カンパネラを鳴らして2
久遠はスーパーで買い物を終わらせるとスマホで静子に連絡していたため、全身に包帯を巻いて慣れない松葉杖で歩いている少女にぶつかってしまった。
少女は高めの掠れた声で「あぁ…」と声を漏らし倒れた。
「あ、すみません!」
慌てて倒れた少女をゆっくり立たせるとぺこりと頭を下げる。
「だ、大丈夫です。これくらいは…」
少女はその場をさっさと去りたかったのかすぐに向かおうとする場所の方向へ体を向ける。
しかし、彼女はバランスを崩し倒れかけた。
倒れなかったのは久遠が咄嗟に少女を支えたからだ。
「ありがとうございます…」
「あの、あなたが良ければ送ります…ってあれですよね。急に男の人にそんなこと言われたら嫌ですよね…。」
久遠は自分で言ってはぁっとため息をついた。
こういう時、優しくしたいのだが上手くいかない。
「あー。じゃあお願いしたいです。」
少女は包帯の下からにこりと笑ったのが何となく久遠には分かった。
2人が向かったのは少女の家だったらしく、そこは久遠と雄大の住むマンションの近くだった。
「手伝っていただきありがとうございました。まさか家が近いなんて。最近ここに来たばかりで。」
「そうだったんですね。俺は永安久遠て言います。何か困ったことがあったらいつでも声掛けてください、えっと…。」
少女の名前が分からず言葉に詰まった。それに気づいた少女は一度ためらってから小さな声を発した。
「に、二階堂飛鳥です。」
久遠は驚いたが表情を変えないように努めた。
雄大が言っていた爆発事故の被害者の1人だったからだ。
飛鳥はではとお辞儀をしてから慣れないように家へと入っていった。
久遠は妙な胸騒ぎにため息をつく。
なんだか、厄介なことに巻き込まれる。そんな予感がした。
爆発事故と火事。これは久遠にとっては厄介な話だ。出来るだけ関わりたくない。
久遠はそう思いながら荷物を持ち直し、喫茶店へと戻って行った。
4月18日
あまり動かない体にも慣れてきた。
周りはミイラみたいに包帯でぐるぐる巻きにされた私を見て哀れみの視線を向けたりしてくる。
町中を歩いていたら男の人にぶつかっちゃった。でもその人は、私のことをそういう目で見なかった。
彼はクオンて名前の人らしい。普通の人と変わりないのにどこか不思議な人だった。
これ以上クオンさんの事を書いたら好きになったとか思われちゃうかもしれないから、これくらいにしておこう。
少女の日記はそう綴られていた。
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