想いはモノに宿る 6

天窓から月明かりが差し込む2人部屋の二段ベッド。それが2人の寝床だった。

上の段が久遠、下の段に琥珀がいた。

琥珀は先程、10歳の誕生日に父親からもらった琥珀石で出来た万年筆を月明かりに照らしながら眺めている。久遠には琥珀石が持ち手にあしらわれた万年筆が贈られていた。久遠は大切に万年筆を渡された時に入れていたケースに片付けている。

ふわぁっと久遠があくびした時、琥珀が口を開いた。

「なぁ、久遠?」

「ん、どうした?」

「前に僕…人じゃない人が見えるって話したよね?」

「あーかなり前な?ユーレイ?ってやつだろ?」

「うん…久遠は確か…」

「物に触るとすごく思い入れのある【それ】からその持ち主の感情やその時々の記憶や想いとか願いみたいなのが頭に流れてくる。酷い時は持ち主である本人が見えたりな。すごく稀だけど。」

「そうだったね…。」

「琥珀、どうしたんだ?」

「僕の見えてる幽霊と久遠の触れると感じた感情とかってなんなんだろうと思って…」

「は?」

「幽霊って何らかの理由があって成仏できない魂のことを言うって前にテレビで見たじゃん?」

「あー。あのインチキくさいやつ?」

久遠の言葉に琥珀は、ハハハと苦笑いをする。

「それで、魂とかって結局なんなんだろうと思ったらさ…

実はただの意志とかなのかな?って」

「つまり?」

「僕ら人間て結局、【意志】の生き物であるに尽きるのかなと思ったんだよね。

久遠の言う【想い】もだけど…。」

琥珀の言いたいことは、何となく分かるが細かくどうか?と聞かれると難しい話なのは間違いないと久遠は口には出さなかった。

「……なんで僕は何もしないで幽霊が見えるんだろうって思ってたんだよね。

みんなには見えないモノなのに。でも久遠は感情とか記憶が見えるし強ければ幽霊として見えることもあるって不思議だなぁって。」

「さぁな?」

「まじめに考えてる?」

久遠は柵から身を乗り出すが下半身は落ちないようにベッドから出さずコウモリみたいに逆さまになった。

「幽霊とか、想いとか俺には分からねぇけど。

それ程、大切な感情や強いモノがあるんだろ?それでいいじゃん?」

あっけらかんと笑った久遠を見て琥珀も呆れたように笑った。

「そうだね。ねぇ久遠?」

「何?」

「僕達、ずっと一緒にいられる?

死ぬその時まで…」

「なんでそんなこと聞くんだ?」

「気になったから。」

「………。」

久遠は目線をふざけてる時みたいに逸らし笑ってからゴロンとベッドに戻ると寝転がった。

「久遠?」

「それは分かんねぇよ。

俺にもお前にも恋人が出来て家族ができるかもしれないだろ?

恋人のことが大好きになったら琥珀こそ俺から嫌でも離れるんじゃね?」

ベッドで寝転ぶ琥珀に久遠の顔は見えない。

ただ、淡々と話す言葉には何か思うものを琥珀は感じた。

「そっか…でも、できる限り僕は久遠と一緒にいたいな。」

「努力はする。」

「はいはい、頼もしいね。」

「思ってねぇだろ?」

「久遠の努力するは努力したように見せてるだけじゃん。この前だって久遠だったら簡単に出来る鉄棒の技をわざと出来ないフリして先生に怒られてたじゃん。」

「あ、バレてた?」

「やれやれ…もういいよ。おやすみ!」

久遠のあっけらかんとした態度にこれ以上話をしても…と思った琥珀はガバッと音を立てて布団に潜った。

「へーへーおやすみぃ〜」

全く心配性なんだから…。俺は琥珀とずっと一緒に遊べることを望んでるんだよ。

2人で生まれてから、2人でそういう【モノ】を見てるから。

口には出さず久遠は体をまた柵から少し乗り出し琥珀をチラリと覗く。

琥珀は拗ねているみたいだった。

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