想いはモノに宿る 14
工藤はいそいそと車にある程度の荷物を入れてスマホでどこかに連絡していた。
「すみません。例の交通事故の受け入れ拒否の件が警察にバレたかと。」
相手はあぁ…と漏らし無言になる。
「どうにか対応するので終わり次第そちらに…」
と言ってるところでコンコンと窓がノックされた。チラリと見るとその人物に驚き目を見開く。
「君!?一体あそこからどうやって出た!?
鍵は私のこれしか…。」
久遠は車がまだ、ロックされてないことを知るとドアを開ける。
「簡単な話です。ちょっと固めの針金を使えばピッキングなんて簡単なんですから。」
「は?ピッキング?」
「ところで?電話の相手は?例の事故と関係あるんですか?」
久遠の言葉にハッとして工藤はスマホに目を向ける。しかし、その相手は一方的に通話を切っていた。その切られた電話で悟ったのか工藤は力なく笑う。
「はぁ…所詮トカゲのしっぽ切りだったということか…。」
「工藤先生…。」
久遠が同情とも取れるような声を漏らす。
すると、どこに隠し持っていたのか工藤は医療用メスを久遠に振りかざした。
「君のせいで、私の人生めちゃくちゃだ!
あの男と同じようにこれで死んでもらう!」
そのメスの刃には、確かに血を拭いた跡がある。
「やめてください!ここは病院ですよ!?」
久遠は必死に抵抗する。工藤は力任せに久遠に襲いかかり久遠に馬乗りする。その目は怒りで目の焦点が少し合ってないように感じる。怒りや憎しみに力を込める工藤に久遠は抵抗するだけで精一杯だった。
刃物が目前に来た時、聞いたことのある声がした。
「あんた達!?何してるんだ!!」
声の持ち主は雄大の同僚、鈴田が駆けつけ久遠から工藤を引き剥がした。引き剥がした瞬間メスが久遠の頬をつうっと掠めた。そこから鮮やかな色をした血が流れる。
工藤は引き剥がされた衝撃で尻もちをつき、メスが手から離れた。そのメスを急いで鈴田は拾った。
「助かりました…。えっと、ありがとうございます。」
久遠はその場から立ち上がるとメスを見つめた。
「君はいつも永安と一緒にいる…」
「永安久遠です。雄大とは従兄弟の…。
俺のこと知ってるんですか?」
鈴田はアハハと笑った。
「君が久遠て人だったんだね。
君が雄大と使われてない部屋を使った時は大体その後に事件が解決してたりするから
なんかあるとは思ってたんだよな。
今回の犯人はこいつなのか?」
雄大とは違い爽やかさがある。
「間違いないと思います。それに…」
久遠は手袋を外して工藤から懐中時計を取り上げた。目を閉じ集中する。
「…?何してるんだ?」
鈴田の声も聞かず久遠は残留思念を探った。
しばらくすると何かが分かったのか、久遠は優しく笑った。
「鈴田さん。彼をお願いしても?」
「あの〜別に彼のことはいいんだが…。質問に答えてくれないか?」
久遠はえっと…と困り目を逸らした。
「くお〜ん。」
雄大の声が響き、声のした方を見ると雄大が走ってやってきた。
「雄大…川畑さんは?」
「衰弱が酷かったから医者に預けてきた。
意識はぼんやりだがあるみたいだ。まったく、あんな所でよく2週間以上生きられたよな。」
「それはきっと、先生からしたら死なれたら困るから生存できる最低限の栄養剤とかは与えてたんだろうな。」
二人の会話を聞きながら工藤を拘束していた鈴田が蚊帳の外にされているのに気づく。
「永安?あの、これはどういうこと?
川畑さんは生きてたってこと?」
「ん?おぉ!鈴田〜!来てたのか!」
「来てたのか!って呼んだのはお前だろうが!?それにその時計…久遠くん?どうかしたのか説明してくれないし。」
「あぁ、気にすんなって!それより久遠。
川畑さんのとこに行った方がいいのと、ついでに傷の手当してもらえ。ほっぺ切れてんぞ。」
雄大に促され久遠は頷き走って行った。
残された鈴田はキョトンとした。
「まぁ、なんだ。お前が信じるかは別だとして、あいつには不思議なところがあるんだ。
たとえば…あぁ、ほら人形に魂が宿るとかって話分かるか?」
「や、やめろよ…。俺そういう話、苦手なんだから。」
「え?そうなのか?俺ら警察は幽霊が〜とかって信じねぇもんだと。」
「信じる信じないというのは置いといて、なんかそういう話は底知れぬ恐怖があってな?」
「お前…」
雄大は真面目な顔をして鈴田の前に立つ。
鈴田も真面目な顔をして雄大を見た。
「もしかして、ビビりか?」
「な!?」
鈴田は呆れるようなため息をついた。
雄大が楽しそうに笑っている。
「ほら、先にこいつを署に連れて行って事情聴取するぞ。回復したら川畑さんにも話を聞かなきゃならねぇし。」
雄大と鈴田は工藤を連れて署へと向かった。
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