余命を言われたその日から

バブみ道日丿宮組

お題:私の春 制限時間:15分

余命を言われたその日から

 ブラック企業も笑っちゃうほどのブラック企業で働いてた。

 そして限界がきて、意識を失った。

 目が覚めると、そこは知らない天井であり、親の心配する顔が側にあった。

 恋人の姿はなかった。

 スマホを立ち上げて、メッセージを送っても反応はない。既読はつくのだけど。コールしても、やはり出なかった。

 そんなことより安静してなさいと母は言う。

 恋人って大事な存在だと思うんだけどな。

 それから、医者がやってきて、宣言した。


 余命宣告。


 それは人生の終わりを意味する言葉。

 3年は持たない。

 身体を酷使したせいで、肉体年齢は30歳なのに100歳過ぎになってたという。通りで身体が重いと感じてたわけだ。

 仕事を続けてもいいことはなさそうなので、辞めることにした。

 いろいろと上司が難癖をつけてきたが、社長に余命がもうないんですと直接伝えると、退職金を多くもらうことができた。

 社長がいい人なのに、会社は悪い。

 改善してほしいなと思うが、もう私には関係のない問題だ。

 入院生活は暇で、リハビリは大変だった。

 松葉杖なしの生活はありえないと言われて、そのとおりだと思った。

 退院できる頃には、季節は春になってた。秋に倒れてから、かなり経った。

 恋人は行方不明になってた。

 会社の同期も連絡が取れないとのことだ。それでもメッセージは既読になる。生きてるのか、あるいはスマホを奪われたのか。

 他人の心配をする前に、自分をいたわれ。

 やはり母が文句をいった。

 病院の側に咲いてる桜が舞い散ってた。これをあと2回見る頃には私は死んでるんだなって思うと、感慨深いものがあった。

 障害者手当というのがもらえることになった。

 退職金とそれでかなりのお金ができた。

 両親への恩返しとして、旅行に行くことにした。

 友だちとも日程を合わせて、旅行に行った。

 楽しい思い出ができた。

 それから2年経つと、身体がだんだんと動かせなくなってきた。

 3年って言ってたのに、2年しか持ちそうにないんじゃないか。

 それからしばらくして、意識を失った。

 起き上がると、また見知らぬ天井が見えた。

 そして行方不明だった恋人が側にいた。

 今までどこにいたとか、なんで会いに来てくれないとか、メッセージに返信くれないのかと、いろいろ言いたかったけど、『ありがとう』とだけ言葉にした。

 口にする頃にはまた意識が落ちて、再び目が覚めると親がいた。

 恋人が来なかったかと聞くと、ほとんど側にいたけど見なかったという。

 なんだったのだろうかと考えたが、気にしないことにした。

 もしかしたら、これから旅立つ場所で待っていてくれるかもしれない。

 そう思うと、安心して眠れる気がした。


 長い、長い、睡眠が私を誘った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

余命を言われたその日から バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ