絶望......そして旅立ち
日が暮れる直前に、コミュニティの周辺までたどり着いた。
すると、一人の女の人が道端で倒れていた。
肩口を大きく切られて出血している。
三人は駆けつけてアンリが抱きかかえる。
「どうしました?大丈夫?」
アレスが女性をのぞき込む。
「ヤーマンおばさんじゃないか!一体どうしたの、この傷は?」
「あ~アレスちゃん、お父さんたち帰ってきたら、急に剣を振り回してお母さんも子供も、全員殺されたの」
アンリとビーオンは驚いて身を乗りだす。
「えっ?何?意味わかんない?」
「お母さんも......供もみんな......私は陰に隠れて…ここまで......」
アレスとビーオンはコミュニティの方を向き直った。
「行こう!」
二人は駆け足でコミュニティを目指した。
町に向かう途中、街道に死体が、一体、二体と点々と転がっていた。
全て切り捨てられている。小さな子供の死体も混じっている。
(何があった......まさか父さんたちが......何かの間違いに決まってる......)
アレスの住んでる周辺は、前が憩いの広場のようになっていて、その周辺の半崩壊しているビル群を住処にして多くの人が暮らしていた。
いわばノニオン地区の中心で一番人口の多い場所だ。
その広場にアレスは駆けつけた。
沢山の人の亡骸があちらこちらで無残な姿をさらしている。
自分の住処に駆け込む。
「母さん?」
しかし母親は奥の壁にもたれ掛かるように絶命していた。
腹に一突きだったらしい。
「母さん!母さん!」
アレスは母親の亡骸を抱きあげる。
母親の体からはもう温もりは感じられない。
「母さ〜ん!」
一方ビーオンも住処にたどり着いた。
母親はうつ伏せに倒れていた。息をしていないのはすぐ分かった。
背中の刺し傷は、逃げ惑った挙句の結果だろうか。
ビーオンも母親を抱き起こし、顔を覗き込む。
血の気の引いた白い顔は穏やかとまでは言えないまでも、苦悶の表情は見受けられない。
ビーオンは母親を抱きしめ悲嘆に暮れる。
「母さぁーん!」
アンリもヤーマンおばさんが息を引き取ったのを見て、自分の家に駆けつけた。
母親は玄関外で息絶えていた。
頭をこちらに向け天を仰いでいた。
アンリはしゃがみ込み、母親にしがみついて泣き崩れた。
日が落ちやがて夜を迎えた。
三人とも、母親のそばから離れず悲嘆に暮れていた。
アレスがふと眠りから覚めた。
どうやら泣きつかれて少し眠りこけたようだ。
このコミュニティには誰も生きて逃げ延びた者はいないのだろうか。そんな人がいたら会ってみたい......
父が自分の愛する妻や子供をこうも一斉に襲いにくるものだろうか。
本人ではない何者か? もしくは......?
(父を探さないと!)
この星では、自分たち『名もなき者』には化学は滅んだと言い含められてきた。
だがコミュニティから一歩出て、自分たちが入れない地区に侵入すれば、さまざまな先進技術がまだまだ使える状態で残っている。
『名もなき者』つまり俺たちだけが知らないだけだ。
俺たちはいったい何のために生まれ何のために生きているのか……。
『名もなき者』を殺したところで、何も咎められることはない。生きていても価値がない人間……それが『名もなき者』だ。
「!」
(俺たちが居る理由『名もなき者』が作られた理由を知らなくてはならない)
夜が明け朝日が昇る。
灼熱の太陽が燦々と降り注ぎ、すべての水分を奪ってゆく。また今日も残酷な一日が始まる。
だがもうノニオン地区は全滅したのだ。この暑い日をどう乗り越えるか考える者はいない。
アレス、ビーオン、アンリは話し合って、母親の亡骸を土に埋めることにした。
町のはずれの小高い丘の上、大きなバオバブの木が成るところに埋めることにした。
樹齢数千年といわれる樹木に吸収されてこの先もバオバブの一部として生き続けてくれるような、そんな気がした。
母親を弔ったその日も心の整理に時間を費やすことになった。
夜になると、ビーオンとアンリは何か理由があるわけでもなく何となくアレスの下に集まった。
ローテーブルの上にランタンが灯る。
みんな言葉少なげでほうぼう好きなところに座っている。目はうつろだが何かを求めていた。
ビーオンが顔を上げ、みんなの方を見まわす。
「これからどうしよう......」
一瞬で両親を失った。父親は母殺しの可能性を持ち行方不明……
そして自分の所属するコミュニティは全滅した。
帰る場所もなければ自分を自分と認めてもらえる場所すら無くなった。ともすれば自暴自棄になり精神崩壊しかねない。
俺たちが生きている意味、そして居場所を探さないと……。
でないとこの先は絶望しかない。
そうだ!
やるべきことはまだまだある!
父の行方と真相、そして『名もなき者』が作られた理由。
アレスの目に決意の炎が宿った。
「バレンティンのところに行こう。奴なら国家や『名も無き者』についても詳しい。父さんの事も何か得られるかもしれない」
バルバラ一家は『名も無き者』では無かった。バルバラ一家に所属している者は、彼ら独自の秩序に従って生き、自己の根幹を形成しているのだ。
「分かった、着いていくよ」
「私も行くわ」
アレスたちは、この世界の謎を解明し、自分が生きる意味を探す旅が始まる。
失われた水の惑星一 完
失われた水の惑星 コウ イザム @kouizam
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