想いはモノに宿る 2

雄大の所とはいわゆる警察署。

久遠が向かうと雄大が待っていた。

「悪いな。呼び出して。」

「いつもの事だろ?」

雄大はとぼけたように笑みを浮かべた。

「それで今回は?」

「話が早くていつも助かるよ。こっちだ。」

久遠はどうせいつもの場所だろうと思いながらも素直について行く。

誰も使わないようなホコリ臭い角の部屋。いつも久遠と雄大が話し合う場所だ。

部屋は日が当たらない場所で薄暗く誰も寄り付かない。内緒話などするにはもってこいの場所だった。幽霊やスピリチュアルな話をいったい誰が信じるだろうか?刑事がそんな話を信じるなんておかしいと言われるだろう。

そういう理由で2人はいつもの場所で話し合っていた。

ドアを閉めて、2人きりになると雄大は透明な袋に入っている1枚の写真を取り出し机に置いた。写真には男女が楽しげに並び背後には山がある。

「これなんだが…」

久遠は椅子に座り肘をつく。

写真をじっと見てため息をついた。

「前にも言ったけど 、写真からは誰の思念なのか判断しにくいって言ったはずだ。」

「分かっている。詳しいことは今から言うから。」

雄大はゴホンと咳払いをしてから手帳を取り出し、今現時点で分かっていることを述べた。

「その写真に写っているのは2人の男女だ。

名前は氷川洋介28歳と川畑瑞穂30歳。

被害者は氷川洋介という男で川畑瑞穂は行方不明。川畑瑞穂が行方不明になったのは氷川洋介が遺体として発見される2週間前らしい。

家族からの捜索願いも出されていた。

あと…。」

雄大の言葉が詰まる。

「あと?」

ボリボリと後頭部を掻きながら口を濁す。

しかし、いつまでも黙ってる訳にはいかないので雄大は観念したように話を続けた。

「二人の関係は姉弟で親が離婚して姉の川畑は母親に引き取られ弟の氷川は父親に引き取られたらしい。2人の仲は悪くはないらしく定期的に会っては出かけていたらしい。」

久遠は写真を見つめつつ、雄大の話を黙って聞いていた。

「川畑が行方不明になったと聞いて真っ先に容疑者に浮上したのが氷川なんだ。だが調査前に死亡。振り出しに戻ってしまったんだ。」

「なるほど、つまり俺は氷川という男を殺した犯人と川畑という女の行方を探ればいいのか?」

「まぁ、そんなところだ。どっちでもいい。

何か手がかりがあれば御の字なんだよ。」

久遠は袋から写真を取り出すと手袋を外し、その写真に触れた。目を閉じて集中する。

目を閉じると暗闇の中モヤモヤとした色が浮かび上がってくる。

青と橙と緑の色のモヤがふわふわと浮かび上がる。橙色は黒が混ざっているかのようにうっすら濁っている。

「これは…悲しみ?と恐れ…警戒?」

久遠は目を閉じたまま見えてきたものを呟く。

「なんだ?感情の話か?」

雄大の問いには答えずさらに集中力を高めた。

感情の色しか分からない。しかも基礎的な色しかまだ見えてないので悲観なのか恐れなのか恐怖なのかも分からない。

橙色に黒が混ざっているのが見えたのは幸いだった。

これ以上、写真から探っても情報は得られないなと思った久遠は目を開けてふぅっと一息ついた。

「何かわかったか?」

久遠は首を横に振った。

「感情の色しか分からない…。

誰のどの時のかすら見当がつかない。」

ボリボリと頭を掻きながら雄大は「だよなぁ」と呟く。無理を言って、視てもらっているからそれ以上のことは求めないことにした。

「他に何かあったら、また頼んでもいいか?」

久遠の鼻からフゥとため息が出た。

どの道、手伝ってくれと頼むのが目に見えているし自分が断る理由がない。

「それは別にいいよ。ところで死因は?

そこら辺はまだ聞いてないけど。」

「死因は首の動脈を切られて多量出血からくるショック死ってとこだった。

あとはそいつの体から薬物反応が出たことが確認されてるな。」

久遠は背もたれに体をあずけ仰け反った。

「大方、薬物依存で揉めたとかってことかな?」

「まぁ、その線も否めないからなぁ…」

何かを考えるようにその写真を見つめた。

「この場所って詳しいことは分からないのか?」

「あぁ?…あぁ観光地の高岡山だろう?」

「観光地かぁ…」

久遠は考えるように顎を撫でた。

「その、2人の他の物はないのか?」

「多分調べれば出てくると思うが?」

「すぐにお願いしたい。あと2人の仕事とかも分かれば。」

「それならもう分かっている。

川畑は明治総合病院の看護師で氷川は派遣社員だったみたいなんだ。なんでも例の流行り病のせいで勤めていた会社が2年前に倒産して、それから派遣社員やアルバイトを転々としていたらしい。」

「もう、総合病院での川畑さんについての話は聞いたのか?」

「あぁ、もう他のやつが聞き込みに行ってきたと。」

「ちょっと俺も確認を取りたい。」

「ん?行くか?」

「車出してくれ。」

久遠は手袋をはめ直すと立ち上がった。

「へいへい。」

2人は警察署を出るとまっすぐ病院へ向かった。

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