11 これは小説家とは関係がなくて、
あの子の死後、わたしは手癖のようにTwitterの検索欄に『【検索ワード】』と入力した。
そうやっていちいちそのときに気になっているものについて調べるのがわたしの癖だ。今も。
それはあの子も興味を持ったであろう内容だった。あの子のことを思い起こしながら、検索結果を眺めていた。
わたしが読みたかったのは感想だけだった。
まさかそこで『【検索ワード】が好きなので【地名】や【地名】にいるかもしれません』だとか『遺書があった』だとか『△△県の○○○○』だとか『(学校名晒してるやつによる発言で)学校の同級生なんです』だとか『体格はどうこう』だとか『行方不明になった日時は……』だとか『拡散希望』だとか片っ端から送っているのであろうリプライだとか管轄の警察署の電話番号だとかそんなの見るなんて思わなかった。
他人に意識される自分を意識しないようにしながら外出しようとしてるのに出がけに家族に「今日の格好いいね」とか言われてうんざりしていたような人の写真が晒されてるなんて思わなかった。
【あの子の特徴】も、黒髪を【特徴】ことも知っていたけどそうじゃなくて。それを画像で見ることになるなんて思わなかった。
【関係ある人】に【何か】されたときのあの子の反応を鑑みたって、【中略】『必死で探してます【関係ある人】なんです』みたいな活動に血道を上げているなんて思いたくなかった。
みんなして、知らない人たちが寄ってたかってあの子の意思を無視して『生きてさえいればそれでいいはず』を押しつけるのを目の当たりにするなんて思わなかった。
結局生きて捕まることのなかったあの子の情報が書かれた画像付きツイートすら、わたしがツイート削除ツールを教えるまで消されなくて、
拡散に協力した奴が作ったスクリーンショット画像やFacebookにシェアされたせいで残ってしまった名前や人探しブログに転載された画像のキャッシュ(※ブログの人は記事自体はちゃんと消してくれる人だった)の後処理を探していた彼らが何一つしなくて結局わたしがすべての削除申請をすることになるなんて思わなかった。
まるでわたししかあの子を愛していなかったような光景だった。
ありふれた隣人愛すら残される側にのみ注がれて、あの子は無視されていた。
だって、そうでしょう。「生きていてほしい」という願いが正しかったとして、じゃあ、戻ってきたときのあの子に立つ瀬なんかあるの? 片っ端からリプライ送りつけるようなアカウントで自分の情報が拡散されていて、姓名も学校も出ていて、ただでさえ死にたいのにそんなことされて生きたいと思える?
いつか読んだ小説にもあったように、生きたまま殺されて叫び声すら上げられないのは、怖い。
わたしは、あの子の味方がわたしを除いて見つけられないことに、憎悪と愉悦と悲しみと苦悩と殺意と罪の意識と優越感と怒りと……色々な感情を一度に抱いて、寝込みたいくらいだった。
ほんとうに、気持ちの持っていき方がわからなくなった。
自分が何をしていたか、何をどうしたくて行動していたのか、すこし判然としないところがある。
あの子の友人にコンタクトを取ったときも、どういうつもりで地理について教えてしまったのかよくわからない。とにかく早くあんな探し方を止めてほしいと思っていたことは確かなのだが。
わたしはあの子を愛していた。
あの子の死後、あの子から預かった【何か】の扱いに困っている人物を見たときはなりふり構わず物品を奪い取りたかったくらいには。
それが【わたしも好きだったもの】かどうかは最早どうでもよかったくらいには。
でもだからこそ、あの子が教えずしっぽも出さなかった情報は一生知らなくてよかった。
(IPぶっこぬいて都道府県把握していたのはごめんだけど、そこはまあ本能)
あの子がわたしの路上ライブを聴きに来てくれた日に会えなかったなら、あの子の顔なんか一生見れなくてよかった。
会いたくて、顔が見たくて、声が聞きたくて、思っていること教えてほしくて、手に触れてみたくて、そこに立っているときの空気を感じ取ってみたくて、でもあの子が望まないなら何一つわたしには与えられなくてよかったのに。
どうしてわたしは今もあの子の顔を覚えていて、あの子の本名を覚えているのだろう。
どうして忘れたいとも思わなくなっているのだろう。
どうにかなりそうなくらい想っているはずなのに。
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