第15話 十三回ガチャ


 起きたら時間は昼過ぎ。

 まだ五時間ちょっとしか寝られていないが、自然とすっきり起きれた。

 疲れや眠気はない。爽快な寝起きである。


「いや、いくらなんでも可笑しいだろう」


 俺は元々寝起きが良い人間ではない。これまでなんで気づかなかったのだろうか。

 どう考えても疲労回復速度が可笑しい。


 原因はなんだと考えてみれば、それはタップガチャ以外にない。

 だが回復力を上げるようなスキルがあるわけではない。

 昨日はポーションだって飲んでいないし、治癒魔法スクロールだって当然未使用だ。

 であれば、一体何が俺の回復力を底上げしてるのか。


 底上げ……身体強化か!


 考えてみれば、身体強化は筋力や運動能力強化ではなく、身体能力そのものを強化するスキル。

 その対象には身体を回復させる能力も含まれていたというわけだ。


 こんなことに今更になって気づくなんて間抜けがすぎるな。

 昨日アプリ専用スマホを当てて気を引き締めようと考えを改めたのにすぐ粗が出てきた。

 もっと用心しないと足元を掬われかねない。


 俺は一度タップガチャで出たアイテムやスキルの見直しをすることにして、何か見落としている部分がないかしっかりと確認することにした。


 確認作業に小一時間ほどかけて、もう見落としはないと確信できたので、とりあえず一安心。


「ふぅー。安心したら腹減ってきたな」


 安堵のため息を吐きつつ、お腹を満たすため朝食兼昼食を食べることにした。



 腹を満たして満足したところで、今日の予定を確認する。

 とりあえず第一にやることは宝くじの換金だな。

 近所というか地元にすらM銀行はないので遠出することになるが、絶賛無職の俺に明日からの予定などないので、金もあるし泊まりがけで行こうと思っている。

 大体行きだけでも三時間ちょっとかかるので、今から行っても銀行に行ってもバタバタするだろうから、今のうちに電話で明日の予約を入れておく。もちろん時間は朝一で。


 後は泊まるホテルだが、こちらについては予約しないで、ラブホテルに宿泊しようと考えている。

 お金もあることだし、久しぶりにデリバリーして女の子とのスキンシップを楽しみたいからな。

 彼女すら出来たことのない童貞だが、半年に一度くらいのペースで地元のそういった店の女の子をデリバリーして楽しんでいるので、まったくの未経験というわけではない。ただ、本番なんてもちろんしたことないので当然素人童貞でもなく、生粋の童貞であるが。


 性欲の発散は男にとって大切なことなので、お金もあることだしじっくりと吟味して最高の相手を選びたいところだ。お誂えむきに鑑定があるから事前にプロフィールとの差異を確認し、最悪の事態を防ぐ。

 俺は十八になってからこれまで四回そういった店を利用したことがあるが、指名料金をケチっていたので、その結果半分は所謂デカくてブチャイクなオバチャンに当たった経験がある。それが俺のいうところ最悪の事態であることは言うまで間もないことだ。




 さて、予定も決まったところで、お待ちかねのガチャタイム。

 昨日徹夜で無心でタップし続けてために貯めた十三回分一気にガチャを回す。



【アイテム:C.初級ポーションを獲得しました】

【アイテム:UC.中級雷魔法スクロール(使い切り)を獲得しました】

【スキル:C.気配察知 Ⅰを獲得しました】

【スキル:R.オートマッピングを獲得しました】

【スキル:C.体術 Ⅰを獲得しました】

【スキル:C.暗視 Ⅰを獲得しました】

【アイテム:C.高級焼き鳥弁当×20を獲得しました】

【アイテム:UC.中級ポーションを獲得しました】

【アイテム:C.キャンプセットを獲得しました】

【アイテム:C.ボールペン×200を獲得しました】

【アイテム:C.緑茶×100を獲得しました】

【スキル:R.適応体質を獲得しました】

【スキル:SR.韋駄天を獲得しました】


『体術スキルの統合により、体術 Ⅰが体術 Ⅱにランクアップしました』


 十三回の内訳は、コモン八つ、アンコモン二つ、レア二つにスーパーレア一つ! 最高のガチャ結果である。

 そしてここで初めてスキルのダブりが出た。その後すぐに統合された上でランクアップすることになり、スキルのダブりは決して悪い結果ではないことがわかった。

 アイテムだってポーションとかなら全然ダブりも大歓迎。ただ、ボールペンとか食品系は勘弁願いたいところ。それらは金を出せばいくらでも買える。今はファンタジー系のアイテムやスキルが欲しいんだ。

 今のところはガチャ特有の物欲センサーも反応していなく、ファンタジー系が多めに出ている印象がある。

 ぜひこのまま物欲センサー様には永遠にその活動を休憩しておいて欲しいものだ。


 さて、気を取り直してダブりと効果を見るまでもないものを除いて詳細を見ていく。



【中級雷魔法スクロール(使い切り):中級雷魔法サンダースピア魔力消費なしで一度使うことができる魔法の紙】


 サンダースピア。正に雷魔法っぽいネーミングセンスだ。名前から察するに雷の槍を放つ魔法だろうが、威力は未知数。そもそも別系統だあるが初級魔法の効果も試せてはいないし、今後要検証といったところか。検証場所はもちろんダンジョンだから、まだまだ先になるが、今からとても楽しみだ。



【気配察知 Ⅰ:自分を中心に半径十メートル以内に存在する生物の位置を把握できる】


 異世界ファンタジーでは鑑定やアイテムボックスなどに並んでお馴染みなスキル。効果はどうなんだろうか? ぱっと見は短いと感じたが、位階が上がっていけばかなり便利なスキルになると思われる。今後に期待ってやつだな。



【オートマッピング:自分を中心に半径五キロ圏内の地図を自動で記録していく。他スキルとの連動可能】


 あるとは思っていたが、ダンジョン探索ができるとわかって早々手に入れられるとは思いもしなかったので、レアとはいえかなりの大当たりスキルと言える。

 スマホの地図アプリがあるのでこっちの世界ではほとんど意味のないスキルだが、いざダンジョン探索するようになった時に困らないよう一応これから常に発動しておく。

 範囲も広いし、他のスキルとの連動もできるという優れものなので、ダンジョン探索時は重宝すること間違いなしだからな。



【暗視 Ⅰ:暗い場所でもよく見えるようになる】


 効果は名前そのまんま。ダンジョンが薄暗い場所なら有用だろうが、そうでもない限りは今のところ使い道のないスキルといえる。俺は夜明るいと眠れない派の人間なので、普段は効果をオフっておかねばならない。少し面倒なスキルだ。



【中級ポーション:飲むと初級ポーションの効果の五倍程度の効果があるのに加え、病気の治癒も可能】


 初級と比べて五倍の効力があるだけでも十分なのに、それに加えて病気の治癒までついに可能になってしまうとは、流石は中級ファンタジー回復薬である。

 この感じなら、中級雷魔法の威力もかなり期待できるだろう。

 上級やさらにその上は一体どんな効果になるのか、気になって仕方ない。

 レアから上は中々出ない上に、さらにそこからピンポイントでポーションが排出されるとなると、一体何回ガチャを引けばいいのなわからないが、期待してご対面の日を待っておく。



【適応体質:全てに即座に適応する体質となる】


 これは……どういうことだ? 説明文が抽象的すぎて判断がつかない。

 レアスキルだしハズレということはないだろうが、果たしてどういった意味で捉えればいいのだろうか。

 暑い場所や寒い場所でも生きられるように適応する体質となる。

 ウィルスや病原菌にすぐに適応して病気にならなくなる。

 どんな状況下に置かれても適応して冷静な判断が下せるようになる。

 言葉通りに考えるだけでも捉え方はどうとでも取れる。まさか全てってこともありえるのか? レアスキルだし、ワンチャンその可能性も大いに高いが、今のところは不確定なので保留。

 今後効果を確認していって要検証といったところだな。



【韋駄天:人知の及ばぬ速度で身体を自在に動かせるようになる】


 ガチャ二度目となるスーパーレアスキル。

 こちらも効果は抽象的で一体どれだけの速度が出せるかはわからない。がしかし、過去改変すら可能とする美形と同じスーパーレア。

 人知の及ばぬなんて表現は伊達ではないだろことが容易にわかる。

 ダンジョンを探索する上で、モンスターがいた場合、避けるスピードや攻撃するスピードなどが速くなるというのはかなりありがたい。

 そう考えれば間違いなく有用であり大当たりなスキルと言える。

 これがあれば、初級ダンジョン程度なら安全に探索できる可能性が高い。

 なんと言ってもまだ初級だし、罠や自分より強そうなモンスターに遭遇しても、韋駄天で逃げればいいのだ。

 相手も場所も人知の及ばぬ所だから完全な油断は禁物だが、間違いなくダンジョン探索しようとしている俺にぴったりなスキルと判断できる。



 これでガチャ排出物の確認は終了。

 まだ効果の程がよくわからないスキルも存在するものの、大勝利と言っても過言ではない結果なのではないだろうか。

 ダンジョン探索を始めるための準備が急速にペースで進んだと言ってもいい。

 この調子でファンタジー系のガチャが出まくれば、それほど時間をかけずともすぐにダンジョンに行ける準備は整いそうだ。


 素の肉体を鍛えずとも韋駄天のおかげである程度のアドバンテージは取れるだろう。

 適応が上手く機能すればモンスター殺しやまだ見ぬダンジョン探索も冷静に行える。

 回復アイテムも万全とはいかないが、それなりに揃ってきたし、飛び道具ともいえる攻撃魔法も使える算段がついた。


 これは近々ダンジョン探索を開始しろというガチャからの思し召しなのかもしれない。


 これだけ纏めてダンジョン探索に有用なスキルやアイテムばかり出ているのだから、考えすぎということもないはず。


 キャンプセットや食料だって、捉え方によってはダンジョン探索の為の物資と考えられる。

 


 これなら十分今からでもダンジョンを冒険できる……なんて考えていたら手痛いしっぺ返しをくらう。


 まだまだ準備は万全ではない。

 回復アイテムは最低でも十個。遠距離攻撃も同じだけ。

 武器だって一つじゃ足りないし、それを従前に扱うためのスキルが必要だ。もしくは訓練して技術を身につけるでもいい。


 とにかく、ダンジョン向きのレアスキルやスーパーレアスキルが出たところで焦ってはいけない。


 まだ今は準備期間だ。


 湧いて出てくる好奇心を抑え込み、自分が心の底から納得のできる形に準備を整える。冒険はそこからだ。



 という結論も出たところで、今日のガチャは一旦終了。

 時刻はなんだかんだ考えているといつの間にか三時を過ぎていた。

 夜飯は出かけ先で食おうと思っていたので、今出れば丁度いい時間に着くだろう。



 こうして俺は明日宝くじの引き換えに出向くため、前乗りで旭川へと向かうのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る