52 -「嘘とハッタリ」
俺は
「お客さーん、ごめん今満席ー!」
料理を運んでいた赤毛の店員が叫ぶ。
「
俺が大声で
「あの人、
「ん? おい、あいつ
「え? うそうそ!? ほんと!? 有名人じゃない!」
「別人だろー。あれは黒髪というより煤被って汚れてるだけだぜ。よく見ろよ」
「ほんとだー。なーんだ。期待して損したー」
この騒ぎようからして
すると店員が、
「お客さん、
「お、ありがと!」
俺は店員にお礼を言って外へ出た。
(取り敢えず次は冒険者ギルドに行ってみて、そこにもいなければ伝言を頼んで先を急ごう)
冒険者ギルドに着くと、マサトはギルドに入るなり、テーブルに座っていたパーティに話しかけた。
「
話しかけられたパーティは一瞬ギョッとしたようだったが、どうやらここでは見てないとのことだった。
「あ、あの!
先ほど話しかけたパーティのうちの一人が質問をしてきた。灰色の髪をした青年で、まだ駆け出しっぽい余所余所しさを感じる。
「そうだけど……」
「あ、僕たちは < グレイフォックス > ってパーティを組んでて、僕はデクスト。こっちの身体の大きいのがスクープ。それでこっちの女性がラフレイです」
「ああ、俺はマサト。よろしく。じゃ……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「急いでるんだけど……」
「あ、いや、マサトさんメンバー探してるんですよね? 手伝いますよ?」
「お……?」
本当に? 助かる! と言おうとしてやめる。
この世界の人って、無条件に優しい奴なんかいなかったように思える。
何かあるはず……
「目的は何だ?」
「ひぃっ!? そ、そんな睨まないでください! ただ困ってる人の助けになれればなぁと…… なぁ?」
「んだんだ!」「そ、そうだよ?」
「分かった。じゃあ30分から1時間くらいでここに戻ってくるから、それまでに
そう伝えると、俺はギルドから全力疾走で出て行く。
背後から「ええ!? ちょっと待ってぇええー!!」と聞こえたがこの際無視だ。本当に集めてくれたらお礼をしよう。駄目で元々。駄目だったら伝言残すだけなので問題はない。
俺はトレンの店へと急いだ。
ポーションの絵が描かれた看板の古びた店のドアを開けると、トレンがカウンターで欠伸をしているところだった。
「おっ! 丁度良かった。あんたの屋敷の交渉、上手くまとまったよ。その貴族もすぐ金が必要だったみたいでね。即金で出す代わりに値切りに値切って1500万Gだ。オークションであんたの
「了解。屋敷の件は、そのまま進めてください。ただ、俺は暫くここを留守にするんで後はトレンさんに任せました」
「お、おう。任された。……いや、ならちょっと条件があるんだが……」
「なんです?」
トレンは眼を逸らすと、言い難そうな表情を見せて言った。
「おれをあんたのクランに入れてもらえないか? 後、屋敷の一室を借りたい」
「ああ、そんなことならいいですよ」
俺の即答に、トレンは眼を丸くする。
そして笑った。
「はは、あんたならそう言うと思ったよ。じゃあ留守中のことはおれに任せてくれ」
「任せました。あーあと、ちょっと言い難いんですが、俺のクラン、どうやら
「はっ? おい! そういうことは先に言え!! くっそ、なら商人ギルドに相談しておいた方がいいか…… 後は……」
俺の爆弾発言を聞いたトレンは、何やらブツブツと自分の世界に入ってしまった。その後すぐに復活したトレンにプーアの件を相談し、治療に必要そうな薬草関連を1箱分購入してから店を出た。
冒険者ギルドに戻ると、
「リーダー、随分慌ただしく動いてるようじゃないか。急用って何事だい?」
真っ赤に燃えるような赤毛に、はち切れんばかりの巨乳を抱き上げるように腕を組みながら、マーレが喋る。
「こいつらが必死な形相でやってきたときは驚いたさね」
マーレが向けた親指の先には、グレイフォックスのメンバーが息絶え絶えに机に突っ伏していた。
「頼みは聞き届けました…… よ……」
デクストが机につっぷしながら、汗だくの顔に笑顔を浮かべ、こちらへ向けて親指を立てている。
俺も親指を立てて返答する。
「よくやった! ありがとう! 恩に着る!」
そして
フェイスに個室の確保をお願いし、皆でそこで待っているよう伝え、俺は受付に行ってヴィクトルかソフィーに今すぐ会いたい旨を伝える。
焦った猫耳のギルド員が、奥の部屋へ走っていき、すぐさま戻ってきた。
「マスターから了承貰いましたにゃ。どうぞこちらへ」
冒険者登録時に適性を調べた部屋に入ると、机で書類仕事をしていたヴィクトルがマサトを出迎えた。
「いらっしゃい。さて、何の件で来たのかな?」
「あなたが仕向けたソフィーから全て聞いてる前提でお話ししますよ。俺はギガンティアの末裔であるベルを匿っていますが、その関係で
俺が一気に話すと、ヴィクトルは少し呆気にとられたように目を丸くした。
「これはこれは…… まさか君の方からここまで話してくれるとは思わなかったよ。それで、私に何を期待しているのかね?」
ヴィクトルの目が細められる。
「クランメンバーの保護を」
「私は冒険者ギルドに登録している者全てを等しく保護しているよ」
「貴族の横暴から守る庇護を」
少し間、2人の間に沈黙が流れる。
「それは難しいな。冒険者ギルドが国の利権に関わる
「それは、俺がマジックイーターだとしても、ですか?」
ヴィクトルの目が見開き、そして睨むような鋭い目つきになる。
「証拠はあるのか?」
ヴィクトルの質問に、俺は召喚で答えた。
「
俺の求めに応じるかのように、身体から淡い緑色に光る粒子が舞い上がり、目の前の床に集束する。そして、光が霧散した場所に、体長1m程の
「なっ!? 召喚術だと!?」
ヴィクトルは雷に打たれたかのように顔色を変えた。
だが、まだこれだけじゃない。
俺は
「光の剣!? 何をする気だ!?」
「マジックイーターは、万物が消滅するときに発する
マジックイーターの公式設定を口ずさみながら、召喚したばかりの
即死した
ヴィクトルはその光景を唖然としながら見つめていた。
「その気になれば、国一つ簡単に潰せる」
その言葉に、驚愕の表情を見せるヴィクトル。
すぐさま鋭い目つきに戻ったが、先ほどまでの威勢はなく、額には汗が浮かんでいる。
簡単に国一つ潰せるなんて本心は思ってないけど、ヴィクトルを味方につけるならこれくらいの脅しがあった方がよい気がしただけだったりする。
「私を脅すとは…… 冒険者ギルド全てを敵に回すつもりか?」
「冒険者ギルドも一枚岩ではないでしょ? 全てが敵に回るとは考え難いですが、俺の利用価値がその程度であれば仕方ないと思って諦めます。でも、俺ならドラゴンですら単騎で狩れますし、たかが辺境にある都市の貴族くらい天秤にかけるまでもないと思いますが……」
ヴィクトルの顔が苦々しいものに変わる。
因みにドラゴンを単騎で狩れる自信はない。
「……分かった。君の要望を飲もう」
ヴィクトルは短い溜息をつくと、再び俺を見据えた。
「ただし、条件がある」
「条件?」
「君には私からの依頼を直接受けてもらう。それが条件だ」
「依頼にもよりますね。後はあなたがどれくらい俺のために動いてくれているかどうかにも。ですが、極力依頼は受けるようにします。それでどうでしょう?」
「……それで構わない」
ヴィクトルは目を瞑りながら下を向いて首を振った。やれやれという感じだろうか。
「先に俺の方からプレゼントがあります。ローズヘイム郊外、7地区のグリーディ農場付近と、更に南に行った森に、
その言葉に、ヴィクトルは再び驚愕の表情を浮かべた。
◇◇◇
「……と、いうことで、俺は暫く姿を隠しますが、何かあればここのギルドマスターであるヴィクトルが相談に乗ってくれるはずなので、困ったら気軽にヴィクトルさんへ助けを求めてください」
俺の説明に、
「う、うむ?」
「驚くことが多過ぎて、逆に冷静に慣れたあたしを褒めてやりたいね」
「おれっちは最初から分かってさ…… リーダーが規格外だってことは……」
「え、えっと…… マサトさんは、勇者様であって、更には伝説で出てくるマジックイーターで、ベルさんはギガンティアの末裔で……」
「オレは何も聞いてない。オレは何も聞いてない。オレは……」
「マサト殿が何者でも拙者は何も変わらないでござるよ」
「道理でマサトさん強い訳だよ〜。うちのパーティリーダーはこんなのだけど、私もラックス同様、命を助けてもらった恩を一生かけて返すから安心してね」
隠しておくのが煩わしくなったので、クランメンバーには全て話すことにした。
……あ、いや、ネスの里のことだけは流石に隠してある。後、ラミアのことも。
トレンが
「俺がいない間に、
この発言には全員が大いに喜んだ。
「家賃はいくらにするんだい? まさかタダにするなんて言うんじゃないだろうね?」
「う…… 取り敢えず、俺が戻るまではタダで…… そういう細かい話は落ち着いたらしよう!」
「全く…… このクランの経理担当は別に決めた方が良さそうだね」
どうやらクランで拠点を構えても、家賃やらの経費はメンバーそれぞれが負担するらしいのだが、この世界の常識は知らないので仕方がない。まぁこういうのは分かる人に任せればいい。
クランメンバーへの説明を終えた俺は、グリーディ農場へ戻った。農場の前には荷竜車が数台止まっており、
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