14 -「空のハイエナ」

 翼を持ったデカイ蜥蜴が、木の枝をバキバキと折りながら、勢いよくこちらに突っ込んでくる。


 両脚と顔を突き出し、大きな口を開けながら突っ込んでくる姿は、本能的な回避行動を取らせるのには十分な迫力だった。



「うぉぉおおぉおぉ!?」



――ドゴドドォオオ!!



 文字通り、全力での横っ飛び回避。


 さっきまで自分が立っていた場所は、ワイバーンが突っ込んだ衝撃で土が抉れていた。



(か、間一髪……)



 あれをまともに受けていたら、さすがに死んでたんじゃないかと思えるような衝撃だった。



(でもワイバーン3匹相手にどう戦う?

 ゴブリン達だけでいけるか?

 それとも拠点に逃げるか?

 いや、拠点の場所を覚えられても厄介だよな……

 となると全力で追い払うしかないか……

 よし! 方針が決まれば後は殺るだけだ!)



 俺はすぐさまゴブリン達に、目の前のワイバーンへの攻撃指示を出した。



「地上にいる今がチャンスだ! 全員でこいつを仕留めろぉお!!」



――ウガァアアア!!!!



 次々にワイバーンへと飛びかかるゴブリン達。


 しかし、そこには大きな誤算があった。



「げっ!? ゴブリンの攻撃が通ってない!? というか短剣程度じゃ皮膚に傷すらつけれないの!?」



 亜種であるとはいえ、仮にもドラゴン種。


 皮膚は高熱の炎にも耐え得る耐久性を持つと言われるだけあって、こちらの武器では刃が通らないようだった。


 こうなると一気にこちらが不利になる。


 唯一、木偶ゴブがワイバーンの首に抱きつき、動きを抑えようと頑張っているが、時間稼ぎにしかならないだろう。



(ま、マジかよ!? MEでは攻撃力の合算値が防御力を超えていれば倒すことができたのに!!)



 安直に考え過ぎていたようだ。



 苛立ったワイバーンが纏わりつくゴブリン達を強引に振り払う。


 四方に飛ばされるゴブリン達。



――ギャァオオオン!!



 ワイバーンの咆哮が再度響き渡る。


 身構えていても硬直してしまう筋肉。


 ワイバーンと目が合う。


 ワイバーンはその巨大な口を大きく開きながら、前傾の姿勢のままこちらへ踏み出してきた。


 巻き散るヨダレ。


 あの鋭い牙の生え揃った巨大な口で噛み付かれたら、ライフが40あっても即死するんじゃないかと思ってしまう。


 もちろん、試す勇気など持ち合わせていない。


 幸いなことに、この状況でも次の一手を打てるくらいには、まだ心の余裕があった。



「 《 溶岩の片手斧ラヴァ・ハンドアックス 》 ! これでも喰ってろぉおお!」



[C]溶岩の片手斧ラヴァ・ハンドアックス (赤)(4)

 [火魔法攻撃Lv5]



 その名の通り、溶岩でできた片手斧を具現化する魔法だ。


 俺は、すかさず溶岩の片手斧ラヴァ・ハンドアックスを、ワイバーンの口へと放擲した。


 片手斧は、綺麗な放物線を描いてワイバーンの口の中へ命中し……



 そのままワイバーンの頭を貫いた。



ズドォドズズザァー……



 勢いそのままに頭から地面に突っ伏すワイバーン。



(一撃必殺か。強いな…… 溶岩の片手斧ラヴァ・ハンドアックス



 VRモードだと、弾速が遅かったり、ホーミング性能のない攻撃魔法は回避される可能性が高くなるため、使う人は極端に少なくなる。


 溶岩の片手斧ラヴァ・ハンドアックスも当たれば強力だが、当てることが難しい攻撃魔法として認知されているうちの一つだ。



 ワイバーンから赤い粒子が舞い上がり、マナ喰らいの紋章へと吸い込まれた。



<ステータス>

 紋章Lv4

 ライフ 40/40

 攻撃力 3

 防御力 3

 マナ : (赤×2 → 3)(緑×18)

 加護:マナ喰らいの紋章「心臓」の加護

 装備:なし

 補正:自身の初期ライフ2倍

    +1/+1の修整

    召喚マナ限界突破6



(げっ…… マジかよ……

 こいつ倒しても(赤)一つなのか……

 割に合わな過ぎる……)



 溶岩の片手斧ラヴァ・ハンドアックスが1回5マナで、倒したワイバーンは1マナとなると4マナの赤字である。


 この手のモンスターは、MEでは倒されても対戦相手に奪われるマナが少ないため、リスクの少ない優秀な相棒になるのだが、対峙する側にとっては厄介極まりない。



……ギャァオオオン…



 空を旋回していたワイバーンが、咆哮をあげながら遠ざかっていく。



(助かった……)



 溶岩の片手斧ラヴァ・ハンドアックスはさっき使った一枚のみ。


 ショックボルトだけでは、あのでかいワイバーンを追い返せる自信はない。



「今のうちにここから立ち去ろう!」



 俺はダークエルフに振り向き、拠点への移動を促す。



「私は…… 夢を…… 見ているのか?」



 半ば放心状態でこちらを見つめるダークエルフに、若干の不安を感じつつも、詳しく話を聞くために拠点へ案内するのだった。

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