カンパネラを鳴らして15

久遠は部屋の扉をノックする。

コンコンと2回鳴った後、少ししてから飛鳥の声が響いた。

「誰ですか?」

「久遠です。もしよければ話がしたいと思って。」

扉が数センチ開き、隙間からちらりと飛鳥は覗いた。久遠しかいないと分かると、扉を開けて部屋に入ることを許した。

飛鳥の部屋はシングルベッドがあり床には丸い水色のカーペットと少し小さいテーブルが置いてある。テーブルのそばには白の座椅子が置いてあった。ベッド側には出窓がありそこには写真が飾られている。

「突然ごめんなさい。あの、弥生のことで色々思うところがあるから…。どうぞ。」

部屋を見回す久遠を座椅子に座るように促すが久遠はそれを断った。

久遠はゆっくりと部屋を見回す。女の子の部屋と言えるが、年頃の女の子の部屋にしてはシンプルで何も無く殺風景である。

久遠は出窓に近づき写真を眺めた。

写真には仲良さげな女の子2人が写っている。

1人は飛鳥だということが分かった。

「この人が弥生さん?」

「はい。同じ歳の姉妹と言いますか…親友にも近い関係の…。」

「…そうですか。写真をよく見たいので持って見てもいいですか?」

「あ、はい。どうぞ。」

久遠は手袋をしていない手で飾られている写真の一つを持ち上げた。

じっと写真を見るふりをして飛鳥に背中を向ける。思念がないか目を瞑って探るために。

息を軽く吐き集中する。

暗闇の中からぼんやりと色が浮かび上がった。

緑と青。それは不安と悲しみの色。

(どっちの感情だ?)

うーんと久遠は唸りそうになる。

また、集中すると赤と紫の色が浮かび上がった。

怒りと嫌悪。

その4つの色がぐるぐると渦巻いている。

どれもあまり良くないイメージの色であることには間違いない。

写真からでは、細かいことが伝わってこない。

その時のその感情が閉じ込められているから、それ以上もそれ以下も出てこない。

ただ、一つ言えることはいい感情ではないと言うことだ。

目を開き写真を眺める。2人がバイオリンを持ち煌びやかなドレスに身を包み微笑んでいる。

「あの…その写真がどうかされました?」

飛鳥の声に振り向きうーんと複雑な表情を作った。

「お2人がよく似ているからか最初はどっちがどっちか分からなくて、見比べていたんです。」

「そうですか…。」

「この写真のはいつので?」

「これは火事が起きた日の午後の時です。

まだ、この時はあんなことが起こるなんて思ってもなかったので…。」

飛鳥は複雑な気持ちに下を向いた。

そっと写真を出窓に戻すと窓の外をちらりと眺めた。



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