想いはモノに宿る 3
雄大は病院の駐車場に車を停めると、受付の女性に自分は警察だと警察手帳を見せた。
「あれ、昨日も警察の方が来たのですが…?」
受付の女性は困惑していた。
「すみません。すぐに終わらせますので」
久遠がペコッと頭を下げると女性は担当の者を呼んでくれた。
3分くらいでその医者は現れた。
「全く、警察に話せることは全て話したというのに。」
50代くらいの医者はハァッとため息をするとズボンに着けている懐中時計を見る。
「すみません、わざわざお時間をいただしまして。俺は永安雄大、こっちは俺の助手の」
にこやかに久遠は笑った。
「永安久遠です。」
「私は工藤だ。全く…こっちは川畑くんがいなくなって大変だと言うのに。」
腰を低くして対応する久遠とは別に工藤はブツブツと苛立っているのが分かる。
3人は面談室に入り雄大と久遠は3人がけのソファに座り、その対面にあるソファに工藤は座った。
「川畑さんは優秀な看護師さんだったんですか?」
「あぁ、そうだよ。優秀で患者にも慕われて後輩には厳しかったが優しいし私たち医者からの信頼も厚かった。」
「そうでしたか。」
久遠は淡々と話を進める。話をしていると久遠はいつの間にか手袋を取っている。
雄大は久遠が手袋を取ったことに気づくとじっと彼を見つめた。
工藤はまた懐中時計を取り出し時間を確認する。
「そういえばあなたは懐中時計で時間を確認するんですか?」
「あぁ、どうもデジタルだと目が痛くなってな。」
「そうなんですね。腕時計とかしないんですか?」
「腕時計なんて窮屈で好まないんだ…。
それにこの懐中時計が気に入っててね。」
「なるほど、まぁ僕も気持ちはわかります。
腕時計ってなんか好きになれないんですよね。すごく作り込みが細かいんですね見せてもらっても?」
「おぉ、この良さが分かるのか?」
工藤は久遠の態度に少し気を良くしたのか懐中時計を手に取らせてくれた。
久遠は息をふぅっと吐いて、目を閉じる。
脳裏に最初は黄色が浮かんでいたがやがて青と紫と赤の色に変わる。
青は赤に近く紫と距離があった。
(最初は喜びとか嬉しいものだったのか?
それが悲しみに変わる?なぜ離れたところに嫌悪の色が?)
目を閉じている久遠に「どうしたんだ?」と工藤は訝しげな表情を浮かべた。
「あぁ、彼の癖なんだよ。いい物をしっかり見るための彼なりの心得みたいな。
俺には理解できないがな?」
雄大はハハハと笑った。工藤は不思議そうに「そうなのか…」と呟く。
(もっと、集中しろ!)
奥を探るように意識を詰める。
ぼんやりと情景が浮かび上がってきた。
病院の面談室らしき場所にて。
誰も使っていない時間帯。
私服を着た男が看護師へ懐中時計を送った。
送られた看護師の周りが黄色になる。
喜んでいるのだろう。
(ん?待て。じゃあなぜこの人がこの懐中時計の持ち主なんだ?)
考えようとした時ふっとそのビジョンが途切れた。工藤が懐中時計を久遠から取り上げたのだ。
「もういいだろ?私も暇じゃないんだ。」
工藤はうんざりした顔で立ち上がる。
久遠も立ち上がり頭を下げた。
「あ、すみません。ありがとうございました。ところで最後に1ついいですか?」
「なんだね?」
「えっと、その時計って誰かからの贈り物なんですか?」
「……家内からだ。」
工藤は久遠と目を合わさずそういうと面談室を出ていった。久遠は手袋をはめると出ていった工藤のことを考える。
「久遠…何かわかったのか?」
「あの懐中時計、多分あの工藤って人のじゃない。」
「は?」
「ここの看護師さんや医者に確認したいことがあるから雄大は先に車に行っててくれないか?」
「まぁ、お前がそう言うなら。」
久遠は「サンキュ」と笑うと先に面談室を出ていった。雄大も立ち上がり面談室を出る。駐車場に停めた車へと向かった。駐車場に自動販売機があったので雄大は自分のブラックコーヒーと久遠が飲む微糖のコーヒーを買った。
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