想いはモノに宿る 7
久遠は懐かしんでぼんやりしていたがハッと我に返った。
今は懐かしいあの頃に浸っている場合ではない。一刻も早く事件の犯人を調べなければいけない。
幽霊本人が鏡を通しているのであれば簡単な話だ。洋介本人に誰に殺されたかを教えてもらおう。
久遠は意思疎通するように集中した。
「あなたを殺したのはだれですか?」
彼は静かに首を横に振る。それは見てないのか、覚えてないのかは分からない。
彼の意識が久遠の頭に直接流れ込む。
ー姉さんを助けて…まだー
「姉さん?…姉さんて川畑瑞穂さんのことか!?」
久遠の意識にノイズが走る。洋介がゆっくりとその場から消えていくようだった。
目を開けると、どっと疲れが来たのか久遠はその場にしゃがみ込んだ。久遠の傍にいた雄大が彼の体を支えた。
「おい、久遠?大丈夫か?」
「今、被害者である氷室洋介さんに会った。
癌であることも本当だったみたい…」
「おい!本当か!?」
雄大が興奮したように声を荒らげる。その声が頭に響いたのか久遠は顔を歪めた。
「雄大…頭痛くなる…」
「あ、あぁすまん。彼はなんて?犯人は?」
雄大の質問に久遠は目を閉じ首を横に振った。
「分からない。ただ彼は姉を助けて欲しいとだけ俺に伝えてきたんだ。」
言い終わると雄大に支えられながらも何とか足と腰に力を入れて立ち上がった。
「助けて欲しいだと?成仏させろってことか?」
久遠は雄大の言葉にため息をつく。
「俺にそんな力あったら仕事を変えてると思うが?」
「だよな…」
「もう一度、何があったのか視て見ようと思う…。どんなことであれ助けなきゃ…ならない。」
久遠はもう一度鏡に触れて意識を集中させた。
肝心な所を手探りで探すように。
暗闇の中ふわふわと出ては消えていく感情を表す色、どれもこれも違う気がしてならない。
(どれが正解なんだ?どれが鍵なんだ?)
突然、朝日の様な眩しい光が久遠を照らした。
黄緑色と黄色とオレンジ色が浮かび上がる。
「これは?洋介さんは俺に何を伝えたいんだ?」
黄緑色は信頼、敬愛
黄色は喜び、平穏、恍惚
オレンジ色は警戒もあったが期待や関心と言った意味を表す。
「どういうことだ?」
久遠はその時その時の感情を探ってみる。
黄緑色は姉に対する感情か?
オレンジ色はガンへの警戒?
(違う、そしたら黄色はどの時に湧くんだ?)
久遠は今までの経験を考えた。人の感情は多種多様であるが故に似たことはあっても同じだとは限らない。
1つの答えにたどり着くものがあった。
プレゼント。
これはもしかすると弟が姉へ、あるいは姉から弟へ贈り物した時の感情ではないかと憶測した。
(そうだ!そうなったら敬愛なら姉への贈り物。オレンジは送られた者の反応に期待するという意味が浮かぶ黄色は受け取った人の喜び!)
そう思ったらまた見える景色が変わった。
久遠たちの今まさにいる部屋。
目線は本人だろうか?
久遠に流れ込む映像は本人目線だった。
カバンから1つの包みを取り出しソファに座る。
(これは、洋介さん本人の?)
じっと目線が進むように任せる。
手に取った包みを開けと箱の蓋を取る。
中には懐中時計が入っていた。
久遠はその懐中時計は見に覚えがあった。
(あの懐中時計は…?)
『姉さん喜んでくれるかなぁ?
最近、安物が壊れたって言ってたし…』
目線はかけられたカレンダーに向いた。
そこには姉の誕生日と赤文字で書かれた日付があった。
そこで映像は途切れる。
久遠は意識を現実に戻すとハッとした。
「時計…あの時計…」
ブツブツと久遠が言葉にする。
雄大は心配そうに久遠を見つめた。
「久遠…?」
久遠は雄大を確認すると部屋を出ようと提案した。
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