そのモノは語ってくれる

黒河内悠雅

想いはモノに宿る

想いはモノに宿る 1

残留思念とは強い思いが場所や物に留まるという精神世界、スピリチュアル、霊的現象、超常現象などに使われる言葉のひとつ。

これはその残留思念を感じ取れるある男の話。



闇の中にぽつんと永安久遠は立っていた。

辺りを見回しても全て闇に包まれている。

何となく歩き出し、一歩一歩前へ進む。

しばらく歩いているとぼうっと光が見えてくる。それは人の形をしていた。久遠はそれが何なのか確認したくなり歩みを早める。

だんだん近くなるその人型の光は誰だかはっきりと久遠に見せた。

「琥珀…」

真っ白い髪の毛に真っ白な肌。そして瞳は水よりも綺麗な薄い水色をした五年前に行方が分からなくなっていた双子の弟だった。

琥珀は悲しそうな寂しそうな怒っているかのような複雑だがシンプルな表情をしている。そのまま琥珀は振り返りどこかへ行こうと歩き出した。

「お、おい!琥珀!どこに行くんだよ!」

追いかけようとしたが誰かが足を掴んでいる感覚がして動けなかった。

琥珀はどんどん遠くなっていく。

「琥珀!おい!聞いてるのか!?琥珀!」

琥珀は久遠の声など聞こえないのか聞いてないのか振り返りもせず闇へと向かって行った。

何か嫌な予感がした久遠はさらに叫ぼうとした。しかし、喉から声が出ない。叫ぼうにも叫べずにパクパクと口だけが動いた。

(そっちに行くな!ダメだ琥珀!戻ってこい)

琥珀に久遠の声は届かなかった。


目を覚ますといつもの部屋、いつものベッドの上。

永安久遠は汗に湿った服に不快感を感じた。

「あーくそ…夢だったのかよ…。

琥珀のやつ、一体どこで何してるんだ?」

久遠は起き上がりベッドに腰掛けている状態になるとサイドチェストの引き出しを開けた。

そこには琥珀石で作られた万年筆がある。その万年筆は久遠と琥珀の父から琥珀へ送られた物だった。

じっと万年筆を見つめたあと、目を閉じ何かを感じようと集中する。

「…はぁ、やっぱりダメか」

しかし、いくら探っても何も見えたり感じたりはしなかった。

コンコンとドアがノックされる。久遠はぼーっと万年筆を見つめていたせいかその音に気が付かなかった。

「久遠?いるか?起きてるか?」

その声がいとこであり刑事でもある雄大の声だと気がつくと初めて声を上げた。

「あぁ…今、起きた。」

ガチャリとドアが開き雄大が顔を出す。

「おはよう、久遠。すげぇ汗じゃねぇか?

なんかあったのか?」

久遠は首を横に振りうなだれた。

「なんでもない…ちょっと暑かったんだ。」

そう言いながら久遠は自分の左の耳たぶを触る。それを見た雄大が久遠と並んでベッドに腰掛けた。

「嘘だ。また耳たぶ触ってる。嘘つく時の癖が残ってるぞ。」

久遠は雄大に言われハッとした。パッと手を下ろし右手に持っていた万年筆に目を落とす。

「琥珀のか…やっぱり夢でも?」

雄大の言葉に観念したように頷いた。

そんな久遠を見て雄大は頭をポンポンと軽く撫でる。

「まぁ、もうすぐ5年になるもんな…

あの火事になってから。」

ギュッと久遠は万年筆を握りしめた。

「……。」

雄大は立ち上がると大きく伸びをした。

「さてと!俺はそろそろ行ってくるか〜!

久遠、まだあいつのことは何も掴めてねぇが分かったら教えるから。」

「ありがとう。雄大も捜査で何かあったら俺に行ってくれ。出来る限り協力する。」

「おう!」

雄大はバシッと久遠の背中を叩くと部屋を出ていった。久遠も手袋をサイドチェストから出して。

これがあるのとないのとじゃ違う。

不意にとんでもない強い思いが込められた物を知らずに触れないようにするためだ。

久遠の叔母が経営する喫茶店では手袋をはめなくても問題は無いが出かけた時用に持つのが当たり前になっていた。

部屋を出て1人でリビングのソファに腰かける。テレビを着けるとニュースが流れてきた。

ぼーっと流れてくるテレビを眺めていると久遠のスマホが鳴った。

「もしもし?どうしたんだ?」

『あぁ、久遠?ちょっと俺のとこまで来れるか?』

電話の相手は雄大だった。

「今から?まぁ、いいけど。また遺留品?」

『まぁ、そんなところだ。』

「…わかった。」

久遠は電話を切ると上着を着て手袋をすると雄大の所まで向かった。

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