第14話 驚愕のコモン



 手にしっくりとくるアプリ専用スマホを高速タップし続けること一時間半。なんとそれだけの時間で二十万ポイント以上を貯めることができた。一回のガチャ分を四十五分程度で貯められた計算になる。

 これまでは早くても五十分はかかっていたのだから、かなりタイムが縮まっている。

 これがアプリ専用スマホの性能というわけか。とんでもないな。


 本日のガチャノルマ分は貯まったし、実家でやることもないのだが、なんだかんだでのんびりしていたら、いつの間にか昼も夕飯も食べていて、気付けば夜になっていた。


 姉は明日仕事ということで、もうすでに家に帰り、妹も明日朝早くから部活の練習があるということで、既に寝ている。時間はもう午後十時を回っているのだから当たり前だな。


 俺もそろそろ自分の家に帰ろう。


 まだ起きていた父と母に帰ることを伝え、実家を後にする。


 これからは頻繁にはいかないが、それなりの頻度で帰って来ることを告げると、二人は心なしか嬉しそうな表情をしていた。


 そんなわけで、一日ぶりの一人暮らしの家に帰宅する。

 久しぶりの家族との時間が思った以上に楽しく暖かかったからか、なんだかとても寂しい気持ちになってしまう。

 こんな時彼女がいたりしたらこんな気持ちも吹っ飛ぶのだろうが、生憎と俺は年齢=彼女なしの童貞男なので考えるだけ不毛なものだ。


 でも、イケメンで金持ちになっているし、すぐにとはいかないが、いつかは彼女が欲しい。

 タップガチャアプリでハーレムを築いても問題なくなるような何かが出れば最高なんだけどなんて考えつつ、自室で一人寂しく眠りにつく……前にガチャを引く。回数は三回だ。




【アイテム:C.初級治癒魔法スクロール(使い切り)を獲得しました】

【スキル:C.アイアンソードを獲得しました】

【アイテム:C.初級ダンジョン入場チケット(使い切り)を獲得しました】



「……」


 絶句した。ガチャ結果が全部コモンという爆死結果だったから……では当然ない。

 ガチャの結果がファンタジー過ぎたからだ。そこからフリーズして再起動するのに数分を要するほどの驚き、衝撃を感じた。


 だって、魔法に武器に、極め付けにはダンジョン! ついにここにきてファンタジーが現実になったのだ。


 いや、元からこのアプリ自体がファンタジーみたいなもので、出てくるものも余すことなくファンタジーだったが、やはりそれでも、剣と魔法とダンジョンは別格にファンタジーだ。

 ファンタジーがファンタジーでファンタジー過ぎて最早ファンタジーがゲシュタルト崩壊してしまいそうなほどにファンタジーで語彙量もおかしくなってくる。


 一旦落ち着かなければならない。


 ここでいつまでも混乱していても仕方ない。



 ビークール。冷静になれ、春川陽。



「ふぅー、よし落ち着いたぞ」


 言葉に出して冷静になったことを再確認したところで、早速ガチャ結果を改めて振り返る。まずはアイテムの効果の確認だ。今回は名前が名前なのに一つ一つじっくりと確認していく。まずは魔法スクロールから。


【初級治癒魔法スクロール(使い切り):初級治癒魔法ヒールを魔力消費なしで一度使うことができる魔法の紙】


 わかってはいたが、本当に魔法だ。

 いや、ポーションやスキルだってファンタジー世界ゆかりのものだからあっても可笑しくないはずだからいいんだが、本物の魔法。

 小さい頃に夢にまで見た魔法。大人になってもたまにできないかと寝る前に考えてしまうほどの人にとっての永遠の夢魔法。

 しかも魔力消費なしでという説明文的に、魔力消費が必要な魔法スキルがあるっぽいことを示唆している。アイテムで魔法スクロールがあるなら当然あるよな、魔法スキル。なかったら泣くぞ。恥も外聞も捨てて大人がマジ泣きするところなんて見苦しいことこの上ないので、是非ラインナップにはあって欲しいものだ。


 よし、これについての確認はこれで終わり。

 まだ一つしかないし、魔法はいざってときのために温存決定ということで、次のブツを確認する。




【アイアンソード:ドワーフ謹製の鉄の剣。他種族製の物よりも切れ味や耐久力等あらゆる面で優れている】


 ドワーフ! エルフと並ぶ二大ファンタジー種族の存在がガチャによって確認された。いや、きっと俺の住む世界というか地球にはいないだろうけど、それはつまり逆説的に考えると異世界が存在しているということになる。

 鍛治で有名なドワーフ謹製の武器がコモンというレア度なのも衝撃的な事実だが、それ以上にドワーフという単語のインパクトが強い。

 この感じなら、オリハルコンソードとかアダマンマイトソードとか、ヒヒイロカネソードなんかもありそうである。もちろんドワーフ謹製で、きっとレア度はスーパーレアかウルトラレアであること間違いなし。

 そんなファンタジー武器がガチャで手に入るかもしれないと考えただけで、ワクワクが止まらない。

 よし、この調子で大本命の確認をしてみよう。



【初級ダンジョン入場チケット:異世界に存在する危険度が最も低いクラスのダンジョンへの入場チケット。選ばれるダンジョンはランダムとなる】


 異世界存在確定! 効果は名前の通りだけど、それが最も重要で大切なことだ。

 初級ということで危険度が最も低いと書かれているが、危険がないというわけではない。つまりは、このチケットを使って侵入するダンジョンには、罠やモンスターが存在する可能性が高いということだ。

 チート能力を授かったダンジョンを冒険したいと常々夢見ていた。

 そんな大人になってからの絶対に叶うはずがないと思っていた夢がついに叶えられる。


 不可能を可能にするもの、タップガチャは偉大な存在だ。


 ただ、焦ってはいけない。


 たしかに回復アイテムはポーションと初級治癒魔法スクロールで合計二つ。

 身体能力も高くなってるし、そんな身体能力を自在にあやつるスキルも保有している。

 さらには武器だってガチャ由来の物を取得した。

 でも、それだけではまだ足りない。


 危険度が最低とはいえ、その最低がどのくらいかは行ってみないとわからないので当然未知数である。

 であれば、最善の準備を整えて、満を辞して冒険に出かけたほうがいい。


 最初の冒険で呆気なく死ぬのなんてごめんだ。


 安全に楽しく適度にスリルのある冒険を俺は求めている。


 モンスターがいるだろうから、そいつらを殺しても何も思わないよう精神耐性系のスキルは必須。罠感知や解除スキルもできれば欲しい。

 回復アイテムだってもっと必要だし、遠距離武器も用意しておきたい。

 素の肉体もまだまだ貧弱なので鍛える必要がある。


 まだまだやるべきことはたくさんあるが、総じて言えるのは、俺がダンジョン冒険するにはまだ時期尚早ということ。


 ダンジョンに行くには入念な準備が必要だ。


 だが、俺の心は今すぐにでも冒険に行きたいと叫んでいる。



 であれば、今やるべきことは一つ。


 タップしてガチャを引きまくる。




 一刻でも早く準備を整える為、おれは今日からこれまで以上に真剣にガチャポイントを貯める。



 それからひたすらスマホをタップし続けて、冷静になったのは次の日の朝七時。



 ポイントは驚異の百三十万越えを記録。



「寝るか……」


 冷静になった途端に徹夜したツケである強い眠気に襲われ、その後おれは死んだように眠りにつくのだった。


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