カンパネラを鳴らして9

雄大はふぅっとため息をついた。

あの爆発火事の一件は事故として処理をすると言う方針に固められてきたからだ。

あーでもないこーでもないと朝から話し合いに参加させられて頭が痛くなるとこだった。

鑑識が事故だという資料を揃え終わったらしい。

「永安、お前も異論はないな?」

指揮を取っていた上司の久保がふんと鼻を鳴らした。

さっさと終わらせて次の事件の解決に進みたいと思っているらしい。それは雄大から見ると、とても分かりやすかった。

本当はもっと調べるべきことが沢山あるはずなのに…。

しかし、それを口に出しては言わなかった。

言うとめんどくさい事になるのは目に見えている。

「なぁ、鈴田。この件は俺たちが水面下で動いた方がいいと思うんだがどうだ?」

こそりと鈴田に聞こえるように、久保に聞こえないように話す。

「そうだな。俺も同じこと思ってたんだ。」

鈴田はニィっといたずらっ子のように笑った。

こいつが同僚でつくづく良かったと雄大は思った。変なところヘタレだったりするが実力はあるやつだ。

雄大は鈴田が断るわけないだろうと踏んで話した。

会議が終わると検死官の1人がやってきた。

彼女は小野幸子。実年齢より若く見えるらしく、40代前半に見えるが本当の年齢は50代後半だと聞いている。

「あの遺体なんですが、焼死体という訳ではなさそうなんです。

火事の大体の死因て一酸化中毒なんですけど

あの身元不明の死体は一酸化中毒ではなさそうなんです。」

小野は丁寧なゆっくりとした口調で雄大に話した。

「ん?どういうことだ?」

雄大の眉がピクリと動いた。

「今、言ったように火事の大半の死因は一酸化中毒なんです。

簡単に言えば火が回った部屋に閉じこもってると酸素濃度が低下して機能障害を起こして体が動かなくなり逃げ遅れてしまうんです。

それに一酸化中毒の症状はヘモグロビンが一酸化炭素と強く結合して肌の色がほんのりピンク色になったりするんです。

辛うじて損傷してなかった肌とかを調べたら、症状が一致してて。」

小野はガサガサとファイルから作った資料を雄大に渡した。

雄大の隣に来て鈴田も資料に目を通す。

その資料には腕や足の焼けてない一部分が写真として載っていた。

「これは爆発事故に見せかけた殺人事件てことになるのか?」

小野はゆっくり頷く。

「そうかもしれません。また何か分かったらお伝えしますね。」

「ありがとうございます。どうかその時はよろしくお願いします。まだ調べるんですか?」

「はい、とにかく身元を確認したいので。

弥生ちゃんじゃないと証明された以上、誰がこの件に巻き込まれたのかはっきりさせなければと思ってるので。」

小野はぺこりと頭を下げてから自分の持ち場に戻って行った。

雄大は彼女が去った後、もう一度資料に目を通す。

「……かなりキナ臭い話になってきたな。」

鈴田が雄大の思っていたことを代弁した。

「お前もそう思うのか?」

「あぁ、弥生って子がもし行方を晦ますためにどこぞの知り合い、もしくは全く無関係の人間が巻き込まれている可能性が出てきたってことだろ?」

雄大はふぅっと大きなため息をついた。

こんな時、あいつが手伝ってくれたら…。

そんな考えが浮かんだ自分に嫌気が差し、ブンブンと首を横に振った。

何を考えているんだ。行き詰る前から久遠を頼ろうとしてんじゃねぇ。

「とにかく、二階堂弥生の周りで行方不明になったやつがいないか洗い出すぞ。」

雄大は自分に言い聞かせるように鈴田の肩を叩いた。鈴田は叩く力が強くて、思ったより痛くて顔を歪めた。

「分かったから叩くなバカ!」

鈴田はグイッと雄大の胸を押した。




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