想いはモノに宿る 8

車に乗り込むと雄大は久遠の様子を伺った。

「また病院に行きたいなんてどうした?」

窓の外をじっと眺めている久遠は答えなかった。雄大の言葉が耳に入ってこないみたいだ。

その顔はまるでパズルのピースが分かりはめ方を考えているかのように…。

5分ほど走っていると久遠は呟くように口を開いた。

「あの懐中時計…あれは持つべき人が違う。」

「え?何が?」

久遠は一呼吸吐き出した。

「工藤という医者が持っていた時計のことだよ。」

「あぁ…あの妙に凝ってる?」

「そう。洋介さんの部屋にあった鏡から見えたんだ。大切そうに時計を眺めていたんだ。

姉の誕生日に送るために…」

雄大はへぇ…っと声を漏らした。

「じゃあなんであの医者がそれを?

瑞穂さんが行方不明になって1週間。

弟の氷室が死んで?完全にあの医者が怪しいってことか…。」

久遠は車のドアに寄りかかっていた体勢を真っ直ぐにして頷く。

「まぁ、ほぼ黒だが…。

動機や証拠がまだ…凶器はなにか分かってる?あと洋介さんの発見場所」

雄大は難しい顔をした。

「凶器は鑑識が切り傷で切れ味は鋭かったので医療用メスではないかって言っている。

発見場所は本人の家の近くの…あぁ、あの公園だよ。」

雄大が指をさした方向に小さな公園があった。

そこはkeepoutと書かれた黄色いテープが張り巡らされていた。

近くの路肩に停車させて雄大は続けた。

「第1発見者は犬の散歩をしていたこの辺の住人だとよ。ちなみに死亡推定時刻は夜中2時から明け方4時くらい。発見時は5時半頃らしい。」

「分かった。ありがとう。雄大に頼みたいことがあるんだ。」

「ん?おれに?」

「推定時刻前後に工藤先生にアリバイがないか聞き込みして欲しい。

夜勤や宿直の記録もあれば。」

「それは構わねぇが?お前は何するんだ?」

「あの、懐中時計。どうも引っかかるから、本当に工藤先生本人のものなのか確かめたい。」

「分かった。しかし、明日にしねぇか?」

「は?なんで?」

「外はもう真っ暗だぞ?」

久遠は外を確認するように見た。いつの間にか日が暮れて電灯が着いている。時間を確認するとギュルルとお腹が鳴った。

「はっはっは!そう言えば昼に呼び出してから俺らなんも食べてなかったな!

署に戻って調べたことを整理したら飯に行こうか!」

久遠は自分のお腹が鳴ったことに羞恥を感じたのか耳を真っ赤にして外を向いた。その横顔を雄大はさも面白そうにちらちらと横目で見ていた。


署に着くと雄大は車を降りて久遠は車の中で待機している。その間、自分のスマホをいじっている。自分のものとか、琥珀のものは触れても何も流れてこない。不思議に思ったがそれはそれで気が楽だった。スマホでやることと言っても特にはなくニュースを流し見してるだけだった。

仕事を終わらせた雄大がコンコンと窓をノックする。久遠はカチャリとロックを解除した、その瞬間と同時に雄大がバッとドアを開ける。

「待たせたな。さてと、これからどこで食う?ファミレスでいいか?」

「なんか、その言い方ファミレスしかなさそうなんだが?」

「バレた?」

「筒抜け。」

「まぁそういうなって」

「雄大の奢りな?」

「いつも奢ってるだろ?」

「パパ〜ドリンクバーたのもー」

久遠は気だるそうに棒読みで、じとりと雄大を見つめた。

「おま!コノヤロウ…」

やれやれと首を横に振ってようやく運転席に座った。鍵を回すとエンジンはブルルと音を立てて近くにあるファミリーレストランへと向かった。

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