序章『都市伝説⑤ 日常の一コマ』

 朝、裕人は電車に乗っての通学なのでいつも通りの時間に出ればいつも通りの電車に乗れる。

 電車を待っている間の少しの時間、そこでいつもの日常に少し変化があった。

 「あ、あのっ十崎くん?」

 ふと、声をかけられたので振り向くとそこには密音がいた。

 「あれ? 不来方ってこっちの電車だっけ?」

 「ええ、いつもは一つ前に乗ることが多いんですけどたまにゆっくりの時はこの時間の電車に―――――十崎くんも見ますよ」

 全く気付かなかった。

 朝は強い方ではないので注意力は散漫しているがだらしない姿を見られていたかと思うと少し恥ずかしかった。

 「声かけてくれればいいのに………………っても話したのは昨日が初めてか」

 二年の、しかももうすぐ夏だというのにクラスメートと話をあまりしないのもどうかと思うが、つくづく友人と呼べる人物が居ないことに少し悲しくなった裕人だった。

 「あ、わっ私が一方的にって感じなので…………それと、

 突然のお礼に裕人は驚く。

 「なんだ? いきなり」

 「こんな―――――突然変なこと言い出したのに十崎くんも神代さんも真剣に相談にのってくれて………………嬉しかったんです。私こんなこと相談できる人は兄意外居なかったから」

 寂しさを含む表情をし、だがそれも一瞬で表情を切り替える。

 「学校にも友達、居ませんから」

 ずーんと効果音が出ていそうなほど落ち込んでいる。

 見兼ねてなのかどう声を掛けるか迷っているとふと気付いたことがあった。

 「ん~」

 裕人は密音に顔を近付けまじまじと見つめる。

 「とっととと十崎くんッッッッッッ!?」

 明らかに動揺した密音は慌てている。

 「不来方って美人だよな」

 「ふぇッッッッッ!?」

 どこか抜けた声を上げると丁度電車がホームに到着するアナウンスが流れた。

 「お、電車がきたぞーってどうした?」

 そのまま密音は押し黙ってしまい、電車の中でも何やら甘い空気になっていたが本人は普通にしていたのだった。

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