カンパネラを鳴らして7

雄大が帰ってくるまで久遠は落ち着かなかった。

原因はフラッシュバックのように見えたあの光景。

じっとソファに座り、落ち着きを取り戻そうとするがなかなか上手くいかなかった。

当時の自分と彼にとても似ていたからだ。

高校卒業してすぐのこと。

何が原因かは分からないが火事が起き、弟の琥珀が行方をくらました。

『琥珀!すぐに逃げるぞ!何してんだよ!?』

琥珀の腕を久遠が掴み、火の海と化した家から脱出しようと試みる。

久遠が引っ張っても琥珀はビクともしなかった。

『久遠…ぼく…』

何かを言いかけ琥珀は久遠の掴む腕を振りほどいた。

『琥珀…?』

久遠が驚き琥珀をつかみかかろうとした時、琥珀は久遠の体を突き飛ばした。

『琥珀!?おい!何すんだよ!』

琥珀は久遠を睨んでいた。いや、その目は彼を見据えていた。

『また、いつか会おう。』

琥珀がそう言うと大きな音を立てて家が倒壊する。

『琥珀!?琥珀!!』

火の手が自分を覆わないうちに久遠は決死の覚悟で家から脱出する。

消火活動が終わり全てが終わった。

しかし、琥珀らしき遺体は出てこなかった。


そんなことを思い出していた。

「ただいま。久遠?どうしたんだ?」

雄大の声が重い空気に響いた。

「……。」

久遠は何も答えない。答えられない。

「なんか、あった顔だな。しかも琥珀関係のことだな?」

雄大は真剣な顔で久遠を見つめる。

「なんで分かるんだよ…。」

久遠が唸るように静かに口を開いた。

「分かるさ、お前らがガキの頃から一緒にいたからな。」

ハハハと笑う雄大に久遠はため息をついた。

こいつには昔から敵わないところがある。

悩み事を的確に言われたり、そういう話を引き出すのが上手かった。

「…二階堂飛鳥の持っていたバイオリンに触っちまったんだ。

本人は、父親のだと言っていた。

それが俺に見せたのは火事の時の記憶とかだろうな…。

少女が2人…1人がもう1人を突き飛ばして何かを話していたんだ。それがあまりにも当時の俺たちに似ていたから…。」

雄大は黙って聞いている。久遠は突然、雄大を見た。

「もしも、偶然じゃなくてこれが琥珀と関係性があるなら何か分かるかもしれないのか?」

雄大は考えて久遠から視線を逸らす。

「それは…正直に言うと、可能性はかなり低い気がする。調べる価値はあっても、もしかしたら何も得られないかもしれないぞ?」

久遠は黙り込んだ。

雄大の言っていることはとても正しい。

何も得られない状態で今回の件に首を突っ込むのは得策ではない。

久遠は黙ったまま部屋に引き上げた。

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