想いはモノに宿る 12
2人は車で病院に向かっていく。
「俺はとりあえず、あの旧病棟地下室が存在するか確かめる。
それでありそうなら向かってみようかと思うんだ。」
雄大の言葉に久遠は驚いた。
「本気なのか?1人で?」
チラッと久遠を見て雄大はため息を吐いた。
「これでも俺は刑事だぞ?お前こそ気をつけろよ?工藤ってやつを逆上させないようにな?」
久遠は黙って頷いた。
「……分かっている。なるべく引き付けられるようにするさ。」
久遠の言葉に「信頼してるぞ」と雄大が背中を叩いた。病院は目の前に迫っている。
2人が病院に着く頃には夕方になっていた。
もう大半の医療従事者が帰る準備をしている。
「すみません。こういうものなのですが…ちょっと、今は使われていない旧病棟の鍵をお借りしたいのですがいいですか?」
雄大が警察手帳を見せると受付の女性が「あぁ…。」と声を漏らした。
「今、お持ちしますね?」
立ち上がろうとし女性にすかさず久遠が付け加えた。
「あの、出来れば地下室のもあればお借りしたいのですが。」
女性は困ったようにキョロキョロした。
「あの、その鍵は行方不明で…。」
「なんだと?」
雄大の顔が歪む。久遠もしまったと思ったが一つ手があることを思い出す。
久遠は雄大にこっそりと耳打ちした。
「ピッキングができるから、地下室に急ごう。」
「は!?」
雄大は驚きのあまり大声が出てしまった。
周りにいた久遠以外がその声に驚きこちらを見つめる。
女性はとりあえず旧病棟の鍵を雄大に渡した。
ひとまず、二手に分かれて情報収集をする。
雄大は川畑が行方不明になる前後の夜勤が誰だったかを聞き込みしに行き、久遠は工藤に会うために病院を歩き回った。
1人の看護師、名前は野崎と書かれている。
「えぇ、その日は私と斉藤さんていう看護師さんと工藤先生の3人でした。」
野崎は経緯を話してくれた。
休憩時間は2時間を3人で回していたらしく工藤の休憩時間は夜中の3時からだった。
「死亡推定時刻と被ってるなぁ…
先生がその時間病院にいたと証言できる人は?」
「多分いません…。」
雄大はメモを殴り書きしてパタンと閉じる。
さわやかにありがとうございますと言うと工藤に会いに行った、久遠を探し始めた。
久遠はちょうど、夜勤の準備のために宿直室にいるだろうと教えてもらい向かっている所だった。
(あの時計は…絶対)
久遠はもうこうなったらカマをかけようと考えている。
鏡やその時計を通じて見えたものが何を表しているのか点と点が繋がっていた。
急ぐ気持ちからか足がずんずんと前へ進む。
病棟建物の端にある宿直室に向かう途中、宿直室の方向から工藤がどこかへ向かおうとしている所に鉢合わせた。
「なんだね?また君か…。」
工藤は久遠の顔を見るなりうんざりとした顔をする。
「すみません。どうしても気になったことがありまして。その懐中時計なんですが…あなたのものではありませんよね?」
工藤の顔を真っ直ぐ見つめ時計を指さす。
「何度も言ってるだろ?これは私のだと。」
「でも、物はちゃんと話してくれます。
その時計は俺に教えてくれたんです。
あなたは何かを隠してませんか?
例えば…」
一呼吸置き、すぅっと息を吸う。
「誰かを監禁してその方の大切な人を殺したとか?
あるいは、私利私欲のために救えるはずだった交通事故の被害者を見殺しにしたとか?」
じっと捉えて放さないと言わんばかりに久遠は工藤を見つめる。
工藤はそんな彼をハハハと笑った。
「君は小説家にでもなればベストセラーが狙えるんじゃないか?君の戯言を聞いてる時間を作るわけにはいかないんだよ。
また、今度にしてくれるかな?」
彼が久遠の横を通り過ぎようとした時、久遠は携帯に移していたデータを再生する。
『交通事故で受け入れなければならないんだが…』
その途端、工藤の動きがピタリと止まった。
「そのデータをどこで手に入れた?」
「さぁ?俺はあなたが何故、氷室さんの部屋の前でウロウロしてたのか気になりますが?」
ニヤリと久遠は笑った。
「そうか…これを知っているのはキミだけなのかね?」
「さぁ?少なくとも俺は知っている。
今頃、旧病棟には俺の従兄弟が向かってるだろう。あそこは監禁するのに都合がいい。」
工藤はゆっくり振り返った。
「なんだと?なぜ旧病棟のことを知っている?」
「しらばっくれないんですね?」
「そこまで調べられてしまってたらもう何も言うまい。まず、受け入れ拒否の件が警察にバレてしまっているしな。
ここで殺人の件がバレていなくてもまず私は検挙されるだろう?
そのデータがあるなら私は医者人生を絶たれるだろう?だったら…仕方ない。案内しよう。」
工藤は諦めたように微笑みゆっくりと歩き出した。
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