4 入間人間とアガパンサス

 まず、最初に謝っておこう。

 一つ目の章でわたしは『入間人間の美点』を『溢れるほど言える』と言ってしまったが、嘘かもしれない。

 自分なんかの言い方で、愛しすぎていたせいでつんのめって語るそれで本当にいいのか大丈夫なのか日本語崩壊していないか伝わるか、色々心配してあまり上手く言えないかもしれない。


 だけど美点の一つも語らないで書き終えてしまったら流石に申し訳が立たないので、少しは頑張って書いてみようと思う。


 入間人間の文章には、自分の心の内側の輪郭を教えてくれるようなところがある。

 今まで知らなかったことを文章で知ったような気もするけど、同時に昔から知っていたことを思い出させてもらったような気もするのだ。


 特に子供など純粋な者の語りによる一人称の文章にはそれが顕著だ。

 子供の頃見えていて、今は見えなくなってしまった大切な友人にまた会えるような心地がすることすらある。

 素朴な感性がよみがえるようで。音楽でいえばピノキオピーの歌と同じものを感じる。


 いつか入間人間自身が出演したラジオで『そんなにわかって苦しくないのかなと思う』といったようなことを誰かが指摘していた気がするのだが(おかゆせんせいだったかなぁ……うろ覚えで、ちがったらもうしわけない)、まさにそれと膝を打ったことも覚えている。


 それから意外と独善的ではないところも美点だと思う。

 独善的ではないというか、独善的な流れや人物を書くときに、それをきちんと『独善的なもの』として書いている、という感じだろうか。

 昔は、お決まりに流されてきめつけてしまわないところが好きだった。


 わたしは、所謂普通の、一般的といわれる基準からは少しだけズレた感じ方をすることが多いようで、素直に生きてしまうと『ま~た捻くれてぇ~』という視線にさらされてしまう。

 だから上手くフェイクを使ったり、深い付き合いをする相手を慎重に選んだりしなければならない。

 本を読むときも同じになる。

 たとえば読んだ作品の恋心の描写について「少しだけ、個性的なのかも?」と思いながら読んでいたら『歪んだ恋!』『なんて狂った!』みたいな書き方を繰り返されてしまうとものすごく居心地が悪い。作者の人の文章といっしょにいるのがなんだかつらくなってくる。


 つまりどう言いたいかというと、たぶん……こういう心の形のわたしがずっと読んでいられた入間人間は、価値観の懐が案外広かったんじゃないかと言いたい。

 勿論(とは言いたくなかったが)、読んでいる者からすればわかるだろうけど、ちょっと勘弁してほしいくらいのきめつけや型に嵌めた描写もあるし、段々目立つようになってきているとも思うけど。


 あとは、もう客観的に綺麗に言えそうな部分がない(あるのは知ってる)ので、個人的な感じ方に振り切って並べる。小説の内容で感じたこともあとがきやサイトで思ったこともこの際ごちゃまぜだ。

 書いている登場人物がどこかにいそうな存在感をもっていて、かわいい人物が多い。余計腹立つこともあるけど、意外と正直だったり気にしいだったりする。あ、今照れたなっていう逸らし方が文章に残っているときがある。結構素直というか、色々なものに影響を受けやすい。タイムトラベルに対する考えをいくつも持ってて、どれも面白い。地の文の感じで誰の一人称かわかる。偶に感覚が伝わりすぎて痛いくらいに、登場人物の思い方が文章に乗っている(内心で素直な子が多いのもあるかも)。作品群が巨大な群像劇になっていて、何年か前から少し矛盾が生じるようにはなったけど、ときどき懐かしい人物に会えたり、懐かしいものを垣間見たりする。サインがどれもかわいい。ロマンチストで結構乙女チックなところも好き。文章に体温を感じて好き。優しすぎず冷たすぎないところが好きだった。


 やはり、美点だけ言おうと思うとすごく難しい。

 心はそれぞれ形が違って言葉との互換性もちょっとイマイチだから、感じたことをそのまま文章にすればするほど、そんなもの伝わりようがないのだ。後半ただの好きなところになっているし。

 わたしには作詞作曲の才能は趣味程度にはあっても、文章を長くたくさん書くことで詳細に気持ちを伝える才能はない。

 これくらいでも及第点がほしいので、この章はこの辺で逃げておく。

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