想いはモノに宿る 11

久遠は雄大のいる警察署にやってくると受付の女性に雄大を呼んでくれと頼んだ。

「永安刑事にSDカードの件についてと言えば分かると思います。あと、彼にパソコンを持ってきて欲しいと伝えてください。」

女性は内線で雄大に繋ぐとすぐに雄大がやってきた。

「久遠、おつかれ。で、どうだった?」

雄大は片手にノートパソコンと病院の資料をまとめたレジメを持ってきた。

「ここで話すより、いつもの場所で話したい。

どこで誰に聞かれるか分からないからな…。」

そう言うと、いつ書いたのかメモを雄大に渡した。

【氷室の部屋の周りを工藤がウロウロしていた】

殴り書きだけど昔から何となく丁寧な字で書かれていた。雄大はそれに目を通すとなるほどと言うように頷き、いつもの部屋に向かった。

誰もいないことを確認すると雄大はレジメとパソコンを机に並べる。

久遠はその間に胸ポケットからSDカードを出した。

「ご丁寧に袋に入れてくれたんだな?」

雄大はそれを受け取ると比較的、丁寧に扱った。それを見た久遠は苦笑いを浮かべる。

「復元する時にデータを盗まれたらたまったもんじゃないだろ?」

「やっぱ、お前も警察や刑事になったら?」

「いやだ。」

「はぁ…良い相棒になれると思うんだがなぁ…。」

「組織に入ったら視えるモノも視えなくなる。ここはあまりにも思念が多すぎる。」

雄大はパソコンを立ち上げてからカタカタとキーボードを打つ。

「そんなもんなのか?」

「意図なく流れ込む思念を受け入れられるほど俺も器になっちゃいねぇよ。」

「器…なぁ…よし!」

雄大はパソコンに集中していたのか返答が生返事になる。久遠から受け取ったSDカードをパソコンに差し込むとパソコンは読み込みを始めた。カーソルがクルクルと周りロードが長く感じる。

「……もう少し早くならないのか?」

「無茶言うな…。唯一、貸して貰えた5年前の型のパソコンだぞ。今どきのが早すぎるんだよ。お?今60パーセントになったぞ?」

久遠は無慈悲に遅いと一蹴する。

「もっと最近のなら10秒もあれば今頃、データの中身が見えてる。」

久遠の言葉に今度は雄大が苦笑いした。

2人が話していると読み込みが終わったみたいで画面が変わった。

2人は画面を覗き込む。中身は氷室の撮っていた写真とかだった。

ざーっと流し見ても事件と関連性が見受けられない。

「なんで氷室はこんな平凡なデータしかないのを鏡の隙間になんか入れてたんだ?」

「なんかしらのわけがあるんだろ?」

雄大はスラスラと画面をスクロールする。

すると雄大が声を上げた。

「…ちょっと待て、これはなんだ?」

雄大が何かを見つけた。動画っぽいのだが破損していて見られないと書かれている。

そこをクリックしてみるとエラーと表示されていたが不思議なことに再生マークがある。

「押してみる?」

「パソコンがウイルスにかかったらどうすんだよ。」

「雄大が最新のパソコンを弁償。」

「はぁ!?勘弁してくれよ!」

「あ、手が滑った。」

久遠は雄大からマウスを奪い再生ボタンを押した。

「あ、おい!マジかよ…。」

雄大はため息をついた。

しかし、パソコンから聞こえた言葉に雄大も息を飲んだ。

『……交通事故で受け入れなければならないんだが……ベッドが1つしかないんだ。

なんだって…しかしあなたが入院するのは再来週…分かりました。こちらでは診ないことにします。えぇ…。そしたらそちらの病院の……』

声質は工藤の声らしかった。

どうやら誰かと話しているみたいでそこからデータ破損しているのか無音のままだった。

「おい…これ…」

「……なるほど、1つの仮説でしかないけど。」

雄大も同じことを思ったのか頷く。

「これが氷室を殺した動機か…。」

しかし、久遠は首を振った。

「違う…。氷室さんを殺した動機は確かかもしれないけど。」

「は?何が違うんだよ?」

「これを録音したのは川畑さんだとする。

きっと川畑さんは出頭を促したんだろう。

しかし、受け入れなかった工藤先生にこの録音データを警察に届けると言い始めたのかもな…。

それでそれを奪ったが…川畑はデータをコピーしていた。

焦った工藤先生は在処を教えろと言うが本人はあくまで出頭をしてもらいたかったんだろ?

それでお互い揉めて川畑さんを殺害した。

姉と連絡つかなくなった氷室さんは川畑さんの行方を調べているうちにこのデータを入手。

工藤にそれがバレたのか姉を殺したのはお前か?と問い詰めたところ…」

久遠の話を黙っていた雄大が「ん?」っと声を上げた。

「データの在処が分からないなら川畑は生かすしかないんじゃないか?

データを抹消出来たわけじゃない。それに下手したら氷室も殺すつもりはなかった。

データを取ろうとしたら…の可能性も?」

久遠はふと氷室洋介から受け取った【姉を助けてほしい】という言葉を思い出した。

「そういうことか!?でもどこに?」

久遠の言葉に雄大がニヤリと笑った。

「なぁ知ってるか?あの病院、昔は精神科で精神病棟があったんだ。

そこにはとち狂った奴らが収容されて酷く暴れる患者は地下室にある鉄格子の部屋に閉じこめられた。その地下室はまるで牢屋だったらしい。昔は良くない噂も立ってたらしいしな。」

レジメの1枚を久遠に渡した。

「……!!」

久遠は雄大の顔を驚いた表情で見つめた。

「可能性はあるな。」

雄大は得意げに笑う。

「まぁ、あとはアリバイと凶器が揃えば黒なんだが。今の工藤は果てしなく黒に近いグレーってとこか…とにかく病院でまずアリバイ確認するか。」

久遠と雄大はデータを別チップにコピーしてから病院へ向かった。

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