想いはモノに宿る 13
久遠が連れて来られたのは旧病棟だった。
真っ直ぐ病棟を通り抜けると1つの扉の前に着く。工藤は持っていた鍵でカチャリと開けてから地下室への階段に案内する。
久遠が地下室に行くと、監禁され倒れている女性を発見した。
常々警戒していた久遠は彼女の姿を見て慌てて鉄格子に駆け寄った。
「川畑さん!?川畑瑞穂さん!?」
それが油断だった。
久遠の背後から工藤は破棄されていた、そこら辺にあったベッドの柵を振り上げ久遠に振り下ろした。
「……うぐ!」
頭を強く強打した久遠は脳震盪を起こしつつも意識を失わないように震える自分の手に噛み付く。
「…しぶといなぁ。余計な詮索をしなければ生きられたものの。
お前といい、あの男といい…。
短命だな?」
そう言うとまた工藤は柵を振り下ろした。
頭からぬるりとした、感触の悪い液体が垂れてくる。その不快感が訪れたと思ったら久遠の意識が薄れていった。
永安雄大は久遠を探し歩き回っていた。
しかしどこに行っても彼の姿が見当たらなかった。キョロキョロと歩いていると1人の看護師が話しかけてきた。
「あの、キョロキョロしてどうなさいました?」
「あぁ、えっと俺と同じくらいの黒髪の20代で服が…ファー付きフードのジャンバーを着た青年を探してて。下はジーンズを履いてる。」
看護師は、あぁと声を漏らした。
「その人なら確か…工藤先生となんでかしら?旧病棟に向かっていたわ?」
「2人で旧病棟?あいつ、変なことに巻き込まれてるよな……絶対。」
ボリボリと頭を掻きむしる雄大に看護師はキョトンと首を傾げた。
「ありがとう、それじゃあ俺はこれで失礼するよ。」
雄大はさっさと歩き出し急いで旧病棟へと向かった。旧病棟の地下に行かれてしまってはどうすることもできない。
やはり、2人で動けばよかったと後悔していた。
(でも、ここまで来てるんだ。なんとかしろよ?)
祈るような思いでつかつかと足を早めた。
歩きながらもスマホで同僚の鈴田に電話をかける。
『どうした?永安?』
「鈴田か?例の事件の犯人の目星が立ったんだ。至急、明治総合病院に人を呼んで欲しい。」
「は?どういうことだよ?また勝手なことしてんじゃねぇよな?犯人て本当に確実なのか?」
「あぁ、確実だ。人を殺す動機も見つけた。
動かぬ証拠もな。じゃあ頼んだぞ。」
そう伝えるだけで雄大はぶつりと電話を切ってしまった。
旧病棟に着くと鍵を開けて中へと入る。
地下室への扉に着くが鍵がかかっており、もちろんドアノブを回しても開きはしなかった。
雄大がガンガンと扉を叩いて中に誰か居ないか大声を出す。
「おい!久遠…!いるか!?」
鉄扉が分厚いのか中に人がいるのか分からない。それでも誰かいるのではないかとドンドン叩いた。
どれくらい気を失っていたのか、久遠は扉を叩く音で目を覚ました。
誰かが扉を思い切り叩いている。きっと雄大だと思い頭を上げる。
ズキンと頭に衝撃が走るような激痛を覚えた。
殴られた時のものだと理解する。
フラフラする体を何とか起こし立ち上がるとポケットに入れていた変形したクリップに手を伸ばす。
壁伝いで扉の方まで来ると小さくノックした。
雄大は扉から小さなノック音が聞こえると誰かがそこにいると判断し1度、扉から離れる。
久遠はクリップを鍵穴に差し込みカチャカチャとぼんやりする意識の中で鍵を開けようと試みた。
動かしているうちにガチャリと音がなるのが分かった。鍵が開いた。
雄大が扉を開くとガクリと久遠がしゃがみ込む。
「大丈夫か!?お前…頭から血が!」
ハァハァと痛みを堪えつつも久遠は何とか平気だと強がった。
「それより、奥で女の人が…多分川畑さん。」
「なんだって!?」
「早く、助けてやれ。衰弱が酷い。」
「でも…お前も傷が。」
「大したことねぇって、それよりあいつ。
先生を追わないと。」
久遠は足に力を入れて立ち上がった。
「…同僚の鈴田を呼んどいた。
あいつが来たらすぐに行く。いいか?」
「分かった。鉄格子の鍵を開けとく。」
クリップをまた手に持ち、女のいる鉄格子の部屋の前に来るとしゃがみ、また鍵穴にクリップを差し込みカチャカチャと探る。
また、先程と同じようにカチャリと音がなり扉が開いた。
すかさず雄大が女の人に駆け寄った。
「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」
女の人はうぅっと唸り生きていることが分かる。生きている事が分かった久遠は急いで立ち上がり地上へと向かった。
「無茶するんじゃねぇぞ。」
雄大の言葉を背中で受けて、久遠は手をひらりと振った。
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