手紙:伏見、上前津あたり
拝啓 ほんの少しだけ春の心地を錯覚する二月の終わり、そちらは如何でしょうか。天国があるなら暖かかったり涼しかったりしてほしいけれど、四季がないのも味気ないし、想像しきれません。
わたしはあと一回くらいは雪が見たいです。
さて、改めて、勝手にあなたのことを書いてごめんなさい。歌やお話にかえてしまうのも、ついでにイニシャルのピアスをし続けるのも含めて。
流石に特定はされないと思うけど……やっぱりごめんなさい。もし万が一生きていたらもっとごめんなさい。
それから今日は、何でもないような反応してしまったけど実際は滅茶苦茶後悔していたし、している日の話をさせて。
あなたが名古屋に来ていて、わたしが路上ライブをしている金山に来てくれた日、あなたが実際に向かっていることに気づかずに帰ってしまったこと、本当はすごく後悔しています。
【季節】の日でしたね。あの日あなたから送られてきたリプライの通知メール(当時はTwitterの通知機能にメールがあったけど、今は多分ないです)は、何度も読み返しています。
その日は小雨が降ってきて、難しい『【楽曲名】』とかに挑戦して演奏ボロッボロだったのもあって「もう知らねー! 帰るか!!」って思っていたけど、あなたがすぐ近くまで来ていたって知っていたら絶対に帰らなかった。
ううん、なんなら一目あなたに会いたくて引き返そうかとも思ったの。……でも、歌を聴きに来ただけで会いに来られても困るかもとか、重いかなとか、もう移動しちゃったかなとか、色々考えて言うこともできなかった。
実はね、次の年から毎年、あの日は金山で路上ライブをしているのです。あの日と同じように浴衣で、雨が降ったら傘差し演奏で。
チョコレート味が好きだった冥王星Oよりは長いこと待っていようかと思って。
バカでしょう。でもバカがよくて。
今年も待っているから、よかったら聴きに来て。『明らかに高校時代の制服を着回している系女子大生と僕』も取り置きしておくから。
それでは、ひとまずさようならです。
あなたがあなたの思うようであることを祈っています。
敬具
令和四年二月二十八日
片手羽いえな
追伸 あなたのことを理由のひとつにして先輩を憎んでしまうわたしを許してくれますか。許さなくていいけど……ごめんなさい、少し聞いてみたかったんです。
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