カンパネラを鳴らして8

少女は1人。

火事で倒壊したかつて、自分が住んでいた場所を見つめていた。

「…お父さん、弥生。」

その目は後悔に揺れ、一筋の涙を流す。

「いくら、後から悔やんでも取り戻すことは出来ない。

君が望んだ結果だ。」

少女の後ろに、銀色の髪を結い上げた初老の男性がスプリングコートに手を入れている。

その左目はガーゼを貼っているのか見えなかった。

「分かっているよ。でも…」

「こんなつもりじゃなかった?」

少女は男の言葉にこくりと頷く。

本当にこんなつもりはなかった。

ちょっと脅かしてバイオリンがなくなれば少しは父親も自分の事に目を向けてくれるかと思っていた。

ちょっとのつもりだった。

バイオリンも父親の命も家も全て燃え尽きた。

「二階堂飛鳥さん。それがあなたの望んだ結果なんです。

それでも、父親の呪縛から開放されたのですよ?」

「…もういいです。私はもうここに戻ることはないですし、早い段階で町を出ます。

ありがとうございました。」

少女はぺこりと頭を下げてどこかへと歩き出した。

「空海さん。もういいですか。

あの様子じゃあ久遠が近々、動き回りますよ。」

白髪の青年が少女の去ったあとゆっくりとやってきた。

「あぁ、君かぁ。いいんじゃないか?

そいつがどんなやつか見せてもらおうと思ってな。永安久遠…な。」

色のない、その瞳で男は笑った。

対して、青年は面白くもなんとも思わなかったのかじっと男を見つめているだけだった。

「君も目的を果たすのだろう?

そのために彼が必要だと言っていたじゃないか。」

青年はふいっと踵を返しその場を去った。

「ふん、まぁいいさ。どの道2人とも必要なのだから。」

男は青年の後を歩き出した。

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