15 -「レイアの決断」
私は、奴の配下であるゴブリン達と、焚き火を囲みながら、無心で剣牙獣の肉にかぶりついている。
ガルドラの剣牙獣は、霊薬「白蓮草」を好物とするだけあり、肉に臭みがなく大変美味で、疲弊していた精神まで癒されていくような不思議な感覚もあった。
白蓮草を煎じて飲めば、致死毒ですら中和できるとさえ言われているが、その価値の殆どは滋養強壮薬としての劇的な効果として評価されている。
その効果の一部が、この肉にも染み込んでいるということだろうか。
だとすれば、木に大量に吊るされている剣牙獣の肉は、相当な価値があるのではないか。
「で、レイアさん。もう一度聞きますが、本当にプレイヤーじゃないんですね?」
「だから、そのぷれいやーというのは何だ? 私はダークエルフのレイアだ。それ以上の何者でもない」
先程から、マサトと名乗るマジックイーターが、私に度々意味不明な質問を投げかけてくる。
「そんなことより、お前の目的は何だ? なぜこのカルドラの地にやってきた?」
「いや、だから何度も言ってるけど、俺も分からないんですって……」
不毛なやりとりが続き、結局は何も分からないまま腹だけが膨れた。
「私を、どうするつもりだ?」
「え? いや、どうもしないけど……」
私が今まで会ってきた力のある者達は、誰しもが独自の覇気のようなものを身に纏っていた。
だが、目の前の男にそのような覇気はなく、表情は虚ろにボーっとしている節がある。
だが油断は出来ない。
「ちっ…… まぁよい。お前はこれからどうするつもりだ?」
「露骨な舌打ちきた…… いやなんでもないです。うーん、そうだなぁ。どこか人の住む場所に案内してもらえませんか、ね?」
「断る」
「ですよねー。断られそうな気はしてました」
「………」
「………」
「私を解放しろ」
「そもそも拘束したつもりはありませんよ」
「ならば、私がここを立ち去っても、決して後をつけてくるなよ?」
「フリですか? ああ、いやなんでもないです。ですがそれはちょっと約束できないですね」
「なぜだ?」
「だってあなたに付いて行けば人のいるとこに行けるんでしょ?」
「ちっ……」
奴の目を盗んで逃げることも考えたが、周囲には、私の隠密を見破ったゴブリンが目を光らせてる。
これでは身動きが取れないというのが本音だ。
出来れば今すぐ集落に戻り、ネスの指示を仰ぎたいところだが、奴を集落に連れていく失態までは演じられない……
しかし幸いなことに、奴は私をどうこうするつもりはないらしい。
身を呈して、私を剣牙獣やワイバーンから守ってくれたことは事実なようだ。
いや、それも私を油断させる罠なのだろうか……
だが、何が理由でそんなことを……
考えれば考えるほど、思考の深みにハマっていく。
ふと、ネスの言葉が頭をよぎる。
ーー協力者になり得るようであれば接触を試みようじゃないか
(協力者、か)
こいつは私達の協力者に成り得るのだろうか。
いや、本心では既に理解しているのは分かっている。
奴は協力者に成り得る。
その力は十分に有る。
剣牙獣の群れだけでなく、単騎でワイバーンを狩れる者は希少だ。
それに、元々は私達集落の住民だって、素性の知れない赤の他人の集まりに過ぎない。
だが、ワイバーンをも簡単に屠る異能を持つ者に、私は恐怖心を抱いてしまった。
その恐怖心が、私を不安にさせ、判断を鈍らせている。
冷静になれ。
そして考えるんだ。
集落のために私が何をするべきかを。
今更奴に策を講じても怪しまれるだけだろう。
であれば……
私は立ち上がり、身に付けていた衣類を脱いだ。
「正直に話そう。私はお前が怖い。怖くて仕方がないんだ」
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