強盗が誕生日会に侵入した話

maise

happy birthday!

 俺は拓哉、強盗だ。


 今まで何件もの店や家で強盗をしてきた。


 だが、人を傷つけたり、〇したりしたことはない。


 今日も、ある家を目指して、強盗に入る。




「ここか…」

 すこし高級に見える住宅街にそびえる、一つの家。


 ここらには、若い金持ちがうようよいるらしい。


 しかも、今日狙う家の住民は、鍵がいまだにキーピックで開けられるタイプのやつらしい。

 



…これは行くしかない。



広くあいた玄関に入り、まずはドアが開くかためしてみる。ちなみに、これで開いたことはない。そんな不用心な奴が…





ガチャっ




…いた…


 まさかこんなにたやすく入れるとは思わなかった。


「まじかよ…」

予想外の展開に、理解が追い付いていない俺の頭を何とか回転させ、マスクとサングラスを装着することに成功。あ、ショートのかつらは必需品だ。


部屋の中に入るが、カーテンがしまっているのか、暗くてなかがよく見えない。


…真昼間からカーテンを閉める?


こんなことは初めてだ。警戒しながら中に入る。


そーっと、そーっと…






…ぎしっ!

まずい。音が鳴ってしまった。


「え? 今…」

「マジ? いんの?」

「やっちゃう…?」


こそこそとしゃべる音が聞こえる。しかも複数。


どうする。複数人を相手にするのは面倒だ。どうしようか…


いやいや、ここで逃げてどうする? こんな金持ちの家、もう入ることはできないだろう。


パパンッ!


そんなことを考えていたら、いきなり銃声音のような、乾いた音がしたかと思うと、いきなり部屋が明るくなった。


「happy birthday!」


は?



見ると、クラッカーが向けられている。


あたりを見回すと、「タクヤ 誕生日おめ!」と書かれた垂れ幕が。


どうやらこの自宅の住民の友達が、サプライズパーティーを開いていたらしい。


…気まずっ


「お、どうしたんだよタクヤ! びっくりして声も出ないのか?」


タクヤ…俺の名前だ。


そんなことを考えたら、まるで俺が祝われているみたいだな。




…悪くないな…



「ああ…いや…びっくりしてて…そうだったな…俺、今日誕生日か! ハハッ! サンきゅ!」


こんな口調したことないのであっているかは分からないが、この友達らしき奴らが何も言わないってことは、そう言うことなんだろう。


「ほら早くマスク取ってケーキ食べろよ! 俺らが頑張って二週間前から用意したんだからな!」



…あっ…


まずい…非常にまずい状態になってしまった。これはやばい。どうしようか…


「おぅ! もちろんだ! だけどその前に…手、洗ってくんな!」


そう言って、洗面所に入る。


今のは正直言って、危なかった。今年一番危険な強盗だ。


いや…こっそり入っていくなら、泥棒の方が近いか?


あ、そんなことはどうでもいい。


とりあえず、リップクリームはないだろうか?


傷跡を作れば、顔が多少変でも誤魔化せる。




…ない。



そもそも、洗面所には、いっぱいに貼られた鏡と水道と、お風呂場とトイレしかなく、化粧品を入れるようなスペースはない。



どうするんだ…


途方に暮れて鏡にもたれかかると…




キィ


は? は? は????????



鏡だと思っていたものが、いきなり開いた。


おいおい…まじかよ…


とりあえずその中を探すと…


「…あった。」

「おーい! まだかよ! 頑張って作ったんだぞ!」

「トイレも行ってんのかよ!」


「おっ、おう! もう少しな!」


そういうと慌ててリップを頬、おでこ、目の周りに塗る。


そこにマジック(黒)でグロテスクな感じをだして…


「うん、これなら大丈夫だろう。」


「おまたー!」


「おう! って…」


「なんだそれ!」


案の定、友達たちは驚く。


「ああ、今日帰り道、階段から転げ落ちちまって…」


「おいおい、大丈夫かよ…」


だいぶ苦しい言い訳だが、意外と信じてくれている。


…バーカ


「とりあえず、食べようぜ! 俺腹減った!」

「おっ、おう!」


そのあと、俺らは誕生日ケーキやチキンを食べ、歌を歌った。










「俺ら、ずっと友達な!」


ある程度腹が膨れたところで、友達が言った。


「は…? なっ、なんだよいきなり!」

「俺ら、ほら、小学生のころから一緒だろ? でも、中学、高校、大学と別れて、なかなか日付合う日がなくて、やっと今日の誕生日だったんだよ、な。」

「そうそう! この4人で会うのも久しぶりだよな!」


久しぶりなんだ…

「何年ぶりだ? 2年?」

「もっとだろ、3年半くらいだな!」


そんなに会ってないのか…

なんか申し訳なくなってきたな…


「俺…今日の誕生日会が、ずっと楽しみだったんだ…うっ…だって、もう、俺らで集まれないのかと思って…」

「おいおい泣くなよ! 会えたんだからもっと楽しく行こうぜ!」

「ううっ…そうだよな…そうだよなあ! 今日は盛り上がろうぜ!」





……………






「おいおい、タクヤもかよ! 泣くなよ! もう会えないわけじゃないんだし!」



…いや、もう会わない。


「ちょっと、風に当たってくる。」


「は? なんだよいきなりw」


「なんでもない、ちょっと熱くなっただけだ。それよりお前ら。」


「なんだよw改まって。」


「友達大事にしろよ。」


そういって、俺は家を出た。



そのあと、俺は携帯を取り出し、電話を掛けた。


「もしもし」

『お? 拓哉か? 懐かしいな! 元気か! またどこかで会おうぜ!』

「おう。だけど、ちょっとしばらくは会えないかもしれない。それでも、俺の…友達でいてくれるか?」

『おう! 当たり前だ!』


さっき聞いたセリフと同じようなものを感じ、また涙が出てくる。

こぼれそうになって、慌てて電話を切った。


1分もない会話だったが、俺の決意を固めるには十分だった。


携帯をしまい、歩く。




ずっと、ひたすら歩く。



その先には…
















 

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