42 -「お店巡り」
ソフィーと名乗る魔女に尾行された騒動があった後、俺達は宿を変えた。
俺とベルはネスに頼まれた買い物を済ませるため、先に宿を出ることに。
レイアは他に監視がいないことを確認した後、闇市へ素材の売却に向かう手筈になっている。
大通りらしき道に出ると、そこには荷台に木箱を大量に載せて運ぶ竜車や、路肩に露店を構える行商人達で溢れかえっていた。
「わぁ! マサトさん、たくさん人がいますね! あっ! あれ見てくださいっ! すっごく派手な馬車!」
ベルのテンションも最高潮に達している。はしゃぐ姿がかなり可愛い。
しかし残念なことに、その容姿と振る舞いが、周囲の注目を集めていることに2人は気づかなかった。
マサトとベルが露店を物色しながら大通りを歩いていると、
「危なっ!?」「きゃっ!?」
2人の通行を妨げるように、突然馬車が急停止した。
真っ赤なボディに半分以上を金で装飾された豪奢な客車。
御者台には無言でこちらを値踏みするような視線を送ってくる初老の御者が座っている。
(これは…… 嫌な予感がする……)
マサトの不安は次の御者の一言で現実となった。
「その娘は、ボンボ・ローズ様の妾に迎えることとなった! 光栄に思うが良い!」
(やっぱりか…… しかしローズってここの都市の……)
ベルは御者から発せられた突然の要求に驚きつつも、身の危険を感じたのかマサトの後ろへ隠れた。
こういう場合、どう対処するべきなのか……
俺に考えられる選択肢は3つ。
⑴勘違い野郎は力でねじ伏せる
この場合、報復戦争になること必須
⑵無視して逃げる
この場合、追手が増える可能性大
⑶大人の対応で切り抜ける
残念ながら俺には交渉術が不足している
⑶は無理だから⑴か⑵だけど。
⑴を実行したらレイアまた怒るだろーなぁ。
やっぱり⑵が無難か……
逃げ道をそれとなく周囲を見渡して探していると、
「なんだなんだ?」
「おい、またボンボの野郎が何かやらかしてるぞ?」
「ばかっ! あんた聞かれたら鞭打ちの刑にされるよっ!」
「道のど真ん中で邪魔だな…… これだから貴族は……」
「パパ、あの綺麗なお姉ちゃんどうなっちゃうの?」
野次馬で逃げ道がなくなっていた。
いや、野次馬をかき分けるように進めば……
「ディスカス、あの男が気に入らない。鞭打ちの刑だ」
「御意に」
咄嗟にベルの身体を隠すように覆い被さる。
その直後、背中に鋭い音と衝撃が走った。
――シュバッ、ビシィイッッ!!
野次馬から短い悲鳴が所々であがる。
中には目を伏せている者もいる。
(あぁのぉくそ野郎ぉおお!)
問答無用で鞭を打ってくるなんてイカれてやがるっ!!
ベルに当たったらどうすんだ!!
「おい手前ぇ…… 覚悟はできてんだろうな?」
自分でも驚くくらいの低い声が出た。
マサトの
野次馬からは悲鳴があがり、そして大通りとは思えないくらいの静寂が訪れた。
誰しもが息を呑み、マサトの一挙一動に注目している。
マサトがその一歩を御者へと踏み出そうとしたそのとき、静寂を最初に破ったのは、意外にも人ではなかった。
「ブヒィヒヒーーン!?」
「キィシャァアアーー!?」
荷台を引いていた、周囲の馬や
動物は人よりも生存本能が強いため、強者を察する感覚が人よりも圧倒的に優れている。
そのため、マサトが放つ異常な
そこからは大混乱だった。
暴れる馬車や竜車に逃げ回る人達。
「マ、マサトさんっ!?」
マサトはベルの言葉で我に返った。
「あ、この状況まずいね…… 取り敢えず今のうちに逃げよう!!」
「は、はい!」
2人は混乱する大通りから急いで抜け出したが、マサトの起こしたこの騒動を、道脇から冷静に見ていた者は多かった。
◇◇◇
「いきなり変なのに巻き込まれちゃったね……」
「はい…… ごめんなさい……」
もう目立つまいと、2人はフードを被りながらどこかも分からない路地を歩いていた。
「マサトさん、あの、背中が……」
「ああ、やっぱり洋服破けちゃった?」
「うん、でも血は出てないみたい」
ディスカスと呼ばれていた御者が放った鞭によって、現世から持っていた唯一のTシャツがローブごと破けてしまった。
フードローブ含めて背中だけ破けているので、後ろから見たら結構不恰好に見える。
それにしても、ベルの話し方が何かイベントが発生する度にフランクになっていっている気がするのだが……
気のせいだろうか……
「あらら、じゃあ洋服屋にも行かないとだね」
「ふふ、そうだね。楽しみ!」
その後、俺とベルは洋服屋で旅用のローブや洋服、小物、荷物を入れる袋を3つ程購入した。
レイアにも
もちろんまとめ買いを理由に全部で5000Gまで値切ったので抜かりはない。はず……
ローブや洋服を新調し、気分一新で道を歩く。
道具屋の場所は、洋服屋の店員にヒアリング済みなので迷うことはない。
どうやらこの通りは高級街らしく、道は石畳でになっており比較的綺麗だ。
露店はなく、心なしか通行人も身綺麗な人が多い気がする。
ポーションの絵が描かれた看板の店へ入ろうとすると、丁度パンちゃんが店から出てくるところだった。
「あ、すみま…… えっ!? あっ! マサトさん!!」
「おっ、パンちゃんも道具屋に買い出し?」
「はい!
「クラン用…… あっ、じゃあ俺たちの買い出しにも付き合ってくれるかな? ポーションとか相場や効果の知識がないから中々不便で……」
「は、はい! 喜んでお手伝いします!!」
俺の提案にパンちゃんは満面の笑みを浮かべて応じてくれた。
(いい子やな、この子は)
道具屋に入ると、草の青臭い臭いと、薬品のツンとくる臭いが同時に鼻を刺激した。店内に窓はなく、ランプの灯りが壁に沿って陳列されている商品を照らしている。棚には色とりどりの草花や薬品が並んでいるが、値札はついていない。
「さっき行った洋服屋もそうだったんだけど、値札って基本ついてないものなの?」
「えっとですね、ここの通りのお店は比較的流通の少ない高級なものを扱っているので、商品の卸値の変動が激しいらしいんです。なので値札がつけられないのだと思います。敢えて値札をつけずに相場を偽るお店も多いですが……」
やっぱりか……
さっきの洋服屋で買った
「じゃ、じゃあアドバイス宜しくお願い」
「はい! 因みに何を買う予定だったのですか?」
「まずはポーションかな」
「お店で販売されているポーションは8等級までが基本ですね。7等級もたまに置いてありますが、大抵は売り切れてしまうのでオークションや依頼報酬で入手するのが一般的です。相場ですが、7等級で10万G、8等級で1万G、9等級で1000G、10等級は10Gくらいを目安にされるとよいと思います」
「へぇー。因みに等級毎の効果ってどんな感じ?」
「えっ? あ、効果ですか? えっとですね、7等級は上級回復魔法と同程度の効果なので、部分欠損を繋いで治すことができます。でも指の切断を繋げられるくらいなので、切断された腕を繋げたい場合は、6等級以上が必要になりますので注意してください。8等級は中級魔法と同等なので、中度の裂傷回復。9等級は初級魔法と同等で、軽度の裂傷回復。10等級は生活魔法程度なので、肌荒れやささくれを治すくらいの効果になります」
物凄く丁寧に説明してくれた。
流石に無知過ぎると思われただろうか……
効果を聞いたときに、「えっ! 知らないの!?」みたいな表情を一瞬された気がする。被害妄想かもだけど……
「ありがと。こういう知識まるでなかったから助かったよ」
「い、いえ! わたしで良ければいつでも聞いてください!」
俺とパンが話している間、ベルは店内の商品に目を輝かせていた。
店内は薄暗いので2人ともフードは外している。
ランプの黄白色の光に照らされたベルの綺麗な白髪と髪留めが、店内の雰囲気に相まって魅惑的な色気を醸し出していた。
店員の目は先ほどからベルに釘付けになっている。
因みに、髪留めは道中の露店で買ってあげたものだ。
「あの、ポーションはどのくらい買う予定ですか?」
俺がベルの方を見ていると、すかさずパンが話し掛けてきた。
「ああ、ごめん。取り敢えず持てるだけ欲しいかな。使用期限とかってあったりする?」
「持てるだけ!? あ、はい。ポーションは揮発性の高い魔法水なので、密封性の低い粗悪な瓶だと数ヶ月でなくなってしまいますが、ちゃんと作られた瓶なら数年は保つと思います! 名匠が作った瓶なら半永久的に保つとも言われてますが、わたしも実物を見たことはありません……」
数年も保つのか、なら持てるだけ買っておこう。
「了解。バラだと持ち難いから箱とかで纏めて買えたりしないかな?」
「買占めはお店に嫌がられてしまうので、買占めない程度になら箱買いでも大丈夫だと思います!」
「じゃあポーションはそれで! 後は……」
他にも物色しようとすると、ベルが何かを持ってやってきた。
「マサト! これ見て! 冒険者ギルドで見た水晶と一緒だよ!」
その台詞に俺とパンがピクリとなった。
俺は勿論、ベルに急に呼び捨てされたことに反応してしまったのだが、パンがなぜ反応したのかは分からない。
「お、おう。パンちゃん、これってLvやら適性見れる奴?」
「ベルさん珍しいもの見つけましたね。はい、魔力を流し込むことで、その人のLvや適性、加護を見る魔導具です。でも何でこの店に……」
すると店員が話し掛けてきた。
店員は20代後半くらいの青年で、深緑系の髪はボサボサで頬が痩け、目元にはうっすらと隈が見える。
「それは魔導具工房の友人に貰った物なんだ。工房で事故があったときにね、ポーションのお代として置いてった正真正銘の魔導具さ。動作は保証するよ」
「あ、トレンさん。こちらわたしが所属するクラン <
「どうも、宜しくお願いします」
「ベルです、よろしくお願いします」
「へー、パンさんと同じクランだったんだ…… ん? パンさんって <
「はい! そうですよ。なので今後ともご贔屓にお願いしますね?」
「あ、ああ、もち、もちろんだよ」
パンちゃんの笑顔にたじろぐ店員トレン。
「マサトさん、トレンさんはこの若さで店を構えるくらい優秀で、更には誠実な人なので、信用して大丈夫ですよ」
この言葉に頬を緩めるトレン。
(……トレン、意外にちょろいんだな)
これパンちゃんにいいように値切られてる口じゃないだろうか。
「パ、パンさん、そんなに煽てても適正価格以下には下げられないからね?」
「え? そんなつもりで言ったんじゃないですよ〜?」
パンちゃんは故意犯だった。
大人しそうな子でもこういう一面があるのか。
たくましいな……
結局、道具屋では以下を購入した。
・適性調べの水晶 10万G
・8等級ポーション 1ダース 12万G
・9等級ポーション 3ダース 3万6000G
・
・コシの実の香辛料 300g 3万G
・
etc
あまりに大量に注文したため、注文する度に「まだ買うのか!?」みたいな表情で驚くトレンの様子が面白かった。
因みに、「値下げしない」と言っていたのに、結局全てまとめて30万Gにしてくれた。
大分安くしてくれたみたいだけど、大丈夫なのだろうか……
・現在の所持金
所持金 72万3000G
「そういえば、パンちゃんはクラン用に何買ったの?」
「ポーションや各種解毒薬を数個程購入しました。<
あ、そっか……
クランと言えば拠点か……
最近のゲームはクラン設立で自動的にマイホーム作れるものが多かったから失念してた……
「ああ、拠点か。そうだね。考えておかないと」
するとトレンがとんでもないことを言い出した。
「拠点探しかい? それなら、丁度お得意さんの貴族で財政難な人がいてね、その人が屋敷を手放したいって言ってたの覚えてるけど…… 紹介しようか?」
異世界でマイホーム……
そそられない訳がない!
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