサトの胸へ吸い込まれていく。
マサトの手からは、天上一面に広がる炎の樹冠の幹が生え、光輝く枝からは、パチパチと明滅する火花を
それはまさに、生と死の循環を表しているようだった。
そして極め付けは――
《マナ喰らいの紋章 Lv11 解放》
《マナ喰らいの紋章 Lv12 解放》
《マナ喰らいの紋章 Lv13 解放》
マサトの身体が、眩いばかりの七色の光に包まれる。
その神々しい姿に、人智を超えた存在の気配に、そこに居合わせた全ての
それは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます