序章『都市伝説② 前途多難』

 私立『黎明れいめい学園』―――――若人は新しい時代を築いていく、という意味を込めて設立された学園であり割りと自由な校風も魅力の一つであった。

 部活、サークルの数は把握しているだけでも大小合わせて二十以上もあり裕人や春陽が所属する『オカルト研究部』もその一つだった。

 「掲示板に情報を求めた結果誰からも来ないってあり得る!?」

 部室に響く第一声は春陽の怒声だった。

 どう頭を捻っても良い案が浮かばなかったので結局は黎明学園の生徒に情報を求めたが、結果は散々だったのが理解できた。

 「まぁ…………でしょうね」

 反対に裕人は冷静だった。

 そもそもあるかどうか分からない都市伝説を一般人に求めている時点で詰みなのだがそこは言わないのが裕人の優しさだった。

 「ってか来週から俺ら中間テストだぞ? 今頃必死で勉強してるから『部活動掲示板こんなもの』誰も見てないって」

 そう、今は五月の半ばで季節柄中間テスト前なのだ。

 幾ら〝自由な校風〟というのを掲げていてテストと言うのは学生の性なのだ。

 頬を膨らませ「つまんない」と口を尖らせている春陽だが、普通にこの二人もテストを控えている身なのだが勉強をしている気配は一切無い。

 「一応、設楽木したらぎ教諭にはしばらく掲示板に貼らせてもらえるよう交渉はしてみるから今は落ち着け」

 と言いつつも学年主任である設楽木という教師は勉強第一の教師なので希望はほぼ絶望的だが、こうでも言ってないと本気で春陽は勉強をしなさそうなので一応は宥めてみる。

 「設楽木シタラーノか……あのセンセ―頭固いからなぁ」

 良かった。

 そこまで頭は回るらしい。と少し安心した。

 正直裕人と春陽は赤点常習者なので教師達のイメージはあまり―――――というよりかなり悪い。

 そこを理解しているだけでも十分だ。

 さぁ本当にどうしたものか、そう考えていると不意に部室の扉をノックする音が聞こえてくる。

 「あゃ? お客さん?」

 珍しいこともあるものだ。

 失礼な話だが、オカルト研究部こんなとこに来る生徒なんてまぁいない。

 と言うか初めてである。

 軽い足取りで春陽が扉を開くとそこには見覚えのある女子生徒が立っていた。

 「えっと―――――貴女は?」

 春陽が訊ねると大人しそうな少女はゆっくりと口を開いた。



 「あの………………う、噂を調べてるって…………ド、『異界渡り』の」



 予想外の人物から聞きなれた言葉が飛び出てきたのだった。

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