6 入間人間とエウロパと売れ線要素

“初期作品における、『都合のよさ』が鼻につくようになってしまっていた。”

“ファンタジーに求めるものは、その都合のよさだったのだ。読者層というものも踏まえて、僕はその点を大きく読み違えたのだろう。出会う女の子は主人公に無条件で惚れてしまえばいいし、主人公はやはり特別な存在として認知されるべきだった。

 作家としての自己満足に囚われて、読者への歩み寄りを疎かにしていた。”

(それぞれ、入間人間著『エウロパの底から』P40 L10、同著P41 L3~6 より引用)


 いきなり引用したこれは『入間人間が描いた主人公の独白』である。

 ……とかいう、いくらでも言い訳がきいていくらでも深読みさせられる状況からこの言葉が出てくるところは本当マジで最悪だったなぁと今でも思う。特にわたしみたいな、考えすぎて疲れてしまうタイプにとっては。


 それに、言い返したいことがすごく、すごくすごくあった。

 彼なりに"売れ線"と自分の距離を考えて上記の考えに陥ったことはわかる。頭では理解できる。

 実際数字で出た結果も、きっと上記の分析に近いものはあっただろう。わかるわかる、それも売れなくなった理由としてあるよね。あるかもね。知らないけど。


 そんな風に頭で認めてあげようとしたものの、何度読んでもわたしの感想は「バカにしやがってそこじゃねえわ」である。

 わたしは昔の作品の方が面白かったと感じていた読者の一人だが、“主人公の男の子がなんか無理やりモテる”などの要素については「まあ売れるのに必要……なのかなぁ……(若干浮いている気もするけど……)」と読み流していた側だったので。


 面白くなくなった理由なんか決まっている。

 入間人間が作中の登場人物につらくあたることにばかり注力したからだ。


 『都合のよさ』を手放した? とんでもない!

 彼がわかっているかいないかはよくわからないけれど、『都合のいい展開』と『過度に都合の悪い展開』は同じものだ。

 入間人間は最早『都合がいい』のと同じになるくらい『主人公たちに都合の悪い展開』を小説に叩き込み続けていただけだ。

 それを読者に押し付け続けていただけだ。


 人間はあまり頭のいい生き物ではないので、時折「苦労した方がいいものができる」「厳しい道の方が良いはずだ」「計算式を入力するより一つ一つ手打ちした方が誠実」「手書きの履歴書出す子の方がいいよ筆跡とか特に見てないけど」「より厳しい方が現実的だ」といった勘違いをする。

 入間人間も人の子ということだろう。押し付けられた上に「どうせお前ら甘くしないからだめなんだろ」と間接的になじられた身にはなってほしいが。

 この『エウロパの底から』は2014年3月25日発売の作品なので、ただの二十代の頃の若気の至り……だったらいいなと思う。

 もっといえばわたしが深読みしすぎなだけで『エウロパの底から』の主人公がそう思うような奴ってだけだったならいい。昔からわたしはアホなのであり得ないわけじゃない。


 最初の章でわたしは、誰かや何かを信頼するきっかけとして『手書きの文字が書かれた紙を踏まないように避けるような淡い敬意』を挙げた。

 『エウロパの底から』の主人公が言うところの「読者への歩み寄りを疎かにして」書いた小説は、『踏んだ方がリアリティがあるだろうという理由で理由で手書きの文字をわざわざ踏むような無体』を含むものだったのではないか。そんな気がしてならない。

 これでも冷めないのがわたしの百年の恋だったのだから、人生が楽しくないのも道理である。


 ただ、そんな中でも『都合のよしあし』をあまり感じさせない内容の小説はいくつかあって、中には人気の萌芽が見えだす作風の傾向も出てきた。

 それは、得意の心理描写とも相性のいい、女の子同士のお話だった。

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