第2話




「いらっしゃいませーー!!採れたて新鮮なリンゴはいかがでしょうかーー!?」



 少年の元気な声が賑やかな市場の一角に響く。その元気な声に注意を惹かれ一人の女が店先に並んだ瑞々しい深紅のリンゴをジッと見つめて売り子と思わしき茶髪の少年に声を掛けた。



「ねえ、そこの貴方。このリンゴを十個くれないかしら?」


「ありがとうございます!ひとつ2ゴールドなので……合計で20ゴールドになりますね!」


「まあ、安いわね……はい、20ゴールドよ」


「一、二、三……はい!確かに20ゴールドお預かりしました!あ、りんごが痛まないように紙袋にお入れしますので少々お待ちくださいね!」



 にこにこと明るい笑みを浮かべて手際よくリンゴをぽいぽいと紙袋に入れていく少年だったが、不意に店の奥から出てきた男にポンポンと肩を叩かれた。



「おい、アルフ。もう今日は帰っていいぞ。」


「え?でもまだ仕事の途中……」


「いいっていいって。お前のお陰で大分りんごも捌けたし、それにこの後も酒場で仕事だろう?少し家で休んだ方がいいって」


「て、店長……ありがとうございます!!じゃあお言葉に甘えてお先に失礼しますね!!」



 少年はリンゴを入れていた紙袋を手早く男に手渡し、バッと男に向かい頭を下げると疾風のような速さで店を後にする。その一部始終を見ていた女は少年の代わりにリンゴを詰める男に向かって話し掛けた。



「まあ、あの子この店の子じゃなかったのね」


「ええ、昼から夕方までウチで働いてもらっている期間限定の売り子ですよ」


「期間限定?」


「ええ、そうです。なんでもお金を貯めてフォルギス剣技場に入門するらしくて……」


「まあ!フォルギス剣技場ってあのイケメン……じゃなくてあの元王国騎士団長が師範をしているって言うあのフォルギス剣技場?あれ、でも確か噂だと人気過ぎて入門料がすごーく高くなっていると聞いたけど……ここだけの稼ぎで入門料が貯められるのかしら?」


「あはは、ご婦人ったら結構はっきり言いますね~~……でもご婦人の言う通りここだけの稼ぎじゃ足りないので酒場とパン屋も掛け持ちして入門料を稼いでるみたいですよ」


「あら、そうなの!あんな小さい子が三つも仕事を掛け持ちしてるなんて大変ね~~……じゃあ、応援の意味も込めてあとりんごを10個貰っちゃおうかしら!」


「まいどありーー!!」



 男はニコニコと笑顔で追加のリンゴを手際良く紙袋へと詰めていく。こうしてかつて魔王軍に攻められ、絶望に支配されていた街はその時の面影を欠片も残さず、穏やかに過ぎて行くのであった。



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