序章『都市伝説③ 不穏な空気』
「ささっ、粗茶ですが」
気持ち悪いぐらいの
何とも奇妙な光景である。
片や見た目はギャルのオカルトマニア。
もう片方は裕人と同じクラスのあまり目立たない女子であまり明るい訳ではない少女。
「あ、ありがとうございます…………それにしても意外です。十崎くんがオカルト研究部だったなんて」
「オカルトだけに幽霊部員ってやつだよ。意外っていえば不来方も意外な所で会うな……」
不来方密音は春陽とは真逆な、大人しい優等生と言うイメージが強かった。
テストも上位で大和撫子をイメージした女の子だったが、まさか
そう思っていると春陽が席につき、何処かの司令官のように顔の前で手を組むと、
「さて、詳しい話を聞かせてもらおうかしら」
そう切り出した。
そう言えば何故彼女がここに来たのかを忘れていた。
少し言い辛そうにしていた密音だったが、意を決して語り始めた。
数週間前の事、彼女には三つ歳の離れた兄がいるそうなのだが突然奇妙なことを言い出したそうだ。
「アレが追ってくる…………異世界だなんてとんでもないアレは―――――アレはッッッ」
そう呟きながら二日ほど前に行方が分からなくなったそうだ。
「行方が分からなくなる前に兄からLINKで変なサイトが送られて来たんですが……元々兄も社交的な人じゃないんで職場にも連絡してなくて」
そこまで言うと密音は拳を握り締める。
「でも、両親が居なくなってから兄が私の為に色々と頑張ってくれていたのは知ってるんです! そんな不器用で人付き合いが苦手な兄でも―――――突然居なくなったり……しないんです」
密音はスマホを取り出しLINKの画面を二人に見せた。
兄と表示された画面には確かに謎のURLが貼り付けられてる。
裕人は黙って春陽と目配せをした。
思った以上に危険なことに首を突っ込もうとしているのではないか? 裕人はそう思っていたのだが、
「へぇ、じゃあそのサイトを私のスマホのLINKに添付することも出来るんだ?」
あ、これ一番駄目なパターンだ。
今の目配せは全く意味を成さなかった。
案の定、密音の表情は何とも言えない顔をしていた。
「あ、失礼」
ゴンッ! と鈍い音がしたかと思うと裕人は春陽の脳天に拳を叩き込んでいた。
そしてそのまま春陽の首根っこをつまみ上げ、ズルズルと引きずりながら部室を後にする。
廊下では春陽が蹲って悶絶している。
「このお馬鹿。今の話どう考えても厄介極まりないだろうが。何で首を突っ込もうとする」
いつもは春陽の無茶をある程度聞いてきた裕人だったが今回ばかりは無茶の質が違う。
上手く言えないが彼の〝勘〟がそう告げていた。
そんな裕人の心配を余所に春陽は自信満々に胸を張った。
「やる前から諦めるのは私の
思わず裕人は言葉が出てこなかった。
神代春陽という少女はこうなのだ。
わざわざ貧乏クジを引きに行く。
「―――――春陽、お前のそんなところは嫌いじゃない。でもヤバイことには首を突っ込むな」
春陽は出会った時からよく無茶をする。
本人に自覚は無くとも周りに居る者(特に裕人)はよく巻き込まれることが多い。
今回ももしかしたらという可能性があるのだ。
「むぅ、じゃあ不来方さんと
「―――――仕方ない」
短く「やったっ」と言うと部室に戻った春陽は早速密音に連絡先を教えてもらうよう懇願していた。
「ホント、大丈夫かよ………………」
裕人は頭を抱えて何事も無いように祈るばかりだった。
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